Ray.O@創作

Open App
6/27/2024, 12:20:27 AM

【君と最後に会った日】

「ごめん、君のこと、好きになれなかった」

そう私が告げた日に、あなたは遠くへ行ってしまった。

事故だった。研究室で起こった火災と爆発に巻き込まれたと、ニュースになっていた。それて知った。逆にそれ以上のことは、何も知らない。知らされていない。なぜなら私が他人だから。

それでも、考えてしまう。もし、私があなたのことを好きになれていたら、あなたは愛を感じてこの世を去れたのだろうか。でもきっとそんなことしてしまったら、私の心が持たない。

でも、ばっかりだ。この思いが恋かは知らないが、確かに愛だった。嫌いではなかった。ただ、君に恋はできなかった。それは紛れもない事実だ。

あの日の伏し目がちな瞳が、そっか、と無理に笑った顔が、段々と記憶から薄れていくことが今は恐ろしい。

あなたはいなくなってしまった。私に一生物の傷を残して。

6/24/2024, 9:44:15 PM

【1年後】

同じ大学の同じ学部、学科、学年で、ひとつ上の彼女は、とても聡明で人柄も良く、才色兼備な人だ。大人っぽくて悟っているような、でもどこか幼いところもあるような、そんな人だ。

前、ふと気になって、「どうしたらそんなに大人っぽくなれるの?」と尋ねてみたことがある。すると、ふ、と笑みをこぼしてから、浪人したからかなぁ、と冗談めかして言った。

「もうこの夢は叶わないんじゃないかって、本気で思ったことあるよ」

やわらかいアッシュの髪が揺れる。

「後悔ってした?」
「したよ、なんでもっと勉強しなかったんだろう、とか、なんでこんな夢持っちゃったんだろうって」
「今は?」
「してないかな」

周り道が私を強くしてくれたから。多分今の私があるのは、あの1年のおかげだよ。1年前の私には想像つかないだろうけど。
それに、周り道してこなかったら君にはきっと会えてないから。

そういうあなたの笑顔がずるい。

辿ってきた道は違うけれど、1年後にあなたみたいになれたらいいなと、思っているのは内緒。

6/23/2024, 9:46:01 PM

【子どもの頃は】

かわいらしくない、冷めた子どもだった。プレゼントもサプライズも苦手、クリスマスのからくりには早々に気がついて、苦言を呈するような子どもだった。同級生とはもちろん馴染めず、いつも大人が友だちだった。頭は良かったから、秀才キャラで生きてきた。

アニメにも興味なし、ひたすら本ばかり読む私に、先生という先生はなにかといちゃもんをつけてきたが、根拠がなさすぎて一蹴した。最初の方こそ罪悪感はあったが、背に腹は変えられないから致し方ない。

1年ほど前に、母に引きずられるようにして病院に行った。私には病名がついた。社会的には私は生きづらい人間、らしい。ひどく安堵した顔を見せた母に、私は不思議な気持ちになったが、まあ、母のこんな顔はなかなか見たことがなかったから、そういうものなのか、よかったよかった、と思うことにした。

その話をすると、たしかに変な子だったもんねー、そんな感じしたもん、と笑う周りに、見てもいないくせに、と言いたくなってしまう。

勝手に人を変だとか変じゃないとか言うことは勝手だが(ちなみに私は変人という言葉は褒め言葉として受け取るようにしている)、そんなことに構っていられるほど暇じゃあない。変かもしれないけど、それが私。

6/23/2024, 7:25:38 AM

【日常】

眠くなってくる昼下がりに、自動販売機でコーヒーを買う。生暖かい缶を開けて口をつけると、苦さに思わず驚いた。無糖だったらしい。苦いものは苦手だけど、買ってしまったものは仕方がない。

コーヒーを片手に、ぼうっとした頭で考える。相当、参っているみたいだな、と自分で自分に呆れた。あーあ。なんで振っちゃったんだろ。目を擦るとコンタクトが外れそうでやめた。

昨日の夜、2年付き合っていた彼氏を振った。理由はお互いの忙しさからだった。時間が取れない。ろくに会えない。できるのはDMだけ。だんだん会えないのに話しているのがしんどくなって、振ってしまった。

ごめん、もう話してるのがしんどいや。

今朝方、目が覚めたら、あなたから「わかった」とだけ連絡が入っていた。それを見て、なぜか涙が出てきた。

願わくば、あなたの日常になりたかった。なっていたはずだった。でもどこか、違う気もした。でも、違うことも違う気がする。

全部私の勝手だ。好きすぎて、勝手に暴走して、たくさん迷惑をかけて、心配させた。情緒不安定でごめん。恋愛不適合者でごめん。あなたのこと好きでごめん。バカでごめん。最低な女でごめん。

スマホを取る。キーボードに指を滑らせる。あなたの日常から私が薄れる前に。

「昨日はごめん、大好きだよ」

6/22/2024, 2:04:10 AM

【好きな色】

あたり一面を揺れるペンライト。沸き上がる歓声。リボンとフリルに彩られた衣装に、編み込みたくさんのツインテール。とびっきりの笑顔で、ステージに飛び出す。

「ゆらめきアクアマリンブルー担当、ユリカです!」
ペンライトの波が大きくなる。ありがとう、と手を振る。そんな私は、色がわからない。

「色盲だね」
医師にそう告げられた時の母の顔が、今でも私の目には焼き付いている。5歳の夏だった。

母は、私がカードゲームをしている時に違和感に気がついたらしい。みんなが、赤、青、緑、と呼ぶそれは、私にとっては理解が難しいものだった。

色の違い、彩度の違いがわからない、というのはなかなかに致命傷で、信号の色も左右の配置で覚えたし、暗記のための赤セルも使えなかった。いじめられることは幸いにもなかったが、何かと気を使われることは多かった。

でも、私にだって、太陽の温かさはわかるし、空の開放感はわかる。映画だってテレビだって好き。コスメも大好き。歌うことも踊ることも好き。だから私は、アイドルになろうと思えた。

ペンライトの色も、私にはわからない。でも、みんなの愛は確かに伝わっている。みんなが好きと言ってくれるから、私は私の色が好き。

Next