ちょっと出かけて戻ってきたら、
『土星のリングにサイクリングに行ってきます。』
というメモが残されていた。
これは即ち僕にも来てほしい。という意味だ。
「しょうがないな。」
とボートを出して、土星に向かう。
土星はけっこう大きいから、リングに近づいて探す。
ぐるぐるぐるぐる。
何周かしてるのに出会わない。
おかしいな?
土星に隠れたリングの反対側で、おんなじ速度で自転車に乗って移動しているうさぎが一羽。
見かねた土星はふう、とため息をつき、レコードのようなリングに針を下ろす。
〜♪
リナ・ケッティの『待ちましょう』が流れる。
だけどもうさぎたちはどこ吹く風で、
一羽は音楽にのって楽しそうに、一羽は頭に??を浮かばせながら、
ぐるぐるぐるぐる、ただただ廻り続けるのでした。
「すれ違い」
月の上シリーズ #7
9/11「カレンダー」
9/17「花畑」
9/19「夜景」
9/28「別れ際に」
10/1「きっと明日も」
10/11「涙の理由」
小皿に載せられた蕎麦たちを、薬味を変え、時に溶き卵につけるなど、今までにない食べ方をして、
そばソフトを食べ、
城跡に登り、景観の保たれた城下町を眺め、
移動して、
日本のヴェネツィアと言われる舟屋の並ぶ湾へと向かう。
湾に立つカフェで整理券をもらい、
祭り用の舟の置いてある舟屋を見学したり、そのあたりを散策し、海を眺める。
その湾の海はとても穏やかで透き通っていて、
底の方にあるウニも、たくさんの魚たちも見える。
鮮やかな青色の小魚たちが、花びらのように泳いでいた。
カフェでケーキを食べて、湾の全体が見渡せるスポットで、カモメといっしょにしばし舟屋の湾を眺め、離れた別の湾の神社へと移動する。
海の前に鳥居が立つ夕景を眺めに。
その日神社ではお祭りがあったのだろう。
白装束や法被姿の人たちがちらほらと歩いている。
神社には幟が立ち、鳥居には紙垂のついたしめ縄がされ、側には笹が立てられ、砂が円錐に盛られていた。
帰り道の家々の軒先には提灯が灯り、線香の香りが漂っていた。
ある、秋の日。
「秋晴れ」
わたしは彼に最後まで片思いだった。
学校へ行くときはいつも彼に会えるのがうれしくて。
街中でもわたしたちは偶然会うことが多かった。
本屋に電器屋、CDショップ。
すれ違ってしまいそうなどこかの通りとか。
気楽な友だちづきあいだったから、出会うと、
「なんだー、またお前かよー。」
と悪態をつかれる。
「こっちこそだし。」
と軽く肩にグーパン。
そんな仲だった。
進路を違えて、わたしたちの生活圏が変わってしまった。
学校はもちろん、街中でももう会わない。
それでもわたしは、あいつと会ったそこかしこで彼の姿を探し、
似た人を見るとドキリとし、
いないと確認してはがっかりとする。
いつまでも いつまでも…
忘れられるわけがない…
「忘れたくても忘れられない」
お風呂上がり。体はまだほんのりほこほこ。
洗って乾かしただけのすっぴんの髪。
外に出て夜空を見る。
満月の明るいやわらかな光と、どこからか漂う金木犀の香りを、髪の毛に纏わせる。
「やわらかな光」
わたしの片想いの相手はとてもクール、というか表情のあまりない人。
…片想い?じゃないかもしれないけどそこはまだはっきりと言葉で確認はしていないから…。
その彼と学校帰り、ベンチに座ってたい焼きを食べていた。
一丁焼きのカリカリのたい焼き。
「ここのたい焼きは皮もおいしいけど、あんこもとってもおいしいよねー。」
話しかけるも、彼は前方を向いてむしゃむしゃ。
表情に出ていないけど、ほんとはよっぽどすきなのだろう。わたしがまだ半分ほどなのに彼は食べ終えてしまっている。
食べ続けようとして、ふと視線を感じて、顔を上げる。
彼がわたしを見ている。
もう口の中のも無くなったみたいでむしゃむしゃもしてない。
じーっと見ている。
じーっとわたしの口元を、まるで獲物を狙う獣のような鋭い眼差しで見ている。
(ま、まさか…)
心臓がものすごい音をたてる。
彼の手が伸びてきたので目をぎゅっと瞑る。
口元のあんこを指で掬い取って食べた。
「そっちかーーーーー!!!」
「鋭い眼差し」
参考 : 10/10「ココロオドル」