私は今日で成人する。
この村はちょっと特殊で17歳で成人なの。
成人したらやりたいことがあったんだ。
おじいちゃんが残した本に書かれてた「白い金木犀」を探しに行くの。白い金木犀はね、この近くにはなくて、ずっとずーーっと東に行ったところにあるんだって。
白い金木犀はお日様の匂いがして、落ちてくる様子はまるで雪が降ってるみたいらしいよ。
すっごく、見てみたい。感じたい。
おじいちゃんが残した、守り抜いた白い金木犀を。
今日、その旅の出発点にたった。
いつ終わるかわからない旅を、さあ、始めよう
『終わりなき旅』
彼女と喧嘩をした。
彼女は怒って家を飛び出してしまった。
ただ、今回は俺だけが悪いわけではない。
少し頭を冷やせば帰ってくるだろ。
俺の話なんか全部反論してきたし。
勝手にしてれば良いじゃないか。
…まだ帰ってこない。
どうしたんだろう。電話をかけても出る様子はないし。
普段ならもうご飯の時間はとっくに終わっているのに、食卓の上には2人分のご飯が冷めて残っている。
俺もだいぶ冷静になった。
あの時はまともな考えができていなかった。
とにかく自分の意見を曲げず、非を認めようとしなかったのだ。
…おかしい。だめだ。帰ってこない。
誰か変な人に誘拐された?
誰か違う男の家に行った?
考えれば考えるほど不安が募り、居ても立っても居られなくなる。
日を跨ごうとしているこの時間に上着を羽織り、彼女の上着を持ち、車の鍵を掴んで家を飛び出した。
くそっ…。ここにもいないのかよ…。
ここで4箇所目。よく2人で行っている場所、彼女が好きなところなどをひたすら探しているが全く見つかる様子はない。
あいつがよく行く場所…思い出せ…。
…公園。あの公園にはまだ行っていない。
そうだ。デートの帰りによくあそこで駄弁ってた。
そうと決まれば、急げ。
電話…出てくれ…。
「おかけになった電話をお呼び…」ピッ
ちっ、出ねぇ…。なんでだよ…。
俺はなんであんなに怒った…?
俺はなんであいつが出てってすぐ追いかけなかった…?
だめだ。今はまずあいつを見つけることだ。見つけて、謝る。これが最優先だ。
やっと着いた。どこだ…いるか…?
いない…。嘘だろ…。
ほんとにどこ行っちまったんだよ…。
電話も出ない。
公園の中、1人ブランコに座り考える。
他に…他にどこがあるんだよ…。
メールを開く。何も来ていない。
もしかしたら、もう家にいるかもしれないもんな。
一回帰ってみよう。
どうしよう、いなかったら。
車の中で揺られながら思考を巡らす。
誘拐されてしまっていないだろうか。
どこかで倒れてないだろうか。
どこかで事故に巻き込まれていないだろうか。
「…会いたいよ…どこにいるんだよ…。」
視界が滲み前が見づらくなる。
だめだ。まだ泣くのはだめだ。
帰っても彼女の靴は玄関にない。
部屋も暗く、人の気配はない。
「…どこにいんの?」
ぼそっと呟いた後には大粒の涙がこぼれ落ちたが、今の俺にはこの涙を止めることも拭うこともできなかった。
出てよ…電話…。
「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません。ツーツー」ピッ
はぁ…かれこれ3時間ほど探したが見つからない。
ピンポーーン、ピンポーーン。
これからを考えていたらチャイムが鳴った。
俺は慌てて涙を拭い急いでドアを開ける。
やっと帰ってきた!謝れ…る…。
「え…?」
「夜分遅くにすみません。わたくし県警の者なのですが、この女性に見覚えありませんか?」
「私の彼女ですが…何故です?彼女の身に何があったんですか…?」
「…先ほどここから少し離れた道路で女性が倒れていると通行人から通報がありました。救急隊と急いで向かったのですが…その時には…もう…。」
「なんで…なんでですか…?!」
「通行人の証言では、赤信号を無視した車に撥ねられ、体を地面に強く打っていたと…。即死でしょう。少し署までお願いします。」
そこからの記憶はほとんどない。
気づいたら家にいた。
あの後は警察官の質問にただただ答えていたと思う。
出会い、最近あったこと、喧嘩のこと。
彼女が死んでしまったこと。
もう彼女の笑顔を見ることができないこと。
もう彼女の声を聞けないこと。
それらがショックでショックで…。
彼女以上に愛せる人はこの世にいない。
こんなに人を好きになったのも、
こんなに正直でいられたのも、
みんなみんな彼女だけだ。
もう会えない、彼女だけだ。
「…ごめん。ごめん。あの時、すぐ迎えに行かなくて。謝れなくて。君のことが、世界で1番好きだ。」
何を言ったって、謝ったって、好きを伝えたって。
もう、何一つとして彼女には届かない。
