どこからか聞こえてきた音楽。きれいな旋律と声と、切ない言葉が織り成すその歌に、呼び起こされてしまうこの感情は実に無意味だ。悔いても泣いてもあなたはどこにもいない。
〉喪失感
楽しいことも、苦しいことも、定まらない思いも夢も全部。その一瞬一瞬の、自分だけの思い。過去の自分は知らないし、未来の自分は案外忘れてる。だけど書き記すから、過去は今に伝ってつながる。今日の私に届いて、交わって撚り合わせた思いは、また明日につながっていく。
何の変哲もないノート。
意味を持たない日々の綴り。
これは私だけの宝物。
〉世界に一つだけ
現実のさなかにありながら一瞬、違うどこかへ迷い込んだのかと慌てる。普通ならありえない。ただそこにいるだけで、きらきらのエフェクトがかかって見えてしまう。眩しい。あの人の周りだけ、現実の中に夢が紛れ込んだみたいだ。
〉きらめき
咳が止まらない。肺が痛い。苦しい。
もしかしたら死ぬのかな?
片付かない部屋の中で、雑多なものに埋もれて。
でも心は空虚なままで。
死ぬのかな。
それもいいな。
死んだら終わりだから。
幸せになりたかったけど。
愛されてみたかったけど。
諦めを重ねすぎた心は、頭は。
必死に掴み取りに行くほどの熱を失くして。
気ままなペースの努力では何も掴めない。
どうせ手に入らないから。
僕は空っぽなまま死んでもいい。
〉不完全な僕
ドン、と重く響く。何も知らなければ、何事かあったのかと不安に駆られそうな音。
「わぁ、花火大会始まったんだねぇ」
にこにこと嬉しそうに言いながらも、母は手を止めることなく食器を片付けている。見ようと思えば、電気を消すなり窓を開けるなりして、多少見られるんだろう。だけど母も私も、それはしなかった。
「今年は何人見られたんかね」
密集を防ぐことが常となり、気付けば毎年の楽しみにも随分と高値がついていた。思い返されるのは、何年か前に行った時の、あの人混み。ツレを見失えば最後。連絡を取っても合流しようのないような混雑。見渡す限りの人の壁。
――あの時も、飛べたら良いのにって思ってた。
異なる状況下で、同じイベントを迎えて。思うことは同じなんて、なんだか笑えてしまった。ちょうど数日前に、ドローン二機を組み合わせて足場にして、空中を滑るように移動する映像を見ていたせいかもしれない。
「またみんなでみたいね」
くだらない空想は頭の片隅に置いといて、無難な相槌をする。溶けかけのアイスをスプーンで弄びながら、それでも期待は誤魔化せない。いつか空をも道として選べる日が来るといいなと、子供のように夢を見ながら、液状になりつつあるそれをカップごと口元へ寄せて流し込んだ。
〉鳥のように