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 子どものころ、スイカ割りをした。
ずっとやってみたかったので、楽しみだった。
 海辺でビニールシートを敷いた上に、大きなスイカが用意されていた。順番にたたいていったが、なかなか割れない。

 自分の番になった時、目隠しすると周りの人が「もっと右」とか「まっすぐ」とか誘導してくれる。砂浜は歩きにくく、足元がぐらぐらする。「そこ!」という声がしたので、思いっきり棒を振った。ゴンと当たったけれど、丸い形の端を力がするっと抜けた。

 「あー」というがっかりした声がする。スイカは少しだけへこんだけれど、割れなかった。ついに次の人で、隅っこがグシャっとした変な形で割れた。スパーンと真ん中で割るのは難しいと分かった。

 グシャグシャに割れたスイカは、生ぬるくて甘かった。そして、少しだけ海の香りがした。


「真夏の記憶」

8/13/2025, 7:46:29 AM