【好きな色】
あたり一面を揺れるペンライト。沸き上がる歓声。リボンとフリルに彩られた衣装に、編み込みたくさんのツインテール。とびっきりの笑顔で、ステージに飛び出す。
「ゆらめきアクアマリンブルー担当、ユリカです!」
ペンライトの波が大きくなる。ありがとう、と手を振る。そんな私は、色がわからない。
「色盲だね」
医師にそう告げられた時の母の顔が、今でも私の目には焼き付いている。5歳の夏だった。
母は、私がカードゲームをしている時に違和感に気がついたらしい。みんなが、赤、青、緑、と呼ぶそれは、私にとっては理解が難しいものだった。
色の違い、彩度の違いがわからない、というのはなかなかに致命傷で、信号の色も左右の配置で覚えたし、暗記のための赤セルも使えなかった。いじめられることは幸いにもなかったが、何かと気を使われることは多かった。
でも、私にだって、太陽の温かさはわかるし、空の開放感はわかる。映画だってテレビだって好き。コスメも大好き。歌うことも踊ることも好き。だから私は、アイドルになろうと思えた。
ペンライトの色も、私にはわからない。でも、みんなの愛は確かに伝わっている。みんなが好きと言ってくれるから、私は私の色が好き。
6/22/2024, 2:04:10 AM