くまる

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4/5/2025, 6:43:19 AM

山肌に1本の桜が咲いている。

「もう少ししたら満開だね。」
「そうだな。」

ポツンと立っている桜の木は、大きい木で、満開にならずとも、たくさんの花が咲いている。カシャっと、マグはシャッターを切る。

「二人とも、そこへ立って。」
「はぁ?!こんな奴の肩に乗るなんて嫌だね!」
「どうしてもダメかい?コンペキ。」
「……。」

マグの頭に乗っている彼の使い魔のコンペキは、渋々、狼獣人のラッタの頭に降り立つ。

「早くしてくれ。獣臭い。」
「ああ、分かった。」

マグは急いで、二人から距離を取る。

「コンペキ。爪が痛い。」
「わざとだよ!黙ってろ!」

ラッタが、頭の上のコンペキに手を伸ばそうとすると、コンペキは「ヒィッ!」と情けない声を上げて、爪に入れていた力を抜く。コンペキは、ラッタの事を嫌っているが、それは狼獣人が怖いからでもある。マグが、ラッタを相棒にすると決めた時、コンペキは猛反対したが、結局、身を守るために了承するしか無かった。
コンペキが力を抜いたので、ラッタは手を下ろす。ラッタは、自分が怖がられている事を知っていた。目付きは悪いし、ガタイもデカい。嫌われるのも慣れっこだ。

「撮るよ、こっち向いて!」

離れたマグが声を上げて、二人はカメラに目を向ける。
どうして、こんな目付きの悪い俺の写真を残すのか、ラッタは、いつも不思議な気持ちでカメラを見つめる。
そんなラッタの頭の上で、コンペキは精一杯笑って見せる。コンペキは知っている。マグはラッタよりも長生きするだろう。だから、お別れの日のために、写真に残そうとしているのだ。前の相棒の時も、そうだった。彼は、恋に落ちた相手と結婚して定住するために、旅人のマグの相棒を辞めてしまった。お別れの日、マグは、たくさんの写真を収めたアルバムを、彼に渡した。その夜、同じ写真を眺めながら、マグがひっそり泣いていたのを、コンペキは知っている。いつの日か、この写真を眺めたマグに少しでも笑って欲しくて。コンペキは、苦手なラッタの頭の上で、精一杯笑ってみせる。
ひらひらと桜の花びらが舞う中で撮られた写真は、またひとつ、マグのお気に入りの写真になった。

4/3/2025, 5:26:47 AM

フクロウ便の運び手として派遣されてきたフクロウの足に、魔法で小さくした手紙を括り付ける。

「よろしくね。」

フクロウの頭を撫でると、スリっと擦り寄ってきた。送りたい相手の顔を思い浮かべながら、住所と相手の名前を唱える。窓を開けて、空に向かってフクロウを解き放つと、ホウっとひと鳴きして飛んで行く。バサバサっと飛び上がったフクロウは、スイッと風に乗って行った。

3/28/2025, 10:28:44 AM

「春爛漫」
書けたらいいな

3/27/2025, 4:58:25 AM

七色に光る大岩。大きな山の中腹に、その大岩は鎮座している。マグ一行は、その大岩の前に居た。深い森の中、大岩があるこの一帯だけ、少し平らな広場のようになっている。

カシャッ……カシャッ……

マグがシャッターを切る音が、森に響いている。

「本当に、この岩なのか?」
「地図に寄ると、この岩だな。」
「本当に?光って無いのに?」

魔法使いマグの使い魔であるオキナインコのコンペキは、今日はマグの肩では無く、マグの相棒の狼獣人、ラッタの肩に乗っている。マグの撮影の邪魔になってはいけないから、仕方なくだ。

「それにしても、お前は相変わらず獣臭いな。」
「……木の枝にでも留まってればいいのに。」

コンペキは、背の高い森の木を見上げる。一番下の枝でも、はるか上だ。それに上空には、コンペキよりも大きな鳥が鳴きながら飛んでいる。

「馬鹿言うな。お前は、この一行の用心棒だぞ!俺の事も守るのが当然だろう!」

その時、背後でガサガサッと音がして、ラッタがコンペキのくちばしを掴み、振り返った。

「静かにしろ。何か来るかもしれない。」
「……。」

コンペキを掴んだのとは逆の手で、ラッタは棍棒を握りしめる。ガササッと、草むらから出てきたのは野ウサギだった。ラッタとコンペキは肩の力を抜く。その時だった。風がサァァァっと山頂から吹いてくる。ラッタとコンペキが、風の吹いてきた方を見ると、視線の先で大岩が光っていた。

「「!!」」

深い森の中で、七色に光る大岩。その光景に、二人は揃って息を飲んだ。きらきらと光り輝いている大岩の前から、写真を撮り続けていたマグが、二人の元へと戻ってくる。

「日の光が入ってくれて、助かったよ。」

マグは、森の上を見上げる。曇っていた空に、晴れ間が広がっていた。

「綺麗だな。」
「ああ。」

コンペキとラッタは、ジッと大岩に見入っている。きらきら光っている、その光が、二人の目の中で光っている。マグはカメラを構え、二人の顔をファインダーに収めると、シャッターを切った。すぐ隣で聞こえた、その音に、コンペキとラッタは我に返る。

