くまる

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山肌に1本の桜が咲いている。

「もう少ししたら満開だね。」
「そうだな。」

ポツンと立っている桜の木は、大きい木で、満開にならずとも、たくさんの花が咲いている。カシャっと、マグはシャッターを切る。

「二人とも、そこへ立って。」
「はぁ?!こんな奴の肩に乗るなんて嫌だね!」
「どうしてもダメかい?コンペキ。」
「……。」

マグの頭に乗っている彼の使い魔のコンペキは、渋々、狼獣人のラッタの頭に降り立つ。

「早くしてくれ。獣臭い。」
「ああ、分かった。」

マグは急いで、二人から距離を取る。

「コンペキ。爪が痛い。」
「わざとだよ!黙ってろ!」

ラッタが、頭の上のコンペキに手を伸ばそうとすると、コンペキは「ヒィッ!」と情けない声を上げて、爪に入れていた力を抜く。コンペキは、ラッタの事を嫌っているが、それは狼獣人が怖いからでもある。マグが、ラッタを相棒にすると決めた時、コンペキは猛反対したが、結局、身を守るために了承するしか無かった。
コンペキが力を抜いたので、ラッタは手を下ろす。ラッタは、自分が怖がられている事を知っていた。目付きは悪いし、ガタイもデカい。嫌われるのも慣れっこだ。

「撮るよ、こっち向いて!」

離れたマグが声を上げて、二人はカメラに目を向ける。
どうして、こんな目付きの悪い俺の写真を残すのか、ラッタは、いつも不思議な気持ちでカメラを見つめる。
そんなラッタの頭の上で、コンペキは精一杯笑って見せる。コンペキは知っている。マグはラッタよりも長生きするだろう。だから、お別れの日のために、写真に残そうとしているのだ。前の相棒の時も、そうだった。彼は、恋に落ちた相手と結婚して定住するために、旅人のマグの相棒を辞めてしまった。お別れの日、マグは、たくさんの写真を収めたアルバムを、彼に渡した。その夜、同じ写真を眺めながら、マグがひっそり泣いていたのを、コンペキは知っている。いつの日か、この写真を眺めたマグに少しでも笑って欲しくて。コンペキは、苦手なラッタの頭の上で、精一杯笑ってみせる。
ひらひらと桜の花びらが舞う中で撮られた写真は、またひとつ、マグのお気に入りの写真になった。

4/5/2025, 6:43:19 AM