僕は逆鬼《あまのじゃく》といって、周りの普通の鬼とは少し違う。
とても凶暴といわれて、他人は僕らを避けてきた。
そんな僕にも友達がいた。同じ逆鬼のチカト。
内気な僕と活発で賢いチカトはでこぼこコンビだった。
そう、僕にも友達がいたのだ。かつて。
僕ら逆鬼は、12歳~15歳頃に成長期がある。いや、これは人間にもあるのかもしれないが、逆鬼のそれは人間のそれとは比べ物にならない。
成長期はいわば覚醒期。逆鬼の本能、殺人欲求が本格的に現れてくる時期だ。
チカトはそれに耐えきれなかった。
このままではいつか誰かを殺してしまう。それが俺にははっきり分かる、自分のことだから。そうなる前に、悪の芽は早めに摘んでおく。
という手紙を遺して自殺した。
あいにくチカトには正しいことが分かる賢さと、悪状況を打破できる行動力があった。
僕はしばらく熱を出した。くらくらする頭で考えた。僕も死んだほうがいいのかもしれない。チカトが判断したことだからきっとそれが正しい。
それは別によかった。でも、どうしても腑に落ちないことはあった。
あんなに優しく賢く正しいチカトが、死んだほうがよかったなんて思えない。ここで僕まで死んだら、それが正しいことになったみたいで、つまりチカトの自殺も正当化してしまうんじゃないかと思った。
僕は生きることにした。
生きててもよかったんだよ、と友達に伝える。
たったそれだけのために。
ある日、結界をくぐり抜けて1人の少女が入って来た。
「……?ここに封印されているのが幻術師カリルレットと知っての事かしら?命知らずね……」
この結界を抜けると、強制昏倒の魔法が襲いかかるようにしてある。相当対策してくるならこれは避けられるが、その少女はあっさり眠ったようだ。
「全く結界の中も広いのよ?手間のかかるお客様だ事ね」
文句を言いながら歩くが、 何にしろ久しぶりの客人だ。丁寧に迎えることにしよう。
しばらくののちに着いた。
12歳といったところだろうか、その黒髪の少女が倒れているのを確認し、その頭の中を覗いて見た。
「……ふうん……馬鹿な子ね」
私と決闘に来たようだ。あまりにも子供っぽい理由で拍子抜け、しかも戦いにすらならなかったことに同情する。
少女を担ぐと意外と重かった為、6歳ほどの見た目と、ついでに記憶性格も幼児化しておいた。
幼女の姿になると、彼女は何故か髪が黄色くなった。元は黄髪で、魔法で姿を変えて黒髪にしていたようだ。
「つまらない戦いなんてするつもりはないわ。一緒に暇な私と暮らしましょう」
森の中を抱えて運ぶ。木漏れ日がふっくらとした彼女の頬に落ちる。
結界なんて物騒なものがあっても尚、この森は美しい。
「ん、んん…………待って……行かないで……」
「ここに居るわよ」
その寝言が他の誰かに向けられたものだとは分かったが、思わずそう答えていた。
「母性かしら」
だとしたらなんて可笑しい事でしょう。
もぞもぞ動いた彼女は体を起こす。
「ん、おきた」
「そうね」
「あなた誰?」
私を見上げる瞳。
その赤い瞳には見覚えがあった。
「私は…………」
私を封印した英雄。
黄色い髪に赤い瞳。
「私は…………カリルレット。貴方は?」
「わたしはムル。ムルン・セブリュー」
彼女は、あの英雄の子孫らしかった。
クルンの髪は空色をしている。
「お兄さんも同じ髪色?」
彼の双子の兄を探すため、特徴をメモしていたときのこと。
「僕とピリンはほんとそっくりだよ、なんせ双子だからね。クールな僕がいたらそれはピリンだって思ってくれればいいよ」
クルンはクールとは言えない仔犬のような顔で苦笑いする。
「クールなクルンか……想像できないな」
「でしょ??」
じゃなくて、もっとこの顔が大人びてくれれば格好もつくんだけどな……と自分の顔をもちもちするクルン。そういう所だと思う。
