今日が終わる。
白かった太陽が真っ赤に燃えて夜の訪れを告げる。
1日の内でいちばん落ち込む時間かもしれない。
「はあ…。」
いつもいつも同じことの繰り返し。
変化を望んでいるのに行動出来ない自分。
俺、このままで良いのだろうか。
こんなので君を幸せにしてやれるのだろうか。
「はあぁぁ…。」
ため息しか出ない。
「おかえり。」
やさしい君の笑顔が出迎えてくれた。
安心と少しの罪悪感で心が締めつけられる。
ちゃんと笑ってただいまって言えたかな。
「な、なあ…疲れてるところ悪いんだけど。」
「うん?どうしたの。」
「散歩がてらその、コンビニ行かないか?」
「良いよ。何か切らしたの?」
「……コンビニ限定のアイス、食べたいなって…。」
「うん。」
「…あと今日暖かいし…一緒に散歩したいなって…。」
「…デートのお誘いってこと?」
「………こと。」
「…はああぁぁぁ……。」
夕日まではいかないけれどほんのり赤い君の頬。
キスしたい。けど我慢だ。止まらなくなる。
右手にアイスとその他いろいろが入った袋
左手にかわいい君のかわいい手を握って
少し遠回りに沈む夕日を見送る。
落ち込んでいる場合じゃない。
君とまたデートするために
明日からもっと忙しくなるのだから。
沈む夕日
人の目を見るのは苦手だ。女とか子どもは特に。
こちらが相手の目を見ているということは
相手もこちらの目を見ているのだから。
僕の頭や心にぐちゃぐちゃと汚い足跡を着けられている気分になる。
「うーん。ねえねえこれわかる?」
「わかんない。」
「もー!せめてちらっとくらい見てよ。」
嫌だよ。自分で考えろ。
そういえば。こいつってどんな顔してたっけ。
丁度いい。にらめっこしよう。
「ん?なに?問題わかった?」
「……ふっ。」
「なんだよ!人の顔見て笑うな!」
「お前、にらめっこ強いね。」
「はあー?どういう意味?でも強いよ!」
頭に?がたくさん浮かんでいそうなまぬけ面。
クロスワードの問題を考えるよりこいつを見ている方がよっぽど面白い。
今度から嫌なことがあった時はこいつの目を見ることにしよう。
なんでも笑い飛ばせてしまいそうだ。
君の目を見つめると
深い夜空。明かりは星々のみ。
そんなロマンチックなシチュエーション。
君を抱きしめて愛を語ったり
くすぐるようなキスをしたり
そしてあわよくば、なんて。
だがしかし
昼間よりもずっと果てしなく見えた空
輝く星の名前や物語は知らないけれど
しばらく何も考えられなかった。
となりにいる君の手を握ることさえも忘れていた
どのくらいそうしていたかはわからない。
はっとしてとなりを向くとやわらかな笑顔の星の女神、もとい君と目があった。
「…ごめん。」
「え。どうした?」
「いろいろと。」
清らかな時と場所で邪な思いを抱こうとしていた自分をお許しください。
星空の下きょとんとした顔の女神に
心の中で懺悔をした。
星空の下で
俺の足の間におさまっておとなしくブラッシングされている君は森に住むおだやかな動物のよう。
最初こそ自分で適当にやるとか人形じゃないんだからと言って嫌がっていたけれど、今は気持ちよさそうにうとうとしている。
花の香りがするふわふわな髪。ずっとこうしていたいけど時間がいくらあっても足りなくなってしまう。
「さて、そろそろ。」
「…ん。おわったのか。」
「ブラッシングはね。今度は三つ編みをするよ。
かわいいアレンジを見つけたんだ。」
え、いや、もう、と何やらごにょごにょしていたが
また俺に背を向けた。そうそうそれでいい。
「かわいいお人形さん。これにしてもいい?」
「…うん。それでいい。」
良い休日だ。なんてことない会話。やさしい沈黙。
こういう日常。
それでいい
「ねえねえ、ひとくちあげるよ。」
「いらない。」
自分から着いて行きたいと言っておいて
ものの数分でつかれただの休みたいだの騒ぐから
仕方なく入った喫茶店。
少しはおとなしくなるかと思ったら逆だ。うるさい。
「なんで。あげるって言ってるだけじゃん。」
「もらったら僕のもお前にあげなきゃいけないだろ。」
「別にいいよ。いらない。」
「お前が良くても僕が嫌なんだ。」
貸し借りは嫌いだ。どんなに小さなことでも。
「はーん。案外気にしいだね。」
「うるさいよ。少しはおとなしくしていろ。」
「ねえ、あなたのケーキも食べたいからじゃない。
本当にただこれを食べてほしかっただけ。いちご、私に譲ってくれたんでしょ?」
「別に。」
つやつやのいちごのケーキは残りひとつで
僕はそれ以外の他のケーキには惹かれなかった。
そしてこいつもこれがいいって言ったからなんだかもうどうでもよくなっただけ。ただそれだけだ。
「じゃあいちご1つあげる。あーん。」
「ああもう…わかった食ってやるからおとなしくしてよ。」
1つだけのいちご。
今まで食べたどのいちごよりおいしくて
お腹いっぱいになった。
1つだけ