最低気温-2度。まぁ、雪国じゃあそんなもん屁でもないし別に苦なわけじゃない。
「うわーさみぃ。なぁ、走れよ。学校ストーブついてんだから早くあったまりたいんだよ」
「はいはい。んなガキみたいなこと言ってバカなの?走ったら転ぶし危ない…というか走ったら体も暖かくなる…いや本当にどんだけバカなの?」
「そんなことはどーでもいいから。ほら、早く行くぞ」
コイツが先頭立って先を急ぐから慌てて腕を掴む。
「おい、本当に危ないからいつも通り歩けよ?学校着くまで離してやんないから」
残念残念って言いながらも嬉しそうにまた歩き出す。いい歳して手を繋ぎながら歩くなんて自分もやっぱりガキなんだなって思い知らされる。
「…あ、そうだ。今年俺ら受験生じゃん?俺点数だいぶ低いからお前に教えてもらおうって思ってて」
いつもは勉強教えてもらうのを躊躇うくせに今更教えてって無理があるだろ。まぁ、でも成長したってことだよな。
「ん?なぁ、聞いてんの?返事しろよー。」
「いつ?何時からがいい?」
「毎日行くから。朝早くから夜まで。そんで年末はお前ん家で過ごすわ」
「は?毎日って…まぁ良いけど。せっかくの冬休みなのに可愛い女子とかと遊ばんの?つい最近も告られてたじゃんか」
「俺はどこぞの可愛こぶった女子と過ごすよりお前といた方が心地良いんだよ。それにお前の両親旅行で居ないんだろ?」
「それは別に平気だよ。良いよ、自分の家に居なよ」
「やだ。最近お前無理してるし放っておけるかよ」
はぁ。やっぱりバレてたか。最近は委員会の仕事とか他の奴らから頼まれた仕事で徹夜とかして寝れていなかった。なんで気付いちゃうかなー、本当。
まぁ、でも今年は毎日コイツと過ごすことになるんだな。冬は一緒に…じゃあ、クリスマスプレゼントでも買ってやるか。
「あ、お前手袋してないじゃん。俺のこと見習って防寒具くらいはちゃんとつけろよ?ほら、手」
あー本当にこういう所気に食わない。ちょっとは相手の気持ちも考えろっつーの。
「天然のたらしか」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもねーよ。早く学校行くんだろ?」
今日もまたコイツと賑やかに通学路を歩く。
題材「冬は一緒に」
んー?何?あー、えっとね、君は私にとって可愛い存在だね。子ども、いや違うか。弟みたいな?
えー君は一番特別だよ。だって隣の席だし私より数学できてるから教えて貰えるし。逆に君は英語が苦手なんだから私が教えられるし。一番近い存在って感じ?わっかんないねー
何が好きかって?んーそうだな、食べ物ならチャーハン。あ、そういうことじゃない?うん、知ってる。君が聞きたいのは好みのタイプのこととかでしょ?からかってあげただけ。
あ、そうそう逆にさ、君にとって私はどういう存在?みんなと同じで男友達みたい?それとも可愛いとか思ってくれてるの?うわ、嬉しいー。私のことちゃんと女の子として見てくれてるんだ
え、彼女作るって!?ダメダメ。それはダメだよ。だって私がいるじゃん?どういうことって、ほら、私が許可した人しか付き合っちゃダメ。ダメな人は君を苦しめちゃうから。
えーっと私にとってすごく可愛くて特別で。手放したくないし自由でいて欲しい。弟みたいだけど男らしいなって思うこともあって。え?つまり何が言いたいかって?それはねー…自分でもわかんない笑
私が言いたいこと、君が好きなように捉えて良いよ。じゃあ、私待ってるからね。何をってそれも考えてー私もわかんないから。
題材「とりとめもない話」
37度8分。なんだ、平熱か。この火照りは気のせいか。それなら今日も学校行かないとな。
巨大な岩のように重く肩にのしかかる勉強道具が今日はなんだか重く感じられない。それもこれも全部風邪のせいだよな。
教室に入るなりマスクを珍しがるクラスメイト達。なるべく喋らないように努力はしたかった。
「おはよ。あ、マスクしてる。風邪ひいた?俺に移して?冗談だって。なぁ、何とか言えよ」
こ、コイツが来ると勝手に口が動くんだ。
「朝っぱらから賑やかなお坊ちゃまだこと。こちとら喋らない努力してるんですが察してはくれませんの?何様だごら」
文末表現も全部が滅茶苦茶だった。
「お、やっと喋った。やっぱ鼻声なー。大丈夫そ?無理すんなよ。」
は…なんだ、意外に優しいじゃん。更に熱が上がるような予感がした…はずだった。
「まぁ、だからと言って構って貰えないのは寂しいし?意地でも喋らせてあげるからたんまり構ってね♡」
コイツ…本当に…期待した自分が完全に馬鹿だった。
「好き勝手言いやがんな。そんなに構ってもらいたいなら教材の一つや二つ持ってこいや。あんたの大っ嫌いなお勉強たんまり教えてあげるよ♡」
「参りました。今日はなんなりとお申し付けを」
朝から騒がしく1時間も授業をしてないくせして疲れ果てる。頭もボーッとして風邪の恐ろしさを知る。
