「空恋」
空に恋する、春夏秋冬。
春の空、水色の絵の具をさらに薄めたような淡い色は
薄い雲との境界線が曖昧で。
眺めているこちらも、一緒に溶けていきそうな
この美しい空の一部になりたいと思うほど。
温かい日差しと、まだ少し冷たい風と共に、淡い桜が空に舞う光景は、美しい淡い春の空。
夏の空、広く広がる真っ青な空と、真っ白な雲。
季節の中で、1番空が広く見える夏。
強い日差しが視界を狭めても、青い空だけはくっきりと、この目に映る。
青い空のキャンバスの前では、白い雲も、黄色の向日葵も、草木がより一層鮮やかにうつる。
全てを鮮やかに、美しくみせる、夏の空。
秋の空、日没の空は緋色が薄く伸ばされ、グラデーションをつくる。時計と夕日が、秋の始まりを実感させる。
朱色、緋色、紫といった様々な色が混じりあう。
その前に映る、風に靡くススキは、そんな色達を混ぜるパレットの上の筆の様。
美しく感じる色を自然が作っている。
夏の余韻が残る生暖かい風と共に、ススキのすれる音がこの身に溶け込むように、浸透する。
五感と共に、すべての美しいものが溶け込む秋の空。
冬の空、青には遠く、白いような灰色の空。
朝と夜を溶け込ました不思議な色をしている。
四季の中で、一番色を感じさせない空ではあるが
その分、何よりも太陽の日差しを反映し
この世界を美しく照らしている。
どんなに風や空気が冷たくても、空から降り注ぐ光は、平等に寄り添い、温かさを思い出させる。
光の温かさと儚さが混じりあった、美しい冬の空。
「遠くへ行きたい」
「クリスタル」
「夏の匂い」
───── …市の最高気温は36度。
本日も非常に厳しい暑さとなっております。
外出される際は、熱中症対策を...──────
いつも見ているニュース番組のお天気コーナーでは、連日、決まり文句のように熱中症や暑さに関する注意喚起が行われている。
6月の末にも関わらず、真夏並みの暑さだ。
リビングの南向きの大きな窓にはカーテンがかかっており、強い日差しは部屋に入ることなく遮られている。
大きく息を吸うと、スーッと鼻に抜ける冷気が気持ち良い。少し前からフル稼働となったエアコンのおかげで、室内は快適な温度に保たれている。
いつからこんなにも暑くなったのだろうか。
昔は真夏でも、朝からエアコンが稼働することはなかったはずだ。
カーテンの隙間から見える、コンクリートの道路は太陽でもないのにギラギラとしており、眩しい。
今日は貴重な休日だが、この光景と、読み上げられていた気温のことを思うと、外出する気にもなれず、床にゴロリと転がった。
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目が覚めると、当たりは少し暗くなっていた、というよりも日が陰っているだけでまだ外は明るい。
時計を見ると、時刻は18時半。
少しの昼寝のつもりが、かなり寝入ってしまったようだ。
──────やってしまった、貴重な休日がほとんど寝ているだけで終わってしまったようだ。
これも全部、やる気をなくさせる暑さが悪い
と責任転嫁しながら外を見る。
コンクリートをギラギラさせていたあの日差しは、少し陰りをみせており、時期相応の気温にみえる。
(・・・少し散歩にでも行くか)
そそくさと、着替えをすませて外に出る。
ガラリと玄関を開けると、生ぬるい空気が全身をおおう。
玄関は扉1枚開くだけで、室内の冷気と外の熱気が混じりあって不思議な空間だ。
外に出て、一息深呼吸。ぬるい空気が鼻をとおる。
先程までのエアコンの冷気をまとっていた体が、一瞬で外の空気ととりかえられたようだ。
少し湿気がまとわりつくようだが、そこまで不快感はない。
ぬるくなった体と共に、夕暮れ時の散歩に出かける。
スーッとしたエアコンがよく効いた室内は快適だが、外のなまぬるい空気の方が、体によく馴染む気がする。
「カーテン」
いつもはアラームがやかましく瞼をこじ開けるが、休日である今日はなにからも邪魔されることなく目が覚めた。
半分開いた窓、網戸の合間からは、秋風か吹き込んでいる。風と共に揺れるカーテンが巻き上がり、朝の日差しが枕元、私の顔にも降りそそぐ。
目が覚めてはいるが、まだ覚醒仕切っていない頭は、靡き揺れるカーテンをただ眺める。
効果音をつけるなら、ふわり、ゆらりだろう。
風にのって、変幻自在に形を変えるカーテンは、秋風が形となって見えているようで、おもしろい。
本来目に見えずに、感じることしかできないものが、こうして間接的に見えるのは、不思議な気持ちになる。
そんなことを思いながらも、少し肌寒くなってきたこともあり、名残惜しくも窓をしめる。
先程まで生き物のように動いていたカーテンも、ただの布になってしまった。