人生は選択の連続だ。
進学、就職、夕飯のメニュー、ゲーム上での結婚相手。
そしてそれらの責任は自分でとらなければならない。
「その女と死ぬか。俺と生きるか。
さあ選べ。ハニー。」
俺に選べというのか。
こんな、こんなことがあってたまるか。
無理だ。そんなことを選ぶくらいなら、俺は。
「しょうがねえなあ。」
「後悔は無いのか。」
「ねえよ。」
「俺はあんたを選べなかったんだぞ。」
「くどい。」
「けど。」
「愛の言葉で許してやらあ。」
自分のケツは自分でとれるっつうに。ガキじゃあるまいし。
「…好きだ。」
これで充分だ。ハニー。
岐路
「世界は本当に終わるんだな。」
「うん。終わる。」
「でも俺たちは生きてしまうのか。」
「うん。生きる。死ねない。」
馬鹿でかい隕石が落ちて宇宙人が侵略しに来た。
未知のウイルスが蔓延してエネルギーは底を尽きた。
…かどうかはわからない。でも世界は終わる。
そして始まる。
「他の人間、生き物はどうなるんだ。」
「生きる。わりと多く。」
「そりゃ良かった。」
良いのかな。まあ良いのか。さみしいし。
「やさしい。あなたはやさしいから好き。」
「そうか?そんなこと言われたのは初めてだ。」
冷たい世界が終わる。そしてあたたかな世界が始まる。
「今生きている人はやさしい人。冷たい人、怖い人、乱暴な人は死ぬよ。」
「つまり君もやさしい人だということか。」
「…え。…うん?… あ、そうなの…?」
「そういうことだろ。」
笑った。やさしい笑顔。これだ。
「やっぱりあなた。これからの世界に必要なのは。」
「随分と大ごとになってきたな。」
「神様になって。」
「すごいな。」
冷たい世界の終わりを
やさしい神様と共に見送る。
あたたかな世界の始まりを肌で感じる。
良かった。私の人生は無駄ではなかったんだ。
世界の終わりに君と
私の聖域。人として大切なものを取り戻せる場所。
小さいけれど居心地が良くてかわいいが溢れたお花屋さん。世界でいちばん素敵な人のお店。
「最悪です。」
「ふーん。そりゃ良かったね。」
これは夢?いいえ、夢であっても許せない。
「何故あなたが。」
「花買いに来る以外に用事ある?」
「余所に行けば良いじゃないですか。」
「何そんなキレてんの。お前には関係ないだろ。」
ああ最悪。この男に会ってしまうなんて。
どうして。なぜ。このお店なの。お花屋さんは他にもあるでしょう。
「用が済んだらさっさと出て行ってください。」
「はは、何様だよ。お互いただの客だろ。」
聖域が汚れる。ああ最悪。最低。
「…あ、あの、お待たせ、しました…。」
私の太陽。アポロン。今日も格好良くて可愛らしい。
その力強く美しい手には純真さと妖艶さを併せ持った白いバラの花束が。そして。
「どうも。きれいだね。ここで頼んでよかった。」
「あ、そりゃ、それは…どうも。」
この男の手に渡ってしまった。ああ最悪。
「それじゃ。また。」
また?またって言ったの?また、なんて無いの。
そう、あってはならないの。もう二度と。
「あー、ええと…。」
どうやら憎しみで我を忘れていたらしい。時間を無駄にしてしまっていた。あんな男のために。ああ最悪。
「ごめんなさい。今日は…」
「…良いのか、追いかけなくて…。」
「え?」
「…さっきの。男前を。そういう関係じゃ…?」
「え?」
私が?あの男を?あの男と?
「…いや、あの、恋人…彼氏じゃないのか?」
ああ
最悪
「何かある?」
「ここで話せる時点で誰にも言えない秘密では無くなりますね。」
「たしかに。賢いねえ君は。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ僕にしか言えない秘密はある?」
「ありますね。」
「お。いいじゃない。なになに?」
「実は昔、仕事の休憩中に…。」
「…え、そ、そんなことを…。」
「…いかがでしたか。」
「…素晴らしいな。」
「では旦那様は。」
「僕は、いや、その、うん。」
「ネタ切れですか。」
「ネタ切れです。」
誰にも言えない秘密
「ごめん狭くて。」
ううん、と言ったけれど初めて訪れた彼の部屋は本当に狭かった。
自分の部屋も狭い方だ。でも掃除は楽だしひとりだから問題ない。強いて言うなら本を置くスペースが少ない所が残念だ。
しかし、これは、なんというか。
「はい座布団。これに座ってね。」
渡されたのは花を模した座布団。お尻に敷くのを躊躇ってしまうくらい可愛い。
「これも抱っこしてて。ふわふわだよ。」
そしてもうひとつ花を渡された。これはクッションだ。
シンプルな彼の部屋には合わないこれらはひょっとして自分のために用意されたのだろうか。そう考えると胸の奥がもにょもにょして恥ずかしくてうれしくなった。
「ふふ。かわいい。妖精みたいだ。」
思わず抱っこしていたクッションをとなりに置いた。
「だめ。抱っこしてて。」
かわいいクッションを邪険には扱えなかった。
「はい、甘めのカフェオレだよ。おかわり自由です。」
「ありがとう…。」
白いマグカップ。あのカフェのグッズだ。となりには色違い。黒いマグカップ。
「奮発して買っちゃった。…その、こういうのカップルぽくていいな、とか思って。あ、黒の方が良かった?」
白が良い。という意味を込めて首を横に振った。胸が甘く締め付けられて声が出なかったのだ。
「じゃあ、君のはこれで。」
ふたつのカップが近づいてわずかに音を立てた。
「シュークリームありがとう。いただきます。」
私たちの距離も近づいた。自分の部屋より少し狭い彼の部屋。どこにいても彼の顔が近くにある。暑い。
「…これ、どうしよう。お金…。
「え、違う違う。これはプレゼント。気にしない。」
「…ありがとう。」
「…ど、どういたしまして!」
思いきった。がんばった。彼の二の腕らへんに顔をくっつけてみた。う…やめればよかった。熱い。
「こ、このままで。シュークリーム食べて!」
「…汚れる。」
「いいよ!」
「ばか…。」
「…かわいい…。」
お礼にうち用のマグカップを買おうと思った。犬の柄。すぐそこでくったりと寝そべっているぬいぐるみに似た子を探そう。
狭い部屋