「うおおおおおお!」
「…そんなに凄い?」
ゆっくり話したいから、ムンを公園に連れてきた。すると遊具を見てムン(20)が叫び出した。
「こっちの世界の公園ってこんなカラフルでつるつるなの?遊園地じゃんこれ」
「確かによくできてるよね」
遊んでくる!と彼女はダッシュして行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
これが保護者の気分か…。
ベンチにいてもすることがないのでとぼとぼ着いていく。
「これ何!?」
「鉄棒だね、持って回ったりするやつ」
「これは?」
「ブランコ。上乗って揺れる」
「なななにこの幾何学的な遊具」
「ジャングルジムだね」
うおーすごい!木登りしてるみたいで楽しい!とはしゃぐムン(20)。
「私達、木登りなんて絶対できなかったじゃん」
脈絡なくそんな事を言ってきた。
「ああ、よく言われたな、『木に登るなんて…はしたない』」
…そうか、ムンは今特殊過ぎた幼少期をやり直しているのかもしれない。思えば彼女はずっと自由を希求して見えた。
北からの風で、彼女の白い服がはためく。
肺は風を食んだ。
声が聞こえる。
俺は能力者と呼ばれていて、いわば霊能者とか巫子とか。そういう部類のちょっと変わった人間。
だから色々見えたり感じたりするわけだけれど、「あの声」だけは正体が分かっていない。
俺には兄が2人いて、そのうちの上の兄さん、リシャメンといるときに「声」が聞こえる。
気になりすぎているので、今日は正体を突き止めて行こうと思う。
「リシャ」
「どした」
「『声』と話したいんだけど…」
「あーなんか聞こえるんだっけ、いいよいいよ。おれもちょっと怖いし正体聞いてよ」
そう言いながらリシャはちっとも怖そうじゃない。強いのだこのひとは。
「声さん、こんにちは」
〈えへへ、おはよう!おはよう!〉
声さんはこのように気まぐれに喋る。声質的には女児のようだけど、そうだとしたらリシャ兄さんがロリコンの上何か因縁があって兄さんが声さんを殺してそして魂が取り憑いた…という予想ができてしまうが…。
「リシャ…ロリコンだっけ」
「待て待てなんでそうなった」
焦る兄。
「声さん、あなたの名前は?」
〈ない!ないよお!〉
うーむ分からない…。
「じゃあ、取り憑いてるこの男の人とはどういう関係なのかな?」
複雑そうな顔のリシャ。
〈ええ、このひとー!?この人はね、この人はね、すきなひと!!すきなの!!〉
「好きな人?」
〈だいすき!だってイケメーンだもの!〉
「…ちなみに、この人に殺されたりした…?」
ぶんぶん首を横に振るリシャ。
なんか怪しいんだよなあ…。
〈ころされ?あはは殺されてなんてないよお!イケメンだから取り憑いちゃったったったのよ!あたし妖精なんだけどね!サボって隠れてるのお!〉
なるほど。
姿を見せないわけだ。声さんは、仕事をさぼってイケメン鑑賞をしている妖精らしい。
「……声の人なんだって?」
「リシャごめん、ただ妖精がイケメンだから取り憑いちゃっただけらしい」
「なんだよ!何もしてないはずなのにめっちゃドキドキしちゃったじゃん」
俺も兄が変態かもしれないと思ったら変に緊張してしまった。
「モテるねえ」
「はいはい俺顔がいいですからね」
むかつくなあ。
〈あたし追い払われる?めいわく??〉
「ううん、そこにいていいよ。いいよねリシャ」
「お、おおん…」
恐らく嫌なのだろうがしぶしぶ頷く兄。よし。
「ほらイケメンもいいってよ」
〈やった!やった!すきすき!!じゃあじゃあ、友達も呼んでくるね!!〉
「え」
「え?えって何イグ怖い何何」
残念ながら、その日から声が増えた。
それは秋のこと。
「香欅と玻璃と転美を5つづつ下さい」
フルートのような声、薄い金髪、藤色の奥が見えない瞳、柔らかそうなくちびる、細いが骨は出ていない美しい腕、ほのかに香る果実酒のような匂い、財布を取り出すその動作、人間離れしたその雰囲気。
その人は神のように美しかった。
「……?」
動かない俺に、彼女は首を傾げる。
…いや可愛…じゃなくて!