「あ、でも髪色は実はちょっと違うんだなこれが」
「そうなの?まあ大体同じならいいけど……」
ん゙ん゙ん゙、とわざわざ咳払いするクルン。
「僕の髪は空色で、ピリンの髪は海色!!」
「……でも同じ色なんでしょ?」
「まあ」
「へへ、いくらでも叫んでいいんだからな…仲間どころか地上にすら届きやしねえよ」
見つかってしまった
1年間、ダイルさんの家で隠れて暮らしてきた。
見てはいけない隣国の秘密を知ってしまったユマ達4人は殺されそうになって、そのうちの1人、ランナウが他の3人を逃した。
そしてランナウは……。
とにかくユマ達は逃げてきたんだ。この状況にだけはならないようになんとか逃げてきた。
でももう終わりだ。こうなったらどこまで知ったか吐かされて殺されて、周りの関わった人達まで口を塞がされる。モセウさんも、ヘキさんも……ダイルさんでさえも、きっと国には敵わない。
「そいつは騒ぎそうだから下でヤるぞ」
「嫌だ!やだやだやだ殺さないで!やめて!嫌だあたし何も知らない!話してないからやめて!」
腕を乱暴に引かれるセリの叫び声に心臓が更に大きく跳ねる。
既に気絶するまで殴られたオチホは床に転がされて動かない。
殺されるんだやはり。
あのときの記憶が蘇る。
「逃げろ!」
叫ぶランナウ。彼の魔法で飛ばされるユマ達。
ランナウの胸から飛び出る、鮮血。
「うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ!!!!!!」
「おっと狂っちまったか?静かな嬢ちゃんだと思ったが流石に刺激が強すぎるよなぁ」
「いやあ゙あ゙あ゙ぁ……!!」
「オレはあのヒゲと違って叫び声は嫌いじゃねえから存分に叫びな、諦めと痛みで叫び声がかすれて来る時が堪らねえんだよ……全くあいつは分かってねえな……」
「ゔゔゔ……うあああああああ!」
涙でぐちゃぐちゃで、もう最後の足掻きだと思ったとき。
「叫び声に興奮するとかキモすぎうるッせぇだけなんだよそんなの」
ユマの顔を覗き込んでいた男が後ろを振り返って、そこにはそのひとが立っていた。
「何だおま……うわああああ!!!」
ゴッ
「ッせえなだから静かにしろっつってんだろ!」
男に強い一発を食らわした。
「っ……ダイルさん!!」
来てくれた……!通常運転なダイルさんを見てほんの少し落ち着く。
「ユマ、こいつ死んでねぇよな?」
オチホを指さす彼。
「う、うん。でもセリがまだ下に!何されてるか分からない!!」
「アあすぐ回収して来る。助けが遅れたのはまあ……すまん。あとは安心してオチホ見とけ」
「あ、え、うん」
へたんと座り込むユマ。
下の階からすごい音がして、すぐ止む。
こんなに頼りになる人だなんて、思っていなかった。
そういえば、ダイルさんは事情を知っていたモセウさんが安心して任せるほど、とても強かったんだ。
とりあえず全部仕留めたけど、どうすりゃイイんだ……?という声が近づいてきて安心したユマは、そこからの意識がない。
気がつくと当たり前のようにダイルさんの家にいて、ユマはまた泣いてしまった。
始まりは
始まりは紫の光だった
私の中に飛び込んだ紫の希望が、今の私を動かしている
始まりは白い光だった
強い光にあてられて、いつのまにかワタシ自身が光となっていた
始まりは黒い光だった
強大な力を知って、自分のために利用した
始まりは藤色の光だった
今はもうないけれど、確かにあの光が俺を駆り立てたことは忘れない
始まりは金の光だった
あの忌々しい光が、最後の救済の光だったことが今更分かった
始まりは赤い光だった
けしてその光に飲まれないように、おれは今も走る
始まりはいつも……