saku

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9/15/2023, 6:03:37 AM

火傷したことがある。大火傷。
治るのに何年もかかり、手術も何度も繰り返した。
その経験から得たことはたくさんある。痛みはこうして流すといいよ、その瞬間は我慢だね、このムズムズは治る時の感覚なんだ、こういう世界もあるんだよ、云々。

でも私にとっての一番の収穫は、肉体が燃える時の感覚を得たことだった。
別に衒っているのでも、何かを喩えているのでもない。
率直に、自分の体が燃えていくのはどんな感じか知れたのは、とっても大きな経験だった。

高熱で外側が溶け、なかみが露わになった時、すごい力で自分のシン…芯、真、神、が身体の外へと引っ張り上げられた。

上から見える。はっきり見える。
夕暮れ。
通りすがりのおじさんが何かの気配に振り向いた。
そしてすぐに、その暗がりに向かって駆け出した。あ、助けるんだ。。

気がついたらその人に背負われて、私は湯気の出る指先で、自分の家がある方向を差していた。
痛い。知ってる痛みの中で一番痛い。
こういう時は泣くんだよね。ええと…
うわーん、うわーん。
その瞬間、恐怖と絶望が全身を貫き、痛みはさらに強く深く突き刺さった。

あの時一回燃えた。その後に行く道が完全に変わった。リセットした感じ。
その過程で苦しんだり悲しんだりという経験は、要するにオプションなんだって分かってしまった。
でもリセットするたび毎回ほんとに燃やしてたら、文字通り身が持たない。
それも分かった。身をもって。

命を肉体というなら、必ず燃えてなくなる。
命をシンというなら、決して尽きることはない。
自分をどちらと捉えるかは、自分で決めていいんです。

9/14/2023, 5:58:24 AM

夜明け前

激しく窓を叩く雨と家を揺らす風で眠れず、思い切って夜の浜に出て来た。
荒れ狂っていると思っていた海は、意外に穏やかだった。
温かい潮風は一瞬で髪をボサボサにした。子供の頃、法事で久しぶりに会った伯父に頭を撫でられた感触を思い出す。

空は月も出てないのにほんのり青く明るい。
家を出た時は止んでいた雨がまたパラパラと降り出した。大粒だ。私は持っていた傘を広げた。
強風と横殴りの雨の中、夜の砂浜に一人いることの心細さに少し慣れて、周りを見回してみる。
水平線の辺りがほんの少し明るい。

その時、ぶーんと音が聞こえてきた。
エアコンの室外機みたいな音。
風が一瞬冷たく変わり、海の上に何かが、とても大きな何かが立っているのが見えた。
竜巻だ。竜巻がこちらへ向かって来る。
…まさかね。

それは海の水を巻き上げながら、ゆっくりと移動している。ぐるぐる回る透明な渦。目を凝らして見ると、渦の中に海藻や木片らしきものが見えた。貝殻や小魚なんかもいたかもしれない。
キラキラ光りながらうねりながら、空へ向かってどこまでも伸びていく水の柱。

不思議と怖さは全くなかった。それどころか無性に楽しい気分になり、私は傘を放り投げ手を広げ、綺麗とかカッコイイとか、夢中で叫んでいた。
叫び疲れると目を閉じて、あとはただ包まれるのを待った。両手を高く挙げたまま。

そうだよね。家の中にいるから怖かったんだ。思い切って外に出ればよかったんだ。雨に濡れるのなんて全然平気。そんなの何も怖くない。何もなければ風は危なくないんだし。波浪警報、身の安全を第一に、これまでに経験したことのないような云々。難しいことは何一つない。今、ここにいるだけ。

急に視界が明るくなるのを感じて私は目を開けた。夜明けだ。
竜巻は、行ってしまった。
小さな葉っぱや砂を含んだ弱い風が、私の体をぐるっと囲んだ。
そしてもう何もなくなっていた。

散らかった浜辺を朝日が容赦なく照らし始めるのを横目に見ながら、私は急いで帰ってシャワーを浴びた。
体に残った竜巻の気配が消えないうちに、それと共に深い眠りに落ちた。





9/13/2023, 3:32:32 AM


麻の服、稲光り、万年筆、〇〇投手、
ゼルダの伝説の景色、トルティーヤ、
ミシンのフォルム、デンジくん、
誰かを祝福する時、植物、電車、
マキタ、広いとこに出た時、水晶、
出会う前のあの感じ。

好きなことやものたくさん

9/12/2023, 2:21:08 AM

カレンダー

二段ベッドの上で寝てた頃、枕元に小さなカレンダーを貼っていた。
黒と赤のインクで印刷された、ほとんど半透明の薄い薄い十二枚の紙の束。
下に小さく横書きで〇〇米穀店、住所、電話番号。

楽しみは日付と曜日とその周りに表記された六曜を見ることだった。
数字と曜日と漢字の取り合わせがすごく面白かった。

眠る前、下では姉が大音量でエアロスミスをかけている。
私は目を閉じて、すぐ目の前の手が届きそうな天井をぼんやり見てる。
すると1分くらいでブワッと星空が浮かぶ。エアロスミスはここで退場。
鼓動に合わせるようにして、紺色の、輝く宇宙がどこまでも拡がっていく。
私はその星の一つ一つに名前を付ける。あなたは先勝、あなたは仏滅、大安さんはその隣りね。友引と三りんぼうは今日は一緒に遊ぶの?
名前を呼ばれた星は、まるで選手紹介のアナウンスに手を挙げるみたいに、一つ一つ光って応えてくれる。
今でも「米穀店」という文字を見ると、少しワクワクしてしまうほど、当時の私にとっては楽しい、何となく秘密の遊びだった。

今夜久しぶりにやってみようかな。
米穀店のカレンダーはiPhoneになったけど。
明日は、9、月、13、日、水、大安。あなたの名前は大安ね。
また返事してくれる。きっと。

9/11/2023, 12:15:23 AM

喪失感

喪失感を、得た。
ああこんな感じか
これが噂の…

それがここに有る、と実感する時
それが無かったのはどんな感じか、
知ることになる

生まれた!
それと同時に死も生まれた!

同時に真逆のものを得る
そこに感情を添えるかどうか、
どんな感情を使うかは
必ず自分で選んでる

私が決める、決めていい
ただ、それだけ


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