程良い距離を保ちながら並ぶ机は、少しずつ好きな方を向く。線を引いたようにまっすぐ並ぶ様子は今まで見たことがない。
空をうつす大きな窓に吸い寄せられるように、ぺたぺたと廊下の果てまで歩き、左下に視線をやる。階段、しかも下り。向き直りながら小さくため息をつく。
昔からスリッパは苦手。歩いてるとすぐ脱げそうになる。これを履いてスタスタと進む人は、私とは何かが根本的に違うんだろうなってずっと思ってる。
随分と低い位置の手すり。小さく見える何もかもが、変わってしまったことに気付かせてくる。この場所がではなく、私が。あの頃とは全然違う何もかもに取り囲まれて、懐かしいはずの場所が全く知らない世界に見えた。
〉放課後
ノイズがかった映像のように、ざらついた記憶がかすめる。あの日々に名前をつけるなら、きっと“幸せ”なのだろう。
〉過ぎた日を思う
起きながらにして、夢を見る心地だ。彷徨う街角は、不思議な色をしている。霞んだ向こうは、滲んでいてよく見えない。自分さえ見失いながら、それでも。忘れ得ないのは、何よりもきらめいているから。似たような色、似たような形で区切られる風変わりな街の中。忙しなく行き交う人らもまた、似たような格好をしていた。あの人は、どこにいるだろうか。
「ちょっと、503のおじいちゃんまた徘徊してる」
「あ、ほんとだ。戻す?」
「見守りでいいんじゃない?戻してもすぐ出てくるよ」
「今日も例の人探しかな?」
「たぶんね」
「誰探してるの?奥さん?ご家族?」
「前に話聞いた感じだと、おそらく奥さん」
「へー、なんかいいな」
「会いたいと思える相手がいるっていいよねぇ」
〉巡り会えたら
抑圧と罵声。飽きるほど浴びて。
ふと我に返るきっかけは初めて聴くフレーズ。
あの音楽と言葉で目が覚めた。
そうだ辿る道は自分で選ぼう。
決めてからは早かった。
見切りをつけた。フィールドを変えた。
自由になる時間、未知数な選択肢。
交わる縁と背中を押す風。
誰にも私の邪魔は出来ない。
だって私が決めたから。
奇跡なんて何度だって引き寄せられる。
いい流れは見逃さないで飛び込む。
勢いも大事。
さぁ、次はどうしようか?
〉奇跡をもう一度
雨のしたたる窓辺で頬杖をついて、通りすがる色を数えた。昼下がりにしては暗く、行き交う色も滲みながらくすんで見えた。
夏の温度を忘れきれない、秋の始まり。湿度が加わるとまだ暑い。でも冷房をつけるにも躊躇われる。なんとも言えない気持ちで向こう側を眺める。
最近はオーロラ系と透け感のあるデザインが増えた。どちらも好きなテイスト。
ぼんやりと数えては特に意味を持たない時間に満たされる。
ピピピ、と無機質に響くアラームが現実側から呼んでいる。億劫に思いながらもデスク前のイスに座り直し、また発光する四角い窓を覗いた。
熱の冷めたデザインと絡まる湿気、それから低気圧。意欲の欠片もない現状とまただらりと向き合うのだ。
〉窓から見える景色