カニさんは、実はうさぎさんたちのちょっとしたアイドル。
今日はちょっとうさぎさんたちのところまで遊びにきたんだって。
いっつもはさみを上げてイエーイって感じのカニさん。
最近踊りを覚えたんだって。
「それを見せてくれるって。」
わくわく顔のうさぎさん。
もう一羽のうさぎはそれほど期待もせずに
「ふーん。」
と言う。
カニさんは少し俯いてシャキーンとはさみをクロスして立つ。
これから踊りが始まるらしい。
もうだめです。
こんなカニさんが予想外でかわいすぎて二羽はもう笑ってしまいそうです。
そこからカニさんは両のはさみをぶんぶんぐるぐる。ぎゅんぎゅんびゅんびゅん。
振り回して珍妙な踊りを、けどかっこいい感じでしています。
もううさぎさんたちは大爆笑。
かまわず踊り続けるカニさん。
踊りが終わる頃には笑いすぎてうさぎさんたちの声が枯れてしまう始末。
「笑っちゃったけど、すっごくかわいくて、かっこよかったよ!
いいもの見せてくれてありがとう!」
まだ笑いが収まりきらぬ様子でお礼を言ううさぎ。
カニさんは、どういたしまして!と得意気にVサイン!
カニさんが帰ってから。
喉を癒すようにはちみつ茶を飲む二羽。
「月あかりの中、公園で練習してる人たちがいて、それでカニさん覚えたんだって。」
「へー。」
よく新聞を読むうさぎさんが言いました。
「あっ。そうか。
あれがきっとオタゲーって踊りだ。」
「オタゲー?」
「うん。正式なものはペン型の照明を手に持ってするらしいよ。
アイドルとか、誰かを応援する時の踊りだよ。」
「へー。ペン型の照明…
それは雅だね。
アイドルの応援…
じゃあほんとうは僕たちがカニさんにその踊りを捧げるべき?」
ぷっ。
二羽は、想像して、顔を見合わせ同時に吹き出し、またしばらく笑い転げていましたとさ。
きっと今度は笑いすぎてお腹が筋肉痛になっちゃうね。
「声が枯れるまで」
月の上シリーズ #8
9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」
9/28「別れ際に」
10/1「きっと明日も」
10/11「涙の理由」
10/20「すれ違い」
いのちは、
はじまりとともに終わりを目指す。
かわいらしい緑の小さな芽を出すと、
美しい花を咲かせ、
葉を茂らせ、
やがては尽きて散ってしまう。
始点ができると必ずどこかに終点ができる。
生きてる時間がそれまでの暇つぶしであるならば、できるだけたのしく過ごせるように。
きょうも空の下ではたくさんのいのちが、
生きることをしている。
いのちを尽くしている。
「始まりはいつも」
ちょっと出かけて戻ってきたら、
『土星のリングにサイクリングに行ってきます。』
というメモが残されていた。
これは即ち僕にも来てほしい。という意味だ。
「しょうがないな。」
とボートを出して、土星に向かう。
土星はけっこう大きいから、リングに近づいて探す。
ぐるぐるぐるぐる。
何周かしてるのに出会わない。
おかしいな?
土星に隠れたリングの反対側で、おんなじ速度で自転車に乗って移動しているうさぎが一羽。
見かねた土星はふう、とため息をつき、レコードのようなリングに針を下ろす。
〜♪
リナ・ケッティの『待ちましょう』が流れる。
だけどもうさぎたちはどこ吹く風で、
一羽は音楽にのって楽しそうに、一羽は頭に??を浮かばせながら、
ぐるぐるぐるぐる、ただただ廻り続けるのでした。
「すれ違い」
月の上シリーズ #7
9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」
9/28「別れ際に」
10/1「きっと明日も」
10/11「涙の理由」
小皿に載せられた蕎麦たちを、薬味を変え、時に溶き卵につけるなど、今までにない食べ方をして、
そばソフトを食べ、
城跡に登り、景観の保たれた城下町を眺め、
移動して、
日本のヴェネツィアと言われる舟屋の並ぶ湾へと向かう。
湾に立つカフェで整理券をもらい、
祭り用の舟の置いてある舟屋を見学したり、そのあたりを散策し、海を眺める。
その湾の海はとても穏やかで透き通っていて、
底の方にあるウニも、たくさんの魚たちも見える。
鮮やかな青色の小魚たちが、花びらのように泳いでいた。
カフェでケーキを食べて、湾の全体が見渡せるスポットで、カモメといっしょにしばし舟屋の湾を眺め、離れた別の湾の神社へと移動する。
海の前に鳥居が立つ夕景を眺めに。
その日神社ではお祭りがあったのだろう。
白装束や法被姿の人たちがちらほらと歩いている。
神社には幟が立ち、鳥居には紙垂のついたしめ縄がされ、側には笹が立てられ、砂が円錐に盛られていた。
帰り道の家々の軒先には提灯が灯り、線香の香りが漂っていた。
ある、秋の日。
「秋晴れ」
わたしは彼に最後まで片思いだった。
学校へ行くときはいつも彼に会えるのがうれしくて。
街中でもわたしたちは偶然会うことが多かった。
本屋に電器屋、CDショップ。
すれ違ってしまいそうなどこかの通りとか。
気楽な友だちづきあいだったから、出会うと、
「なんだー、またお前かよー。」
と悪態をつかれる。
「こっちこそだし。」
と軽く肩にグーパン。
そんな仲だった。
進路を違えて、わたしたちの生活圏が変わってしまった。
学校はもちろん、街中でももう会わない。
それでもわたしは、あいつと会ったそこかしこで彼の姿を探し、
似た人を見るとドキリとし、
いないと確認してはがっかりとする。
いつまでも いつまでも…
忘れられるわけがない…
「忘れたくても忘れられない」