世界が終わると言う人がいて、一部で騒ぎになっていた。その噂はどんどん広まった。すると、何が起こるかを、まことしやかに話す人がたくさん出てきた。専門家や評論家たちが議論をしている。振り回されてはいけない。いや、本当かもしれない。意見は錯綜していた。
いよいよ明日がその日ということになって、緊迫感が増してきた。信じる人は、その準備をして、信じない人は、いつも通りに過ごしていた。テレビで、それを最初に言い出した人をついに突き止めたと、インタビューが行われていた。
その人は、「ああ、どうも」と気弱な感じで話し出した。顔は分からないが、手元が見えている。「私は、もし、世界が終わるならという話をしたかっただけで。いつのまにか、〝もし〟が抜けて、その話に乗っかる人がたくさん出てきて……」。
画面が切り替わった。口を開けて、ぼかんとした人たちの顔が映し出されていた。
「明日世界が終わるなら……」
そこのスパイスカレーは、以外と辛く感じた。辛いものが得意な君が「これならきっと大丈夫」と言うから、チャレンジしてみたのだ。
もともと辛いものが苦手だ。カレーならお子様用でもいいくらいなのに。君は、さらに何倍も辛みを足したカレーを、どんどん食べ進めている。「少しずつ食べてみて」。
ルーを端から、ちびちびと取り、ご飯もたくさん口に含む。スパイスのザクザクとした感触が面白い。その感触を味わいたくて、また一口と食べ進める。すると、辛みが過ぎた後、旨みのような複雑な味がやってくるのに気付いた。
「食べられるかも」。思わず声が出た。君がうれしそうにしている。それに、カレーと一緒に頼んだ甘いラッシーがこんなに合うなんて。君と出逢って、一つ新たな世界を知った。
「君と出逢って、」
夜中に目がさめてから、何となく寝付けない。カーテンを少し開けて外を見ると、街頭の灯りが辺りをひっそりと照らしている。
また横になってみる。目をつぶっていると、何か声が聞こえたような気がした。にゃあ。耳を澄ましてみる。ニャッ、ニャッ。きっと猫だ。
ニャァ! さっきより大きな声がして、ピタリと静かになった。気になって、一生懸命耳を澄ましてみる。それ以来、聞こえなかった。
夜中に活動するものは、ほかにもいるだろう。そう思うと、この静けさの中に、何か別の周波数があるような気がしてきた。そっとチューニングするように、耳を澄ましてみる。
気づいたら、朝になっていた。
「耳を澄ますと」
路地を入った先に、ひっそりとある喫茶店によく行く。落ち着いた雰囲気の店内は、ソファが均等に並んでいる。その中の一つに腰掛けて、注文を終えると、壁沿いの本の棚を見に行く。
自由に読むことができるのだけど、ほとんど読む人はいない。その中の、とりわけ分厚い本を手に取り見ると、紙のしおりが挟まっている。
細かい章で構成されているその本は、しおりが入っている場所がいつも変わっている。その箇所を読むと、いつも面白いと思う。
そして、読み終わるともう一章自分で読んで、またその章にしおりを入れる。友人との秘密の遊びなのだけど、いつも楽しみにしているのだ。
「二人だけの秘密」
時々、何を考えているか分からなくなる。近づくと、ぽんと突き放される。そんな得体の知れない人は、やめておいたほうがいいのだろうと、自分でも思う。
それでも気になってしまう。ただの好奇心なのかもしれない。まるでハリネズミのように武装している時も、そっと触れたくなる。
たまにすっとその武装が外れることがある。少し無防備な様子が垣間見えると、ますます気になってしまう。
そして、そんな時は信じられないくらい優しいことを言ったりする。分かっている。これは罠だ。でも、その優しさだけで、きっと大丈夫。そう思ってしまうのだ。
「優しさだけで、きっと」