「ごめん狭くて。」
ううん、と言ったけれど初めて訪れた彼の部屋は本当に狭かった。
自分の部屋も狭い方だ。でも掃除は楽だしひとりだから問題ない。強いて言うなら本を置くスペースが少ない所が残念だ。
しかし、これは、なんというか。
「はい座布団。これに座ってね。」
渡されたのは花を模した座布団。お尻に敷くのを躊躇ってしまうくらい可愛い。
「これも抱っこしてて。ふわふわだよ。」
そしてもうひとつ花を渡された。これはクッションだ。
シンプルな彼の部屋には合わないこれらはひょっとして自分のために用意されたのだろうか。そう考えると胸の奥がもにょもにょして恥ずかしくてうれしくなった。
「ふふ。かわいい。妖精みたいだ。」
思わず抱っこしていたクッションをとなりに置いた。
「だめ。抱っこしてて。」
かわいいクッションを邪険には扱えなかった。
「はい、甘めのカフェオレだよ。おかわり自由です。」
「ありがとう…。」
白いマグカップ。あのカフェのグッズだ。となりには色違い。黒いマグカップ。
「奮発して買っちゃった。…その、こういうのカップルぽくていいな、とか思って。あ、黒の方が良かった?」
白が良い。という意味を込めて首を横に振った。胸が甘く締め付けられて声が出なかったのだ。
「じゃあ、君のはこれで。」
ふたつのカップが近づいてわずかに音を立てた。
「シュークリームありがとう。いただきます。」
私たちの距離も近づいた。自分の部屋より少し狭い彼の部屋。どこにいても彼の顔が近くにある。暑い。
「…これ、どうしよう。お金…。
「え、違う違う。これはプレゼント。気にしない。」
「…ありがとう。」
「…ど、どういたしまして!」
思いきった。がんばった。彼の二の腕らへんに顔をくっつけてみた。う…やめればよかった。熱い。
「こ、このままで。シュークリーム食べて!」
「…汚れる。」
「いいよ!」
「ばか…。」
「…かわいい…。」
お礼にうち用のマグカップを買おうと思った。犬の柄。すぐそこでくったりと寝そべっているぬいぐるみに似た子を探そう。
狭い部屋
6/5/2024, 5:17:18 PM