とある国の、とある県の、とある地域に、一輪の花が咲いていました。その花はずっと、ずっと周りから、花なのならば花らしくあれ、と言われ続けていました。花はそれを信じ、花らしくありました。
しかし花が花らしくあったとしても、周りは花を否定しました。
花は疲れてしまいました。
花は自身を枯らしてしまおうとしました。しかし、止められてしまいました。
花はまた、花らしくあろうとしました。
暑い夏がやってきました。
花は誰もいない静かな場所で、一人話始めました。
「僕は僕らしくしていたいのねにね。世間体ばかり気にしてるから僕の異変に気づけねえのさ」
花は自身を枯らそうと、首を絞めました。
だんだん耳に空気が詰まり、音が遠くで聞こえるような気がしました。だんだん口周りが痺れてきました。だんだんあたまがぼーとしてきました。
そこに、ちょうはあらわれました。
驚いた花は紐を首から外し、隠しました。
「あ、いやごめんね。そんなに怖がらないで。」
蝶は怖がられたと思い、優しく言いました。
花は首の痕を隠しました。
それに気づかないで、蝶は話し続けます。
しかし、花はその話を聞いていません。
見られた?聞かれた?通報される?怖い。
「ね!友達!友達からでさ!私と交際を前提にお友達になろう!」
花は驚きました。咄嗟にいいえといっていました。
「じゃあ、普通の友達!お願いっ!」
花は訳も分からず、それならばと了承しました。
それから、花と蝶は仲良く過ごしましたとさ。
蝶は花を見つけました。その花は堂々としていました。
「僕は僕らしくしていたいのねにね。世間体ばかり気にしてるから僕の異変に気づけねえのさ」
蝶は惹かれました。
花であるはずの彼女は自身を僕と呼んだのです。
蝶は、花でした。花であるのに、恋愛対象は花でした。
蝶は自身を僕と呼ぶ花になら、受け入れて貰えるような気がしました。
蝶は花に惹かれてしまいました。
「明日、もし晴れたらさピクニックにでも行かない?」
そう提案すると、彼女はスマホを取り出した。
「おー、明日晴れるってさ」
「雰囲気ぶち壊しやがった」
便利な時代を恨め、そう言うと彼女は明日の予定を詳しく決めだした。
辺りを見渡せば、狐の面や兎の面、ひょっとこなどの面をつけた人が行き交っていた。
「今年も賑やかねえ」
「そーやね。ところで君はなんでお面3つも付けてんの?」
隣を見れば、着物姿の4つ顔、お面3つに顔1つの友人がいた。
「初めて会った時を再現しようかなと思いましてね」
「そんなら着物なんはなんでなん?」
これは君の気を惹くためさっ!と元気よく言う友人から、今すぐにでも離れたい。
とても目立っているのだ。お面を3つも付けて、女物の着物を着たイケメン。これはとても目立つ。
友人は一応、生物学上は女なのだがあまりにも顔がイケメン過ぎる故に、こういう服を着ると女装のように見えてしまう。
「僕、目立つの苦手なんだケド」
「目立ちたくないなら一人称変えたら?その一人称も結構目立つよ。」
彼女が指摘する。
一応僕も、生物学上は女だ。しかし、僕は私、と言うよりも僕と言っている方が落ち着く。仕方ないよね?
「誰もそこは気にしないと思うよう。髪型だってほぼ男だし、気づかねえっしょ」
「……初めて会った時はもっと女子してて可愛かったのに」
頬を膨らませる友人はとてもじゃないが、可愛いとは言えない。どちらかと言えばやはり、格好いい。イケメン面にあわない表情をするものだ。
「今の僕は嫌い?」
「いーや!前よりも我を通していてすっごくキレイだよ!大好き!ファンサしてー!」
「そりゃ良かった。ほら、投げキッスだ受け取れ」
オチはない!仕方がない!だってオチは休暇中!
「ね、お願い。最後に、さ私のわがまま聞いてくれる?」
「ん、いーよー。僕ちょうど暇だったし」
「あの、ね。この近くにさ、孤児院があるでしょう。そこにね、私の遺産ぜーんぶ寄付しておいて、くれる?お願い、」
「いーよ。ワガママってえのはそれだけ?」
訊いてみても返事はない。
もう二度と動かない、彼女だったモノがあるだけ。
「いやあ。本当にいい人だったよ。初対面だけど。よくあるんだよねえ。初対面の人に昔からの友人だって思われること。」
けたけた笑いながら一人で喋る。
「で、なんだっけか。寄付か、そっかそっか。」
そう言うと彼女は、この家の地下へと向かった。
「んー!サイアクな空気ー!」
地下の金庫にそっと近づくと、ガコンと音を立てて扉を外した。
金庫の中には沢山の金。
「彼女ねえ、誰かのためになるなら私死んでもいいわって言ってた、らしい。頭のおかしい彼女にしちゃ、なんか良いこと?いってたね」
こちらを見ながら語り出す。
「余命残りわずかって宣言されたからってさ、すげーのよ?自分の内臓ぽぽいのぽい!換金しちゃいましたあ」
阿呆かあ!と叫ぶと彼女は、金庫の中の金に火をつけた
「いやー!物凄い阿呆!本当に死ぬんかーい!例えやないんかーい!生きろやあ!」
何処から取り出したのか、消化器で火を消す。
地下からでると、死体に向かって叫ぶ。
「起きんかあ!阿呆!頭ほんっとうにおかしいなあ!書き替えたる!テメエの人生書き替えたるわ!」
そう言うと紙とペンを取り出し、なにかを書き始めた。
「……焦げ臭い。」
「起きたな?!テメエ起きたな?!燃やしたからな!金!全部!」
「全部?!内臓売った意味は?!」
「ナッシングじゃ!生きろ!」
「余命残りわずかだけど?!後2日だけど?!」
「あー!話が長え!オチがねえ!とりあえずテメエは生きる!あと50年は生きる!それ以上生きるかもだけど!生きる!」
ポカンとしている死体だった彼女から視線を外し、こちらを向くとまた彼女は叫ぶ。
「この話はオチがない!オチが!ない!(大事だから2回いうよ)とりま、誰かのためになるならーで命投げ出すなあ!分かったか!内臓換金少女!」
『誰かのためになるならば』
本当にオチがねえのよ
白い鳥かごを眺めていると、声をかけられた。
おや、また会いましたね。
確か、17作前にお会いしたきりでしたね。お久しぶりです。おや、素敵な鳥さんですね。
相手は、鳥かごを覗くとそう言った。
なにも入っていない鳥かごを見て。そう言った。
かごを開けると、何かが飛び立つ音がした。
……もったいないですね。折角、あなたのために用意されたモノだったのに。
カラになった、いや元からカラだったはずの鳥かごを相手に渡す。
すると、相手は鳥かごの中から無数の鳥を羽ばたかせて見せた。
私はこの鳥さん達と歩いてきますね、それでは。また、何処かでお会いしましょう。