それでも僕は言い続ける。
君がいなくなるちょっと前に言えなかった言葉。
「ごめんね」「好きだよ」この言葉を。
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後になって知ったことだ。
彼女は撥ねられる前にデザートを買ってくれていたみたいだ。俺の好きなシュークリームと、2つのケーキ。
きっと彼女なりに考えてくれていたのだろう。
それから、俺には送られていなかったメールがあった。
内容は…思い出したらまた泣きそうだから、今は言えないけれど。
俺らさ、お互いに世界で1番好きだったね。
君がいない世界を愛せるかわかんないけど、
いつか俺がそっち行ったときに笑い話いっぱい話せるようにさ、頑張ってみるよ。
「ごめんね、そしてありがとう。届いてくれ。大好きな君へ。」
『 「ごめんね」 』
ただいま、私の故郷
まだ蝉も鳴き始めない、青々とした夏の始め
爽やかな風と見渡す限りの自然
目を瞑れば、あの頃の思い出が蘇ってくる
ほら、あそこ
あの子とザリガニ釣りをしたところ
ほら、あそこ
あの子と親に隠れて駄菓子を買ったところ
ほら、あそこ
あの子と新しい制服に手を通して登校したところ
ほら、あそこ
あの子が部活引退で泣いている私を慰めてくれたところ
ほら、あそこ
あの子と付き合い始めた場所
ほら、あそこ
大きくなり隣にいるこの人と今から挨拶しに行くところ
今も昔も変わらない笑顔で
ずっと私の味方でずっと支えてくれた
小さくて、半袖に半ズボン、麦わら帽子だったのに
今はこんなにも立派な頼れる人
これからもずっとこの人一緒にいたい
「なにぼーっとしてんの!!早く行かないとー!」
「今行くってー!」
ふふ、またひとつ思い出が増えたね
『半袖』
ようこそ。
本日はお集まりいただきまして、
誠にありがとうございます。
皆様もご存知の通り、生命の父サタラの予言では
今宵、私たちがいるこのサーヤ神殿の真上で
月が消えるというのです。
そう、闇が光を飲み込んでしまうのです。
しかしサタラの予言はここで終わりません。
彼の予言では一度消えた月もいづれは見え始め
より一層輝き出すというのです。
皆さん、こんなお話を聞いたことはありませんか。
生命の父サタラとその奥方である自然の母マオネの
子である昼の神サンリアスと夜の神アーナイトは
月の消える晩は出歩くなという掟を破り
現し世へ出掛けてしまうのです。
月の消えた時、サンリアスとアーナイトは
今まで見たこともないような怪物に飲み込まれます。
サンリアスとアーナイトがいないことに気づいた
サタラとマオネは急いで辺りを探し始めますが
見つかる様子はありません。
すると、突然空が光り、これまで見たこともないほど
美しい月が現れました。
サンリアスとアーナイトは月の光に包まれ、互いを寄
せ合い、抱き合っていました。
月は2人を守っていたのです。
月を祀り、願いを捧げるために建てられたのが
このサーヤ神殿です。
サーヤとは「輝き守る」といった意味があるのです。
月は、闇に迷い込む私たちを救ってくれる存在だと、
そう生命の父サタラはおっしゃいました。
そして今宵、月が消える日がやって参ります。
これからの私たちの明るい未来のために
神のご加護あれ。
皆様もご一緒に
月に願いを捧げましょう。
「テピア・サーヤ」
ーー月よ、輝き、どうか我らをお守りくださいーー
※このお話はフィクションです。
実際の人物団体とは一切関係ありません
『月に願いを』
え、あ、嘘。雨…。傘持ってきてないんだけど…。
今日は一日晴れの予定だったじゃん…。
ちょっと、弱まるの待つか…
「あれーー!お前まだ残ってたの?!」
「ひゃっ?!」
「何びっくりしてんのさ。」
カラカラと彼は笑う。
突然好きな人が来たらそりゃ驚きますよ!!
「いや…ちょっと傘忘れて…。
雨弱まるの待ってたんだよね。」
「ふーーん。なら俺の傘入ってく?お前駅っしょ。」
「そう…だけど…いいの?!」
「良いから言ってんのーー。俺の傘でかいし。
俺ここに傘忘れてたからあるんよ。」
こんな展開来るとは思ってなかった…。
やばい、顔変かも…。あっつ…。どうしよどうしよ。
「…ふははっ。」
「何笑ってんのよ!!」
「いや…ちょっと反応が面白くて…」
笑ってるあなたのこと好きなんですよーーだ。
傘に入れてもらい、彼の隣を歩く。
彼の少し早い歩きについていきながら、彼と今日あったことや最近ハマっていることについて話す。
どうしよう、こうやって話せるの嬉しすぎる。
あーあ。好きだなぁ…。
降り止む様子のない雨。
どうかこのまま降り止まないで。
『降り止まない雨』