題 微熱
「寝てろよ」
学校の保健室で寝てるってメールした途端、駆けつけてきた彼氏は開口一番こう言った。
「いや、微熱だから大丈夫、ちょっとふらふらしただけだし、ごめんね、心配かけて」
私はちょっとだけほてった自分の体を保健室のベットから起こした。
「微熱だって熱は熱だろ?寝てろって。今日は授業終わったら俺がつきそって帰ってやるから」
セナは心配そうな顔で私の顔をのぞき込みながら額に手を当てた。
「そんな大げさにしなくていいよ、ちょっとだけ熱があるから、念の為休みに来ただけなんだから、大げさだってば」
私はセナがあまりにも心配そうな顔で言うので、あわてて否定する。
授業全部休むなんて、勉強遅れちゃう。
他の人のノート写させてもらうの悪いし。
「あのな、俺は分かってるんだからな。ミノリは、滅多に弱音吐かないんだから。そんなミノリがこうして保健室来たってことは、結構具合悪いってことだ。・・・だろ?」
・・・鋭い。
確かに、ちょっとフラフラしてて、座ってるのしんどかったから、保健室行きを先生に申請したよ。
・・・でも、寝たら少しは良くなったし・・・。
「寝たら良くなったとか思ってるだろ?」
超能力者?!と一瞬思う。
セナが私が思ったことをそのまま言う。
「たまには休めよ。いつもがんばりすぎなんだから。勉強だって夜遅くまでやってるって言ってたろ?だから、疲れもでたんだって。最近寒いし。俺、お前に風邪酷くなって辛い思いさせたくないんだ」
「セナ・・・」
いつになく優しい彼氏の言葉にジーンとする私。
私頑張りすぎかな?確かに周りの人にはいつも頑張ってるねって言われるけど・・・。セナはそんな私のこと、見抜いてくれてたんだね。
「ありがとう、セナ、大好き」
嬉しくて笑顔で笑いかけると、セナは俯いた。
「いやっ、そっ、そんなことっいきなり言うなよなっ、心の準備あるし・・・それにミノリ可愛すぎなんだって」
そんな事を言われて逆にこっちが照れてしまう。
「あ・・・ごめんっていうか、そっちこそ・・・いきなり可愛いとか言わないで・・・」
わたしがそう言うと、セナは、だって本当なんだから・・・とボソッという。
・・・なんだか熱が上がってしまいそうだ。
セナはハッと気づいたような顔をすると、私をベットに優しく寝かせて、額に手を当てた。
「大丈夫か?だから、今日は一日休んで、後で俺と一緒に帰ろう、迎えに来るな」
「・・・うん」
優しいセナの気持ちが伝わって、私は素直に頷く。
「よし、じゃあ授業戻るわ」
セナはチャイムの音に立ち上がった。
「ありがとう」
私はセナに声をかける。
セナは笑顔で頷くと保健室を出ていった。
・・・ありがとう、と再び思う。
私の弱い所、頑張りすぎて休めない所を見ていてくれて、寄り添ってくれてありがとう。
大好きだ。
私の彼氏がセナで良かったと改めて思った。
題 太陽の下で
太陽の下私は眩しく感じながら日陰を選んで公園のベンチで休んでいた。
ここに座って太陽を見上げると、あこがれのような気持ちが湧いてくる。
太陽は全ての生き物にエネルギーを与えているから。
そのエネルギーはみんなに元気を与えて、活力を与えてくれるから。
そんな人、周りにいる。
ひまわりみたいでみんなに憧れ好かれ、元気の塊みたいな女の子。
私は違うから。
私はエネルギー発電なんて出来ないから。
どちらかと言うと人からエネルギーもらいたいって思ってしまうから。
だから少し暑い位のこの日差しが少し羨ましくも妬ましい気持ちで見ている。
太陽には決してなれない私。
私の好きなあの人もあの太陽のように明るい人に惹かれてる。
毎日可愛いって沢山言ってて・・・へこむなぁ。
私はベンチに座って頭上の日陰の元になってくれる木を見上げる。
こんな風に優しく出来たら良いのに。
太陽みたいにはなれなくても、木のように優しくそよそよと吹いて、人に安らぎの空間を感じさせられるようになれればいいのに。
太陽のようなあの子が好きな人が、振り向いてくれる保証なんて何もないけど。
でも、何かあれば、そしたら自信がつくと思ったんだ。
私は自分を好きになりたいの。
いつも醜い感情であの人と太陽のようなあの子を見ていたくないから。
だからお願い・・・。
木を見上げて私は祈るような気持ちで語りかける。
私もこの木みたいに癒しを与えられるように、何かを人に与えられるようになりたい。
そして、あわよくばあの人を振り向かせたい。
そんな私のエゴ満載の願いが届いたかどうかは分からないけど、木は風にさらさらと揺られて優しく木の葉を揺らした。
そんな光景を見ていたら、私は柔らかな優しさを分けてもらった気がしたんだ。
やっぱり木の癒しの力は偉大だ。
なんだか、根拠はないけれど、いつの間にか少し自信がわいていたから。
題 セーター
あのね、セーターって苦手。
どうしてって?だって素材がチクチクするでしょ?
