『鏡の中の自分』
私は疲れていた。
1日の中で数時間の間、動けなくなる時がある。
意味もなく叫び出したかった。
「たすけて」と言いたかった。言っているつもりだった。
でも、周りは気づいてくれなくて、
どうして気づいてくれないのかって、泣いて、鏡を見て、納得した。
鏡に映った私は、思っていた以上に普通だった。
顔色が悪いとか、疲れてそうとか、そういうものを、
目の前の自分からは感じられなかった。
元気だとは言えないけれど、
ものすごく疲れているとも言えなかった。
普通の、その辺にいる高校生と変わらなかった。
『眠りにつく前に』
眠りにつく前に、誰かの声を思い出す。
「成果が出ることだけが『頑張ってる』じゃない。」と言った。
あの声は、一体誰のものだろう。
『理想郷』
暖かい日差しが、窓の向こうから差し込んでくる。
明かりをつけていない部屋の中を、優しく照らす。
部屋着の上からカーディガンを羽織る。
水色で少し大きめのカーディガン。暖かいから冬の必需品。
私のお気に入り。
キッチンでマグカップにホットチョコレートを入れる。
それを両手で包んで、ソファーに座る。
少しずつ飲みながら、ぼんやりと遠くの音に耳を澄ます。
大通りから少し離れているし、この辺りは人通りも少ないから、よく耳を澄ませないと車の音も人の話し声も聞こえない。
直で聞くと恐怖を感じる都会のざわめき達も、ここまで小さいと気にならなくなる。
ホットチョコレートを飲み干して、空になったマグカップをテーブルに置き、ぐいっと伸びをする。
さてと。大学へ行かなくては。
せっかく第1志望の大学に受かったのだ。都会の音が怖いなどとは言っていられない。
勢いをつけてソファーから立ち上がる。
私の一日、始まり。
『暗がりの中で』
暗がりの中で、君の声がする。
「人間なんて嫌いだよ。」
君は言った。
「どうして?」
と僕は聞く。
「面倒だから。」
と君は答えた。
「何が?」
と聞くと、
「人間関係が。」
と返ってきた。
暗がりの中の君との会話。
僕は君の声しか知らないし、
君も僕の声しか知らないはずだ。
これは君との会話であり、僕の自問自答でもある。
ここは、僕と君だけの世界。
同時に、僕だけの世界。
他には何も無い、静かな空間で、僕と君は言葉を交わす。
「嫌いな人間関係ってどんなの?」
「この先ずっと続いていくであろう関係。家族とか、恋人とか。」
「友達は?」
「友達は平気。どうせ学校卒業したら終わるんだから。」
僕は幸せにはなれない。幸せを避けているような自覚はある。
明るい場所に、身を置きたくない。
暗闇で、雨の音でも聞きながら、身を固めて、静かに、息を殺す。
そんな風でいい。僕の日常はそんな風でいい。
周りとは当たり障りのない関係で、少し離れたところから、光を眺めていられればいい。
結論。
結局僕は、人が嫌いだ。
でも、
僕の中で自分が叫ぶ。震える声で、およそ叫びとは言えないような叫び声で。
「でも、何か変わるかもしれないよ。
だって、僕のこと、気にかけてくれる人もいるんだから。ちょっと自信もってみようよ。優しい人を突き放すのはやだよ。
大丈夫。きっと大丈夫だよ。」
「何が大丈夫なんだよ。」
暗闇の向こうから、君の声が聞こえる。
知ってる。本当は分かってる。強がってるだけだって。
それでも、君はきっと一緒に居てくれるから。
きっと。たぶん。きっと。
『秋晴れ』
夏とは違う、柔らかい青。
身体を通り抜けていく風。
1年前の自分を思い返す。
この世界が、怖くて、怖くて。
「消えたい」と願っていた。
あの時の感情を忘れたくない。
でも少しずつ、忘れていくのが分かる。
だから必死に書き留める。
あの時の自分が、いなかったことにならないように。
消えないように。
頭上には、高い青空が広がっている。