題 夫婦
「ねえ、今日いい夫婦の日だよ」
私が朝の支度に慌ただしくしている時に夫が私に期待を込めたうるうるした瞳で訴えかけるように話した。
私より年下の夫。
仕事先ではしっかり者のようだが、私の前では精神年齢が下がりがちだ。
「うん、そうだね」
私は朝の慌ただしい時間に言われて、半ばおざなりに答える。
「いい夫婦の日なんだから何かしようよ〜」
「え〜いいよ、だって結構最近できたよね?その制度、制度に負けたみたいでやだっ」
私も夫と話す時は精神年齢幼くなりがちだ。
「制度に負けるって・・・なにそれ、いいじゃん負けたって。今日はいい夫婦なんだから君に何か買ってきてあげるよ」
夫が私の言葉に面白そうに笑いながら提案する。
「だいじょ〜ぶ。気持ちだけで嬉しいよ、今月はあなたの誕生日でまだお祝いもあるんだし、お祝いばっかしてたら我が家はお祝い破産しちゃうよ」
「お祝い破産、んー、確かにね、じゃあ今日は特別優しくするねっ」
夫が、私の言葉に、またしても笑ってからニコッと私を笑顔で見る。
何か愛しいものを見るようにいつも見られるから私は落ち着かなくなる。
「うん、ありがと・・・まー言わせてもらうといつも優しくしてほしいけどねっ」
照れ隠しにちょっと可愛くない事言うと、心外そうな夫が、軽く抗議する。
「えー、僕、いつも君には優しくしてるよ」
「う、うん、確かにね。じゃあ、いつもどおりでいいから。いい夫婦の日なんて、きっとどこかの企業が利益目的に制定したんだからさっ、私たちはいつもどおりでいようよ」
「君って本当に面白いこと言うよね」
あなたもね、と私は心の中で夫を見ながらつぶやく。
夫みたいな変わった人、、、もといユニークな人、なかなか人生で巡り会えない。
「ねえねえ、そんな悠長にしてるけど、時間大丈夫?遅刻じゃない?」
私がさりげなく時計をみて言うと夫は焦ったように動きを早める。
「あっ、まずいっ!!遅刻っ」
慌ててカバンを持って玄関で靴を履きかける夫に、私は玄関までついて行ってクイズを出す。
「さて、質問です、私の右手に持っているものは何でしょ〜か?」
私のにやにや笑いを見て、私の右手に目を移した夫は焦った顔をする。
「あっ、スマホ忘れてたっ!!」
「正解、はい、もう忘れ物ない?」
私が、クスクス笑いながらスマホを渡して聞くと、夫は少し拗ねたような顔をする。
「もうないよ・・・・多分ね。じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
私は笑顔で手を振って送り出す。
夫って本当に観察していて飽きない。
多分相手からもそう思われていそうだ、と感じる。
いい夫婦の日じゃなくても、私たちきっといい夫婦・・・だよね?
11/23/2024, 5:58:49 AM