それから、熱くなりすぎちゃうの。
冬なんかセンターにコートじゃ暑がりな私には暑すぎて、コート脱ぎたくなっちゃう。
置き場もないのにね。
で、手で持たないといけなくなるのよ。
あとはね、洗濯すると縮むのもよくないわよね。
縮むと着れないもの。
そして最大の敵はね、静電気なの。
パチパチパチパチ、火花みたいにパチっとして痛い。
地味な痛さが精神的ダメージを増やす。
だから、私は冬にセーターは着ないんだ。
私のクローゼットには1枚もセーターがないの。
冬のセーターは私よりも寒がりさんのものだと思っているわ。
題 落ちていく
私は奈落の底へ落ちていく
落ちていってそのまま暗闇に呑まれる。
そんな夢ばかり見ている。
目が覚めると冷や汗で、びっしょりだ。
冬なのに、汗が出て全身が冷たい。
どうして悪夢ばかり見てしまうんだろう。
どうして私は落ちていく夢ばかり見るんだろう。
人が出るわけでもない。
何か展開があるわけでもなくて、ただ落ちる夢。
・・・理由は何となくわかってる。
「ミズキー」
そう。この声の持ち主よ。この子こそ、この夢の諸悪の根源なんだから。
「やだ」
「何よ?顔見るなりやだなんて。冷たいな〜」
私の部屋に入って来てあっけらかんと笑う幼馴染のユイは、私の拒絶の言葉なんて何も気にしない。
「だって、私の家に日曜に来る目的なんて一つじゃない」
「あははっ、さすがミズキっ、察しいいねっ」
ユイは明るく笑うと、ポップコーンバケットを抱えて笑う。
分かってるのよ、入った時からポップコーンバケットと、お出かけ用のキャラクターのカバンで来てたんだから。
ユイは、大の遊園地好きで、しかも、近くにあるもんだから、割引券がよくチラシとともに入ってくる。
だから、小さい頃から、家族ぐるみで遊園地に行ったりした訳だけど。
とにかくユイはジェットコースター狂だ。
小さい頃はユイのお母さんが付き合ってたけど、大きくなるにつれて、私がいつも付き合う羽目になっていた。
聞くと、もう母親と遊園地に行く歳じゃないらしい。
・・・いやいや、大迷惑。私はジェットコースターが大の苦手。
だからいつも断ろうと全力を尽くす・・・んだけど。
「私、苦手だって言ってるでしょ?今日こそは行かないよ」
「え〜、私の高校遠いから、友達となかなか会えないし、何よりミズキは遊園地からも私の家からも近いもん。いつも優しいから私に付き合ってくれるし」
「優しいって、無理やり連れて行ってるじゃんっ」
私の抗議の声はユイには届かない。
「そこが優しいんだよ、ちゃんときてくれるもんね。まさか、私のこと一人で行かせたりしないよね?ボッチで遊園地なんて寂しすぎるよ、ねぇ、大事な幼馴染にそんな目にあわせないよね?」
ユイは、うるうるした目で、私を見つめた。
・・・どうしてだろう。この目には逆らえない。
結局最後は付き合うことになっちゃうのよ。
「もー、やり方汚いよね。いつも」
私がこぼすと、ユイはえへへっと笑う。
「わーい、行ってくれるの?だからミズキって大好きっ」
ユイに抱きつかれながら、私は今日も奈落に落ちていく夢を見るんだろうか・・・とため息をつかずにはいられなかった。
題 夫婦
「ねえ、今日いい夫婦の日だよ」
私が朝の支度に慌ただしくしている時に夫が私に期待を込めたうるうるした瞳で訴えかけるように話した。
私より年下の夫。
仕事先ではしっかり者のようだが、私の前では精神年齢が下がりがちだ。
「うん、そうだね」
私は朝の慌ただしい時間に言われて、半ばおざなりに答える。
「いい夫婦の日なんだから何かしようよ〜」
「え〜いいよ、だって結構最近できたよね?その制度、制度に負けたみたいでやだっ」
私も夫と話す時は精神年齢幼くなりがちだ。
「制度に負けるって・・・なにそれ、いいじゃん負けたって。今日はいい夫婦なんだから君に何か買ってきてあげるよ」
夫が私の言葉に面白そうに笑いながら提案する。
「だいじょ〜ぶ。気持ちだけで嬉しいよ、今月はあなたの誕生日でまだお祝いもあるんだし、お祝いばっかしてたら我が家はお祝い破産しちゃうよ」
「お祝い破産、んー、確かにね、じゃあ今日は特別優しくするねっ」
夫が、私の言葉に、またしても笑ってからニコッと私を笑顔で見る。
何か愛しいものを見るようにいつも見られるから私は落ち着かなくなる。
「うん、ありがと・・・まー言わせてもらうといつも優しくしてほしいけどねっ」
照れ隠しにちょっと可愛くない事言うと、心外そうな夫が、軽く抗議する。
「えー、僕、いつも君には優しくしてるよ」
「う、うん、確かにね。じゃあ、いつもどおりでいいから。いい夫婦の日なんて、きっとどこかの企業が利益目的に制定したんだからさっ、私たちはいつもどおりでいようよ」
「君って本当に面白いこと言うよね」
あなたもね、と私は心の中で夫を見ながらつぶやく。
夫みたいな変わった人、、、もといユニークな人、なかなか人生で巡り会えない。
「ねえねえ、そんな悠長にしてるけど、時間大丈夫?遅刻じゃない?」
私がさりげなく時計をみて言うと夫は焦ったように動きを早める。
「あっ、まずいっ!!遅刻っ」
慌ててカバンを持って玄関で靴を履きかける夫に、私は玄関までついて行ってクイズを出す。
「さて、質問です、私の右手に持っているものは何でしょ〜か?」
私のにやにや笑いを見て、私の右手に目を移した夫は焦った顔をする。
「あっ、スマホ忘れてたっ!!」
「正解、はい、もう忘れ物ない?」
私が、クスクス笑いながらスマホを渡して聞くと、夫は少し拗ねたような顔をする。
「もうないよ・・・・多分ね。じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
私は笑顔で手を振って送り出す。
夫って本当に観察していて飽きない。
多分相手からもそう思われていそうだ、と感じる。
いい夫婦の日じゃなくても、私たちきっといい夫婦・・・だよね?