彼女と喧嘩をした。
彼女は怒って家を飛び出してしまった。
ただ、今回は俺だけが悪いわけではない。
少し頭を冷やせば帰ってくるだろ。
俺の話なんか全部反論してきたし。
勝手にしてれば良いじゃないか。
…まだ帰ってこない。
どうしたんだろう。電話をかけても出る様子はないし。
普段ならもうご飯の時間はとっくに終わっているのに、食卓の上には2人分のご飯が冷めて残っている。
俺もだいぶ冷静になった。
あの時はまともな考えができていなかった。
とにかく自分の意見を曲げず、非を認めようとしなかったのだ。
…おかしい。だめだ。帰ってこない。
誰か変な人に誘拐された?
誰か違う男の家に行った?
考えれば考えるほど不安が募り、居ても立っても居られなくなる。
日を跨ごうとしているこの時間に上着を羽織り、彼女の上着を持ち、車の鍵を掴んで家を飛び出した。
くそっ…。ここにもいないのかよ…。
ここで4箇所目。よく2人で行っている場所、彼女が好きなところなどをひたすら探しているが全く見つかる様子はない。
あいつがよく行く場所…思い出せ…。
…公園。あの公園にはまだ行っていない。
そうだ。デートの帰りによくあそこで駄弁ってた。
そうと決まれば、急げ。
電話…出てくれ…。
「おかけになった電話をお呼び…」ピッ
ちっ、出ねぇ…。なんでだよ…。
俺はなんであんなに怒った…?
俺はなんであいつが出てってすぐ追いかけなかった…?
だめだ。今はまずあいつを見つけることだ。見つけて、謝る。これが最優先だ。
やっと着いた。どこだ…いるか…?
いない…。嘘だろ…。
ほんとにどこ行っちまったんだよ…。
電話も出ない。
公園の中、1人ブランコに座り考える。
他に…他にどこがあるんだよ…。
メールを開く。何も来ていない。
もしかしたら、もう家にいるかもしれないもんな。
一回帰ってみよう。
どうしよう、いなかったら。
車の中で揺られながら思考を巡らす。
誘拐されてしまっていないだろうか。
どこかで倒れてないだろうか。
どこかで事故に巻き込まれていないだろうか。
「…会いたいよ…どこにいるんだよ…。」
視界が滲み前が見づらくなる。
だめだ。まだ泣くのはだめだ。
帰っても彼女の靴は玄関にない。
部屋も暗く、人の気配はない。
「…どこにいんの?」
ぼそっと呟いた後には大粒の涙がこぼれ落ちたが、今の俺にはこの涙を止めることも拭うこともできなかった。
出てよ…電話…。
「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません。ツーツー」ピッ
はぁ…かれこれ3時間ほど探したが見つからない。
ピンポーーン、ピンポーーン。
これからを考えていたらチャイムが鳴った。
俺は慌てて涙を拭い急いでドアを開ける。
やっと帰ってきた!謝れ…る…。
「え…?」
「夜分遅くにすみません。わたくし県警の者なのですが、この女性に見覚えありませんか?」
「私の彼女ですが…何故です?彼女の身に何があったんですか…?」
「…先ほどここから少し離れた道路で女性が倒れていると通行人から通報がありました。救急隊と急いで向かったのですが…その時には…もう…。」
「なんで…なんでですか…?!」
「通行人の証言では、赤信号を無視した車に撥ねられ、体を地面に強く打っていたと…。即死でしょう。少し署までお願いします。」
そこからの記憶はほとんどない。
気づいたら家にいた。
あの後は警察官の質問にただただ答えていたと思う。
出会い、最近あったこと、喧嘩のこと。
彼女が死んでしまったこと。
もう彼女の笑顔を見ることができないこと。
もう彼女の声を聞けないこと。
それらがショックでショックで…。
彼女以上に愛せる人はこの世にいない。
こんなに人を好きになったのも、
こんなに正直でいられたのも、
みんなみんな彼女だけだ。
もう会えない、彼女だけだ。
「…ごめん。ごめん。あの時、すぐ迎えに行かなくて。謝れなくて。君のことが、世界で1番好きだ。」
何を言ったって、謝ったって、好きを伝えたって。
もう、何一つとして彼女には届かない。
それでも僕は言い続ける。
君がいなくなるちょっと前に言えなかった言葉。
「ごめんね」「好きだよ」この言葉を。
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後になって知ったことだ。
彼女は撥ねられる前にデザートを買ってくれていたみたいだ。俺の好きなシュークリームと、2つのケーキ。
きっと彼女なりに考えてくれていたのだろう。
それから、俺には送られていなかったメールがあった。
内容は…思い出したらまた泣きそうだから、今は言えないけれど。
俺らさ、お互いに世界で1番好きだったね。
君がいない世界を愛せるかわかんないけど、
いつか俺がそっち行ったときに笑い話いっぱい話せるようにさ、頑張ってみるよ。
「ごめんね、そしてありがとう。届いてくれ。大好きな君へ。」
『 「ごめんね」 』
5/30/2024, 8:27:14 AM