「す、すみません!全部一緒でいいですか?」
「はい」
果実を包んで渡す。ぼーっとしていたからな…これであっているだろうか。
「…あの、中身間違っていたかもしれないので確認いいですか?」
「私も見ていましたから。大丈夫ですよ」
「あ、そうですか…ヨカッタデス」
あっさり断られてお金を受け取る。
「あの!また来て頂けますか?」
何もうまくいかなかったのになんて図々しい質問だろう。
でも彼女はにこっと笑った。
「ええ、きっと」
それが、霧のような彼女との始まりだった。
「周りの魔法は!?」
「えっと、全体に魔法感知、奥に生命探知、1番奥は魔法感知して自動で閉まるようになってる扉みたいなのがあると思う」
「いつも通りってとこだな、ブチ破るぜ」
「うん!」
俺は長く怪盗をしているが、ここ5年程で助手をつけるようになった。
あ"?勿論腕がなまったからじゃねえよ、魔法の位置が分かると好きに暴れられてクソ程楽しいって分カったからな。
スリルを楽しむ頭のネジ外れた怪盗達とは一緒にしネェで欲しいぜ。俺は堅実にボコしてぇんだ。
ンでその助手ってのがこのユマ。チョっと前まで姉貴に頼まれて保護してた3人のガキの1人だったが、こいつは俺の手伝いをしたいって家出てかなくてよ、じゃあ役に立てよとこうして連れて来てる。
どうなっても自己責任だカらな!
「あの、あの、ちょっと速くて…っ」
「あ?固定してあるんだから落ちねェよ静かにしてろ」
「だ、だけど怖くて…」
はァ…マジかよコイツ面倒クセえな
「あの、あの、ちょっと速くて…っ」
ユマは、ダイルさんに抱えてもらって移動している。どうせ戦闘が始まると毎回そのへんに放り出されるのだけど、体温が伝わってくるし声に吐息が混じるし、とにかく近すぎて緊張してしまう。
それに合わせてこの速さ!心臓バクバクで頭ぐるぐるしてしまう…。
「あ?固定してあるんだから落ちねェよ静かにしてろ」
小声ですみませんっ、と謝る。
「だ、だけど怖くて…」
チッ、と舌打ちが聞こえて体がビクッとした。めんどくさくてごめんなさい。もう付いてこなければよかった。
ギュッ。
え?
腕の力を強くしてくるものだから、ユマはもう今日が命日なのかと思った。
「ちゃんと掴まってろ!」
大事にされているのかな。
…でも、ユマの心臓はもうだめかもしれない。
世界三大不可能魔法、貴方は3つ全部言えるだろうか?
まず、命の魔法。
煌々石で擬似的な魔工知能は作れても、魂の出来とは比べ物にならないし、特定の相手の魂を作ることはできない。
次に、無の魔法。
魔法で何かを作り出すことはできても、物質を消すことはできない。これにより人を一瞬で消したりはできないのである。
最後の1つが、時の魔法。
過去へ遡る、または時を止めることが出来ない。ちなみに未来へは行けると分かっているらしく、それでも戻って来れないならたくさん寝た後と変わりないんじゃないかと思う。
なんていう風に思いを巡らせているが、私は今お皿洗いをしている。バイト中だ。お金がほしい。
そして今、お皿が手から滑り落ちたのを認識した。ちょうど…「世界三大不可能魔法」について語り出した頃だ…。
これ怒られるよね…。…うん、だよね…。
本当に思う。時よ止まれ。
でももしかしたらこの一瞬でここまで思いを巡らせたことは、時が止まったと言っても過言ではないかもしれない。
とか思って。
ガシャーン
「おい!また割ったな!!!!」