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8/3/2025, 8:25:57 AM

 思いのたけを書いた手紙を手に、海辺を歩く。
波打ち際で、打ち寄せては、引いていく波をぼんやりと眺める。じっと見ていると、自分も引き込まれそうな気になってくる。

 手紙もいっそ、海が運んでくれればいいのにと思う。海にかざしてみる。すると、手紙の中の文字たちが、はらはらと波にこぼれていく。ほろほろほぐれて、あちらこちらを行き来する。
 しばらくすると、海の向こうの奥深くのほうへ引き込まれていく。するする、するすると。

 それを眺めていると、なんだかすーっと心が軽くなってくるのだ。


「波にさらわれた手紙」

8/2/2025, 9:27:50 AM

 帰省して、ふるさとの街を歩く時は、なんとなく心のどこかで期待してしまう。ばったりと会えるのではないかと。
 駅、駅前の自転車置き場、バス停の前で。いるわけないかと思いながら通る。

 でも、本当に会いたいと思っているわけではない。お互いきっと変わってしまっているだろう。それを受け入れる準備は、全然できていない。
 あの時の記憶を景色に重ねているだけなのだ。

 でも、帰るたびに、心の深いところに沈めていた思いが、静かに波打つように感じられる。

「8月、君に会いたい」

8/1/2025, 9:00:51 AM

 最近の日差しがあまりにきつすぎて、サングラスを買った。日傘をさしても、下から跳ね返る日差しがすごく眩しかったのだ。

 メガネ店で、色々かけてみる。どれが似合うかさっぱり分からない。お店の人に勧められたプラスチックフレームのものをかけると、なんとなくしっくりきたのでそれにする。

 今度は、レンズの色を選ぶ。薄めから濃い色までたくさんある。薄めのものは、目元も見えて、怪しさ?が少し減る気がする。すると、店員さんが、「眩しさなら濃いめですよ」と言う。少しでも怖く?見えないよう茶で選ぶ。茶でも色々ある中から、肌うつりの良さそうなものを選んだ。

 出来上がったサングラスをかけてみると、アレ? 思ったよりレンズの色が濃かったかな?
「これで眩しくないですね」と、店員さんがニコニコしている。鏡の中には、茶色のサングラスの人が写っている。見慣れない。

 早速外でかけてみる。確かに目は楽だ。でもやっぱり落ち着かない。ショーウィンドウに映る自分の姿に、ちょくちょく驚きながら歩いている。

「眩しくて」

7/31/2025, 9:52:56 AM

 懐かしい場所を訪れてみる。
その場所は、だいぶ変わってしまっているだろう。すっかりきれいになった駅の改札を出て、
街並みを見る。

 そこにあったはずの建物はなく、新しい高いビルになっていた。あの時の面影を求めて歩いてみる。あっ。古い商店街がビルの谷間に残っていた。見覚えがある。
 
 一気に記憶が戻ってきた。あの辺のお店で、よく食事したはず。お茶もしたかな? 同じお店かどうかはわからない。でも、なんだかドキドキしてきて、あの時の胸の鼓動までもが、よみがえってきた。

「熱い鼓動」

7/30/2025, 7:06:54 AM

 気に入って買ったノートを、いつから使おうかとちょっと悩んでいる。
 価格が高めで、なかなか買わずにいたが、先日、セールになっているのを見て、ついに手に入れたものだ。
 
 買ってすぐは、お店の包装紙を丁寧に開けて、うっとりと眺めた。まだ、ノートを包むフィルムは開けず、その上から硬い表紙の感触を楽しんでみる。中を見てみる? 何だかもったいない。

 でも、このまま使わないと、紙や、めくる感じ、何よりもその書き心地を楽しめない。長い間置いていたら、劣化してしまうかも。使ってこそのノート。早速、開封。フィルムを開けようとしてみる。んー。いや、まだ。他のノートもあるし、やっぱり、もう少し後にしよう。
 
 そんな感じで、ずっとそのタイミングを逃しつづけている。
 
「タイミング」

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