ある日、結界をくぐり抜けて1人の少女が入って来た。
「……?ここに封印されているのが幻術師カリルレットと知っての事かしら?命知らずね……」
この結界を抜けると、強制昏倒の魔法が襲いかかるようにしてある。相当対策してくるならこれは避けられるが、その少女はあっさり眠ったようだ。
「全く結界の中も広いのよ?手間のかかるお客様だ事ね」
文句を言いながら歩くが、 何にしろ久しぶりの客人だ。丁寧に迎えることにしよう。
しばらくののちに着いた。
12歳といったところだろうか、その黒髪の少女が倒れているのを確認し、その頭の中を覗いて見た。
「……ふうん……馬鹿な子ね」
私と決闘に来たようだ。あまりにも子供っぽい理由で拍子抜け、しかも戦いにすらならなかったことに同情する。
少女を担ぐと意外と重かった為、6歳ほどの見た目と、ついでに記憶性格も幼児化しておいた。
幼女の姿になると、彼女は何故か髪が黄色くなった。元は黄髪で、魔法で姿を変えて黒髪にしていたようだ。
「つまらない戦いなんてするつもりはないわ。一緒に暇な私と暮らしましょう」
森の中を抱えて運ぶ。木漏れ日がふっくらとした彼女の頬に落ちる。
結界なんて物騒なものがあっても尚、この森は美しい。
「ん、んん…………待って……行かないで……」
「ここに居るわよ」
その寝言が他の誰かに向けられたものだとは分かったが、思わずそう答えていた。
「母性かしら」
だとしたらなんて可笑しい事でしょう。
もぞもぞ動いた彼女は体を起こす。
「ん、おきた」
「そうね」
「あなた誰?」
私を見上げる瞳。
その赤い瞳には見覚えがあった。
「私は…………」
私を封印した英雄。
黄色い髪に赤い瞳。
「私は…………カリルレット。貴方は?」
「わたしはムル。ムルン・セブリュー」
彼女は、あの英雄の子孫らしかった。
10/25/2024, 9:46:15 AM