「おい、でも無理はすんなよ。どうせお前の事だから37度後半でも出てんだろ。ほら、先生来るまで俺に寄りかかってろよ」
「…ん、さんきゅ」
いつもはウザイのにこういう時は自分のことをコイツが1番知ってて寄り添ってくれる。コイツの優しい匂いに安心してボーッとする頭をこつんと寄りかからせる。はぁ、ほんと惚れちゃうよ。なんで恋人いないんだろうな。
題材「風邪」
白くて軽くて綺麗で神秘的で。そのくせ手に触れた途端体温で溶けてしまう。水となった液体もとどまるということを知らず滴り落ちていく。儚い。淡い。切ない。
10℃以下の部屋を後にして学校へと向かう。晴天。踏みしめる雪はきしきしと音を立てる。呼吸をする度に現れる白さが忌々しい。特別なことなんて何一つもない、今日も。ただ学校へ行き家に帰り眠ることの繰り返し。
PM4:00.カーテンで締め切った教室は外の世界とは遮断されたようなそんな空間だった。
「雪降ってきた。今日車呼ぼうかな」
「あ、私も車呼ぶわ」
そんな会話を聞いて外が晴天ではなくなったことを知る。厄介だな。でも帰りなら髪が濡れても問題ないか。
そして私は外へ出る。少し時間をずらした今は歩く生徒が見られない。風が強いわけでも降る雪が多いわけでもない。心地よい寒さが手をかじかませるような感覚。雪がまとわりつく度に溶けていく。掴めそうで掴めない存在が煩わしい。付いた雪を落とすことすらできずに濡れていくことを覚える。
PM9:00.雪が止んでしまった空に青さは残っていなかった。私にとって邪魔な存在。しかしいざ無くなってみると少し寂しいような気もする。外へ出てわざと大きくあくびをした。白い息が不思議と忌々しくなくてどうでもよかった。ただただ降り始める雪を待つばかり。1枚降りてきた雪はいつも通り手に触れては溶けて滴っていくのだった。
題材「雪を待つ」
私が初めて夜に灯されるその光を観たのはそう幼くはなかった。私の両親はあまり外出することを好まなかった。外出するのは年に2回ほど。家族全員が一緒でなければならないという。そのため、街中の外を見るのは食料品などの買い出しの時くらいだった。
最後にイルミネーションを観たのは去年の冬。私が彼女を連れて街へ出た時だった。年に1度。そのくらいの頻度でしか許して貰えない個人的な外出。私は部活の大会先で出会った彼女とともに時間を過ごすことにしたのだった。彼女を好きになって彼女と交際を始めて2年が経っただろうか。学校が違う故に毎日会える訳ではない。お互い時間が合わずなかなか連絡を取るタイミングも未だに掴めていない。会う時は大会か競技場での練習のみ。
そんな彼女との1日は私にとって特別なものだった。クレープを頬張る姿は愛おしくて気づかれぬようカメラに収めた。寒いねって呟いたから私は進んで彼女の手を握ってあげた。そして公園へ行き灯されたイルミネーションを2人で観た。彼女は幼子のようにはしゃぎ私にはにかむ。光がフィルターのように変わり、彼女を見つめる私の胸は高鳴った。好きなんだと改めて実感するかのように。撮ってよって笑う姿は私のアルバムに今でも残っている。
今年4月。3年のシーズン初の大会。
「あのさ、伝えなきゃいけないことがあるの」
「どうしたの、部活の話?それとも学校の話?」
彼女はにこやかにそして冷ややかに言った。
「私ね、彼氏が出来たんだ」
「…え」
「ごめん、伝えるタイミングが見つからなくて」
「…。そっか…おめでとう」
「うん、ありがと」
「じゃあ別れたいって事だよね。ごめん、気づけなくて」
彼女の顔が一気に曇る。
「…嫌、別れたくない。だってあなたは同性じゃない?あなたとの関係は続けていたいの」
それはどういう…いや、いずれにせよ、彼女は私じゃない誰かを選んだ。私の知らぬ誰かを。
「ううん、別れよう。それは欲張りすぎだよ。いくらなんでも彼氏さんに申し訳ない。幸せになりなよ」
思えば、彼女と恋仲としての会話はそれが最後だったのかもしれない。なんの前ぶれもなく訪れた別れ。彼女。いや、君とは友達でもない知り合いの頃に戻った。そして私は君の連絡先をこっそり消した。それなのに君の写真は未だに消せていないんだよ。おかしいよね、きっと君に未練なんてもんが残ってんだよ。君は笑ってくれるかな。
君は頻繁に彼氏さんとのストーリーをあげてるんだって?仲良くやってるのなら良かった、幸せなんだね。私は幸せにしてあげられなかったから。でも私も少しは成長したよ。君と付き合う前から私へ好意を寄せてくれていた子と仲睦まじくやってる。もうじき告白してくれるって人づてで聞いたんだ。君はもう私のことを気にも止めていない?イルミネーション。今年は彼と君との思い出に上書きするから。君とは出来なかったキスだってするから。だから…だからお互いにもう忘れよう、今までのこと。本当にありがとう、さよなら。
題材「イルミネーション」