―【 春爛漫 】―
…
「ね〜ぇっ!早くしないとおいてくよ〜!」
そう、元気な若々しい声が春爛漫の中で響いた。花が暖かい日差しに照らされ、
水やりをした際の残った水滴が反射でガラス玉のように光輝いている。
4月、高校2年生に進級した。専門学校と言うこともあって1年の時は色々なことをしていた。
そして、1年生の終わりの時…2年生になったら、何か変わるんじゃないか。とか、
急にそう思ってしまって。不安だらけで曇ったすりガラスのような気持ちになって、
それ以上考えられなかった。
「……?どしたのっ?そんな暗い顔して、…あ、お腹空いたっ??
何かあるかな〜…お菓子とか。」
呑気なボケを言い放ちながら、黒髪を揺らし彼女はバッグを巣穴を掘る様に漁っている。
私は、そんな彼女を川沿いの石を見るかのような目で見つめた。
「えっ゛……何その顔〜っ!なになに!?
間違えたとか!?お腹空いてないのっ!?」
そう全てを見透かしたと思っていたであろう、驚いたように彼女は言った。
「…むむむ、……まあいいや!…あ、そういえば!2年生になってもうすぐあれだよ!
あれ!…絵描くやつ!あれちょ〜~っあたし楽しみなんだよねっ!……あ、締め切り…。
……やっぱ前言撤回!!!」
そう、わちゃわちゃとしてる彼女がなんだか面白く感じて。
私は抑えながらも、少し笑いが溢れた。
「なに笑ってんの〜っ!ねえひどーいっ!笑」
春爛漫の中で2人の高校2年生の女の子が、笑い合っている。
風でどちら共の髪が揺れ、色が混ざり合っている。
突然、彼女はピタリと止まり…口を開いた。
「……あれ、ね、ねえ!今時間何時っ!?もうそろ遅刻じゃないっ!?」
私は慌てて腕時計で時間を確認する、
あと3分でチャイムが鳴ってしまうそうだ。
黒髪がブワッと驚いたように上がり、目が見開かれる。
「 さ ん ふ ん !? えっ!?急がなきゃじゃん! 」
そうわたわたと慌ててビシッと背筋を伸ばす黒髪。
私は笑いながら淡々と歩き出し、彼女を置いて教室まで走っていった。
放心状態だった彼女はビクッと意図に気付き「あー!」っと口に出した。
「ねえ~!!一人だけ遅刻を免れるつもりだなあ!?
きーさーまーっ!外道!さいてー!裏切りものぉ〜っ!!」
そう悲鳴じみた声が聞こえたが、それをも無視した。
「早くしないとおいてくぞー?笑」
私はそう言い教室へと足を踏み込んだ。
春爛漫の朝、チャイムの音が鳴り響いた。
―【 誰よりも、ずっと 】―
…
「……お前、なんでさっき…【他の方とは比べ物にならないくらい、俺は違います】
…って、言ったんだよ。……違うってなんだよ。」
そう、彼は俺の事を真っ直ぐと…狼が獲物仕留めた後、その死体が動いた時のような…
未確認生命体を見つけたときの様な、不安と心配の混ざった目で見つめて言いました。
髪の毛が月明かりに照らされ、俺が水面を眺めていても…ジッと見つめてきて、
なんだか心地よい様な…悪い様な。
彼が何かを考えるような素振りをして、首をかしげて…
俺に何か言おうとした後、口を閉じ…また口を開きました。
「……なんも分かんねえ。お前の事」
一生懸命考えているのに、分からないなんて。なんだか可愛いなと思い少し微笑みました。
俺は一歩でも分かりやすく出来るよう…ちょっとした例え話をしました。
彼は真剣に聞いていて、深夜の暗闇の中では琥珀色の目が光輝きよく映えました。
なんだかそれが、懐かしくて。照れくさくて…俺も人間みたいになったなと思いました。
「………。」
彼は、無言でただ俺を見つめて居ました。色々な感情が空きビンに詰まって、
開かなくなってしまった様な。そんな複雑で不思議な顔。
何処か現実を受け止められない、星空をゆらゆらと舞うクラゲのような感じでした。
なんだかそれが可笑しくて、可笑し過ぎて少し困ってしまって。
また、空白を埋めるように。俺は微笑みを彼に向けました。
「なんで、…お前はそんな事言うんだよ。分かんない、ああ分かんねえよ。
分かりたくもねえ…!……でも!それでお前は哀しくねえのかよ…!
……誰にも理解されずに、普通ちょっとは哀しいとかあるだろ…!」
…彼は必死に、縋り付くように俺に言いました。
声を発し、セイレーンのような面持ちで。
でも俺は生きてゆくから、哀しくなんてないんです。
人間でもない、不完全な生き物。
これから何億年も、何前兆年も生きてゆく中で、そんな事を気にしてられない。
彼は黙って、ひまわりが凋んだ様に月を見上げました。
夜風がふき彼の髪を撫でるように動かしていて、それが凄く美しく感じて。
……もし、彼が「俺みたいに生きられたら」。なんて馬鹿みたいなことを考えました。
…でも、いつか終わる彼の命と人生。
この景色が朽ち果てようと、この世界が滅びようと。
俺は必ず彼の事を覚えていようと思いました。
俺は、誰よりも、ずっと。
彼の事が大好きだから。
―【 これからも、ずっと 】―
…
「俺は人間ではありません、だから生きた年も貴方達とは瓜の数程違います。」
長身の男は、深夜の海に反射する命の数ある星が浮かんだ夜空を目を細めながら見つめていた。
涼しい夜風が鼻を冷やし、少し身震いを俺はしたが…長身の男は動ずることもせず、
ただ。口を閉じ、ゆらゆらと優雅に揺れる海を眺めていた。それを見て俺も口を閉ざさるおえなかった。
少し考えてみた、…だが俺は彼がどれだけ生きているのかは屍になるほど理解出来なかった。
俺は暗闇の中、風に揺られながら首を傾げた。
そして、ふと…また長身の男が口を開いた。
「…例え話をしましょうか。…貴方達が見ているあの夜空に舞い満ちる星々より、
どこまででも進んでもある線路のような海より。ここからでは手も届かない宇宙よりも、
俺は、ずっと。ずっとずーっと…生きています。」
懐かしみ、そして何処か哀しむ様に。彼は相変わらずの不思議な、
優しく海底に引きずられているような、プラネタリウムで一人孤独でかくれんぼをしているような、
そんな上品だが隠し所のない人外と分かる、いつもの声で話した。
たが、その内容の意味を、俺はあまり理解出来なかった…いや、出来ないんじゃない。
理解したら、壊れてしまいそうな。
この魂が永遠と続くような言葉を、簡単に分かった気でいたくなかった。
「……分かりますか、
…いえ、分からなくても良いんですよ。」
長身の男は困った様に、無機物な微笑を俺に向けた。
「いいえ。むしろ、分かんないでいた方がいいんです。
……貴方が、分かんなくても。理解を拒んだとしても」
長身の男は立ち上がり、月を虚ろな目で見上げた。
「これからもずっと、俺は生きてゆくので。」
「……それは、それだけは。一生変わらないので」
そう、彼は振り返り…告げるように静かに言った。
……今日も月は綺麗だった。
これからも、ずっとこの景色は続いてゆくのだろうか。
それとも、変わってしまうのだろうか。
それは分からない。分かるはずも、俺にはなかった。
でも、変わるのなら…その時には、彼とまた月を見ていたいと思った。
…それまで、これからもずっと。
俺は生きていけるだろうか。