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8/13/2025, 7:46:29 AM

 子どものころ、スイカ割りをした。
ずっとやってみたかったので、楽しみだった。
 海辺でビニールシートを敷いた上に、大きなスイカが用意されていた。順番にたたいていったが、なかなか割れない。

 自分の番になった時、目隠しすると周りの人が「もっと右」とか「まっすぐ」とか誘導してくれる。砂浜は歩きにくく、足元がぐらぐらする。「そこ!」という声がしたので、思いっきり棒を振った。ゴンと当たったけれど、丸い形の端を力がするっと抜けた。

 「あー」というがっかりした声がする。スイカは少しだけへこんだけれど、割れなかった。ついに次の人で、隅っこがグシャっとした変な形で割れた。スパーンと真ん中で割るのは難しいと分かった。

 グシャグシャに割れたスイカは、生ぬるくて甘かった。そして、少しだけ海の香りがした。


「真夏の記憶」

8/12/2025, 7:21:37 AM

 コーンに乗せたチョコレートのアイスクリームが大好きだ。でも、上手に食べるのは難しい。よく服にこぼすのだ。特に夏は、お店で受け取ってすぐに溶けてくる。手に持ったコーンのフチから垂れてくるのを、スプーンでちょこちょこすくいながら食べる。
 
 ちょっとゆるくなったのもいいけれど、冷たいかたまりを口に入れたい。急いで、慎重に食べ進める。それでも追いつかなくて、どんどん溶けてくる。とうとう、ポタっとこぼれ落ちる。

 あっ。みるみる胸元に茶色い色が広がる。茶色は目立つのに、それでもやっぱりチョコレートアイスを選んでしまう。


「こぼれたアイスクリーム」

8/11/2025, 7:06:20 AM

 追いつめられて、感情がぎりぎりのとき。
公の場では、涙なんか見せたくないし、悲しい表情もしたくない。なんでもない顔をして、いつも通りに色々なことを進める。
 
 でも、感情の器はすれすれで、ちょっとしたことで、こぼれそうになる。ぐっとこらえて、平常心に戻そうとする。

 他の人には、気づかれたくない。かなうなら、自分だけのバリアを作ってその中にいたいくらいだ。なのに、ふとした時に、誰かが「大丈夫?」と声をかけてくれることがある。

 「大丈夫」と言いつつ、感情の器が大揺れに揺れて、溢れてしまう。目にじわっと涙が浮かぶ。
やさしさなんて、いらないのに。心の底に溜まっていた固いかたまりがとけていく。
 
「やさしさなんて」

8/10/2025, 9:07:01 AM

 初めて訪れる歴史ある商店街を歩くのは楽しい。所々、シャッターが降りたところもあるけれど、活気がある。

 古くからあるお店と、新しいお店とが混じり合う何とも言えないごちゃ混ぜ感が、妙に落ち着く。でも、夏の商店街は暑い。店からもれてくる冷房の風に少しずつあたりながら歩く。

 奥に進むにつれ、長い歴史の重みのようなものが感じられてくる。今まで積み重ねられた色々な商品、人との会話、そんなものの思いが商店街の中をひっそり取り巻いている。

 商店街と商店街の継ぎ目に出た。そこを横切る小道に立つ。買ったばかりの水を飲みながら一息つく。明るい外の陽気に照らされると、ここは現在と過去をつなぐ道のような気がしてくる。

 表通りのビルの脇から、強い風がさーっと吹き抜ける。その風にあたりながら飲む冷たい水は、とてもおいしく感じられた。

「風を感じて」

8/9/2025, 8:14:19 AM

 朝から寝坊もせず、外は澄みきった風が心地よい。信号も踏切にもひっかからず、電車にはすっと乗って座れる。出会う人とは、気持ちのいい挨拶を交わす。当たり前のことがするすると流れていく。
 
 まさかの場所で、会いたかった人にばったり出会う。呼吸が合うかのように。

 そして、夕方には目の前に大きく広がる空に出合う。赤く染まり、夜の青と混ざり合う。そのグラデーションがあまりにダイナミックで。

 あー。これは夢じゃないんだと思う。


「夢じゃない」

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