「綺麗だな。」
「そうだね。日の光が当たると普通に見える岩が光るんだ。ただ、岩を割って作った石は光らないそうなんだ。ここに来ないと、あの光は見られない。」
「へぇ。立派なもんだ。」

目の前の大岩は、徐々にまた光を失い、ただの大きな岩に戻る。二人と一匹が空を見上げると、また薄雲が空を覆っていた。

「さぁ、帰ろうか。日が暮れると危ないからね。」
「ああ。」

コンペキがマグの肩に収まり、マグ一行は、山を下る。マグは、またひとつ素敵な景色を写真に収めた事、その景色を大事な者たちと見られた事を、心から喜んでいる。


3/26/2025, 8:05:04 AM

俺の幼い頃の記憶のひとつに、両親と兄と一緒に行ったマジックショーの記憶がある。マジックショーは、今思えば、子供には難しい魔法を使っているだけで、設備(大量の水とか、燃えにくい舞台とか)さえ揃えば、大人には難しくない魔法ばかりだ。

「「すごーい!」」
「すごいね!」
「すごいな!」

魔力を持たずに産まれてきた兄も、魔法使いとして産まれてきた俺も、あの頃は、純粋に魔法を「凄いもの」として見ていた気がする。家に帰った俺は、さっそく、父に種を教えてもらい、小さな魔法を練習し出した。魔法の使えない兄は、とても優しくて、俺が拙いながらも魔法を披露すると、いつも、すごいすごいと褒めてくれた。

「家督を継ぐのは、兄では無く、お前だ。」

兄と同じ学校に行きたいと告げた時、父は険しい顔をして、そう言った。普通の人間である兄と、魔法使いとして家を継ぐべきお前は、同じ学校には通えないのだと。魔力のある子供は、16歳になる頃、魔法使いになるための学校に入るのが普通だ。ひと足先に16歳になって、地元の学校に通っている兄と同じ学校には通えないのだと知った時。かっこいい兄と同じかっこいい制服が着れないのだと分かった時。兄が居るのに、魔法使いというだけで、家を継ぐのが俺だと知った時。俺は、家を飛び出していた。
俺は、何日も家に帰らず、街や森をうろついていた。小さな頃から、兄に魔法を見せるのが好きで、簡単な魔法なら使えるようになっていたから、逆に帰らなくても大丈夫だった。随分、皮肉めいている。兄に褒められるから好きだった魔法が、俺から大好きな兄を遠ざけている。魔力なんて無ければいいのに。
数日後、俺の目の前に、父が現れた。魔法使いの父には、俺の居場所を特定する事など、簡単だったのだろう。走って逃げようかとも思ったけど、やめた。父の傍らには、兄が居たから。父は「二人揃って、今日中に帰るように」と言いつけると、兄を置いて消えた。

「ニシ。ごめんな。」
「なんで、兄ちゃんが謝るの?」
「お前、本当は違う学校に行きたいんだろ?」

俺は、兄と同じ学校に行きたいのだ。でも、本人には、気恥ずかしくて言い出せなかった。

「でも、俺は、お前は魔法学校に行くべきだと思うよ。」
「……なんで?」
「昔から、お前は魔法が好きだろ?俺も、魔法が使える弟が居て、すごく嬉しいんだ。」
「でも、魔法学校に行ったら、寮に入らなきゃならないんだ。兄ちゃんに会えなくなる。」
「長期休みには帰って来るだろ?大丈夫。お前なら、立派な魔法使いになれるさ。父さんだって越えられるよ。」

兄ちゃんは笑っていた。

「俺が魔法が使えないから、お前に無理をさせるな。ごめん。」
「兄ちゃんのせいじゃない!」

魔法が使えないのは、兄のせいじゃない。俺が同じ学校に通いたいと我儘を言ったせいで、兄に謝らせてしまった。それが悲しくて、そんな事をさせた自分が大っ嫌いで。泣き喚く俺の背中を、兄は黙ったまま優しく摩ってくれた。

「家に帰ろう。」
「うん。」

泣き止んだ俺と、手を繋いだ兄は、夕焼けの中を歩いて家に帰った。その日から、俺は兄と上手く話せなくなった。魔法学校に通い始めて、寮生活を始めて。兄とは、どんどん疎遠になってしまった。
そんな兄と元に戻れたのは、兄の結婚相手、義理の姉のおかげだ。義姉は、魔法使い。家は、兄と義姉が継ぐことになった。突然、将来が自由になった俺に、義姉と兄は言った。

「これからは、ニシの好きな人生を歩みなさい。」
「それから、また一緒に遊ぼう。今度は三人で。」

笑顔の二人を、俺は一生忘れない。
今度、また、実家に、森で採れた旬の果物を持って行く予定だ。義姉に兄の居る日を内緒で聞いて、何も知らない兄の前に瞬間移動する。兄は、毎回とても驚いて、ちょっと怒りながら、笑顔で俺を褒めてくれるのだ。あの頃のように。

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