水上

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ドン、と重く響く。何も知らなければ、何事かあったのかと不安に駆られそうな音。

「わぁ、花火大会始まったんだねぇ」

にこにこと嬉しそうに言いながらも、母は手を止めることなく食器を片付けている。見ようと思えば、電気を消すなり窓を開けるなりして、多少見られるんだろう。だけど母も私も、それはしなかった。

「今年は何人見られたんかね」

密集を防ぐことが常となり、気付けば毎年の楽しみにも随分と高値がついていた。思い返されるのは、何年か前に行った時の、あの人混み。ツレを見失えば最後。連絡を取っても合流しようのないような混雑。見渡す限りの人の壁。

――あの時も、飛べたら良いのにって思ってた。

異なる状況下で、同じイベントを迎えて。思うことは同じなんて、なんだか笑えてしまった。ちょうど数日前に、ドローン二機を組み合わせて足場にして、空中を滑るように移動する映像を見ていたせいかもしれない。

「またみんなでみたいね」

くだらない空想は頭の片隅に置いといて、無難な相槌をする。溶けかけのアイスをスプーンで弄びながら、それでも期待は誤魔化せない。いつか空をも道として選べる日が来るといいなと、子供のように夢を見ながら、液状になりつつあるそれをカップごと口元へ寄せて流し込んだ。


〉鳥のように

8/21/2022, 11:26:02 AM