椋 muku

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私が初めて夜に灯されるその光を観たのはそう幼くはなかった。私の両親はあまり外出することを好まなかった。外出するのは年に2回ほど。家族全員が一緒でなければならないという。そのため、街中の外を見るのは食料品などの買い出しの時くらいだった。
最後にイルミネーションを観たのは去年の冬。私が彼女を連れて街へ出た時だった。年に1度。そのくらいの頻度でしか許して貰えない個人的な外出。私は部活の大会先で出会った彼女とともに時間を過ごすことにしたのだった。彼女を好きになって彼女と交際を始めて2年が経っただろうか。学校が違う故に毎日会える訳ではない。お互い時間が合わずなかなか連絡を取るタイミングも未だに掴めていない。会う時は大会か競技場での練習のみ。
そんな彼女との1日は私にとって特別なものだった。クレープを頬張る姿は愛おしくて気づかれぬようカメラに収めた。寒いねって呟いたから私は進んで彼女の手を握ってあげた。そして公園へ行き灯されたイルミネーションを2人で観た。彼女は幼子のようにはしゃぎ私にはにかむ。光がフィルターのように変わり、彼女を見つめる私の胸は高鳴った。好きなんだと改めて実感するかのように。撮ってよって笑う姿は私のアルバムに今でも残っている。

今年4月。3年のシーズン初の大会。

「あのさ、伝えなきゃいけないことがあるの」

「どうしたの、部活の話?それとも学校の話?」

彼女はにこやかにそして冷ややかに言った。

「私ね、彼氏が出来たんだ」

「…え」

「ごめん、伝えるタイミングが見つからなくて」

「…。そっか…おめでとう」

「うん、ありがと」

「じゃあ別れたいって事だよね。ごめん、気づけなくて」

彼女の顔が一気に曇る。

「…嫌、別れたくない。だってあなたは同性じゃない?あなたとの関係は続けていたいの」

それはどういう…いや、いずれにせよ、彼女は私じゃない誰かを選んだ。私の知らぬ誰かを。

「ううん、別れよう。それは欲張りすぎだよ。いくらなんでも彼氏さんに申し訳ない。幸せになりなよ」

思えば、彼女と恋仲としての会話はそれが最後だったのかもしれない。なんの前ぶれもなく訪れた別れ。彼女。いや、君とは友達でもない知り合いの頃に戻った。そして私は君の連絡先をこっそり消した。それなのに君の写真は未だに消せていないんだよ。おかしいよね、きっと君に未練なんてもんが残ってんだよ。君は笑ってくれるかな。
君は頻繁に彼氏さんとのストーリーをあげてるんだって?仲良くやってるのなら良かった、幸せなんだね。私は幸せにしてあげられなかったから。でも私も少しは成長したよ。君と付き合う前から私へ好意を寄せてくれていた子と仲睦まじくやってる。もうじき告白してくれるって人づてで聞いたんだ。君はもう私のことを気にも止めていない?イルミネーション。今年は彼と君との思い出に上書きするから。君とは出来なかったキスだってするから。だから…だからお互いにもう忘れよう、今までのこと。本当にありがとう、さよなら。

題材「イルミネーション」

12/14/2024, 12:45:14 PM