題 落ちていく
私は奈落の底へ落ちていく
落ちていってそのまま暗闇に呑まれる。
そんな夢ばかり見ている。
目が覚めると冷や汗で、びっしょりだ。
冬なのに、汗が出て全身が冷たい。
どうして悪夢ばかり見てしまうんだろう。
どうして私は落ちていく夢ばかり見るんだろう。
人が出るわけでもない。
何か展開があるわけでもなくて、ただ落ちる夢。
・・・理由は何となくわかってる。
「ミズキー」
そう。この声の持ち主よ。この子こそ、この夢の諸悪の根源なんだから。
「やだ」
「何よ?顔見るなりやだなんて。冷たいな〜」
私の部屋に入って来てあっけらかんと笑う幼馴染のユイは、私の拒絶の言葉なんて何も気にしない。
「だって、私の家に日曜に来る目的なんて一つじゃない」
「あははっ、さすがミズキっ、察しいいねっ」
ユイは明るく笑うと、ポップコーンバケットを抱えて笑う。
分かってるのよ、入った時からポップコーンバケットと、お出かけ用のキャラクターのカバンで来てたんだから。
ユイは、大の遊園地好きで、しかも、近くにあるもんだから、割引券がよくチラシとともに入ってくる。
だから、小さい頃から、家族ぐるみで遊園地に行ったりした訳だけど。
とにかくユイはジェットコースター狂だ。
小さい頃はユイのお母さんが付き合ってたけど、大きくなるにつれて、私がいつも付き合う羽目になっていた。
聞くと、もう母親と遊園地に行く歳じゃないらしい。
・・・いやいや、大迷惑。私はジェットコースターが大の苦手。
だからいつも断ろうと全力を尽くす・・・んだけど。
「私、苦手だって言ってるでしょ?今日こそは行かないよ」
「え〜、私の高校遠いから、友達となかなか会えないし、何よりミズキは遊園地からも私の家からも近いもん。いつも優しいから私に付き合ってくれるし」
「優しいって、無理やり連れて行ってるじゃんっ」
私の抗議の声はユイには届かない。
「そこが優しいんだよ、ちゃんときてくれるもんね。まさか、私のこと一人で行かせたりしないよね?ボッチで遊園地なんて寂しすぎるよ、ねぇ、大事な幼馴染にそんな目にあわせないよね?」
ユイは、うるうるした目で、私を見つめた。
・・・どうしてだろう。この目には逆らえない。
結局最後は付き合うことになっちゃうのよ。
「もー、やり方汚いよね。いつも」
私がこぼすと、ユイはえへへっと笑う。
「わーい、行ってくれるの?だからミズキって大好きっ」
ユイに抱きつかれながら、私は今日も奈落に落ちていく夢を見るんだろうか・・・とため息をつかずにはいられなかった。
11/23/2024, 2:15:55 PM