ある男に言った。
「お前に有り余る程の金をやろう。」
男は言った。
「代わりに魂でもよこせと?」
「いいや。
時間でいい。
お前のこれから手にするはずだった時間だ。」
「ふざけるな!
そんなのお金を手にする意味がない!」
「では、健康にしようか。
これからお前は有り余る金を手にする。
死ぬほどの痛みと苦しみに苛まれるが、長い寿命を遂げられることを約束しよう!」
別の男に言った。
男は名もない絵描きだった。
「お前に有り余るほどの金をやろう。
代わりにお前の両目をよこせ。」
「ふざけるな!
おれは金を手にしたら、画材を思うだけ買って、たくさんの土地を旅して美しいものを見て絵にしたいんだ!もちろん自分の描いたものも目にしたい。
目をなくしたら意味がない!」
また別の男に言った。
あらゆる学問に精通した、とても賢い男だった。
「お前に有り余るほどの金をやろう。
代わりにお前の全ての記憶をよこせ。」
「冗談じゃない!
わたしはこのあらゆる知識を世界に役立てるために金が欲しいというのにそれでは全く意味がない!」
人は金があったらなんでもよこすと聞いていたのに全く話が違う…。
しょぼくれた悪魔の腹が、ぐうと音を立てた。
「お金より大事なもの」
ぼくが歩く。
月がついてくる。
ぼくが歩く。
月がついてくる。
長い長い影帽子。
黒い夜に月だけ浮かぶ。
ぼくと月だけの散歩道。
「月夜」
真夏のピークが去った
天気予報士が…
というあの歌を思い出した。
頃合い的にもちょうどよさそう。
夕方5時のチャイムが…
最後の花火…
最後の花火の頃合いじゃないかな。とか。
この曲そのものもすきだけど
鳥人間コンテストに使われるのもすき。
あれもまた、最後の花火…
という気がする。
夏がおわる。
「8月31日、午後5時」
田んぼの畦道に咲いていたツユクサ。
ぷちりととって、花びらをつまむ。
指先にあおがのこる。
鮮やかなあお。
わたしの指先が かなしみに染まった。
「夏草」
「おきて
ねえ、おきて」
土曜日の朝8:30
部屋を満たす柔らかな光
キッチンから卵とパンとコーヒーの匂い。
僕は片目を細めてきみの姿をとらえる。
「ねえ、おきて?」
そう言う彼女の細い腕を掴んでベッドに引き入れ、
そっと布団で包み込んで
それから僕は………
「そっと包み込んで」