題 どこまでも続く青い空
どこまでもどこまでも続いていく。
私は河原に座って空をじーっとみていた。
見れば見るほど色がキレイで見入ってしまう。
私の中から何かこみ上げてくる。
この青いグラレーション、雲の柔らかなふんわりしたデコレーション。
それら全てを写真に収めたとしても、決してそのままじゃないんだ。
私にしか見えない瞬間があるんだ。
その一つ一つを確かめるように、私は空をジッと眺めている。
瞬間瞬間を記憶したい。
この透明感のある、どこまでも続いている、宇宙までも続いている途切れない青い空。
その無限にも思える空を、今見えている私ってとてつもなく幸せなんじゃないかって思う。
奇跡のような確率で生まれてきた人類。
他の星にはまだ生物だって観測されてない。
だから、私という存在がこの星に生まれて、平和で、この河原で、とてつもなく魅力的な空を見ている瞬間は、私だけの奇跡なんだ。
いくら見ていても飽きない。
そうして放課後ジッと、空を眺めていると、いつしか空は優しいピンク色に色づいていく。
濃いオレンジに変わり、それから紫色に・・・。
夜の気配がしてきた頃、私は名残惜しく感じながらその場を去る。
今日観測出来た軌跡を心の中に記憶しながら。
明日には見られない今日だけの空を心のスクリーンに投影しながら。
題 衣替え
「ねえねえ、見て!この服、こないだ衣替えして出てきたの、私のお気に入りコーデ!」
少し肌寒くなった秋、私は衣替えで出てきた去年の服を着て、幼なじみのハルトの所へいそいそとやってきたんだ。
実はハルトのこと気になってるし、あわよくば褒められたいという下心付きで。
「ふーん」
ハルトは私を一瞥すると、手元の携帯の画面に視線をすぐに移した。
「ちょっと、何よ、その反応?似合ってるとかそういう言葉はないの?」
「似合ってるんじゃない?あ、よく見るとすごーく似合ってたわ」
厭味ったらしくいうハルトに私の怒りゲージがじわじわ上がっていく。
「ねえ、そういう言い方で言われても全然嬉しくないんだけど」
「はぁ?じゃあどういう言い方だと納得するわけ?」
ハルトとこんな会話したいわけじゃないのに。
好きな人とこういう言い合いになっちゃうことに悲しい気持ちになる。
「えっと、ドラマの中のイケメンみたいに、似合ってるよ、かわいいよとか」
「・・・本当に、そんな事言われたいって思ってる?」
ハルトの呆れ顔に私はうつむく。
良く考えるとハルトのキャラじゃなさすぎる。
プラスそんなこと言われたら私の心臓がもたない。
「あ、やっぱ・・・」
いいって言おうとして顔を上げるとハルトが間近に移動してきてた。
おまけに、顎に手をかけて上を向かされる。
「似合ってるよ、ミカ、凄く可愛い」
・・・一瞬で私の体内の血液が沸騰したかとおもった。
グラグラと煮立ったように全身が熱くなって固まっている私を見て、ハルトは面白そうな顔をする。
「大丈夫?凄く赤くなってるけど」
「だ、大丈夫っ、気にしないでっっ」
勢いよくいい切ったけど、ハルトはケラケラ笑ってる。
くそぉ、全然私のこと意識してないな。
みてなさい、絶対に私から視線を外せないように可愛くなってみせるんだから。
私はハルトを強い決意の眼差しで見ながらオシャレ研究頑張るぞ、と思ったのたった。
題 声が枯れるまで
私は歌ってる。
今日も誰もいない広い公園まで来て大好きな歌を空へと響かせる。
音符が空へと飛んでいるイメージで
風に含まれてその音符達が美しくクルクルと上空へと舞い上がっているような想像
私は歌い続ける
歌うのが好きだから
希望だから
何も日常にいいことがないから
人が信用できないから
辛いことしかないから
この世の中に諦めることしかないから
私の心がグレーだから
そうなの
何もないから
私には何もない気がしているから
だからこそ余計に歌いたい気持ちに包まれる
歌声が響くと心が軽くなる
歌が色とりどりの色を持って私自身も包んでくれる気がする。
そうすると身体がふわりと浮き上がって
全てが
全てを癒してくれる気がする
そうして空を見上げながら歌っていると
目尻に涙が浮かんでくる
風でひんやり感じて
このまま何もかも忘れて歌い続けたいと思ってしまう
でもね
いつしか何もかも忘れて歌い続けていると
声が掠れてくることに気がつくんだ
声の限界を感じるまでいつも歌ってしまう
私は苦笑して、それでも胸の中の何かを出せたような、心の色がグレーから淡い緑色に変わったように感じながら
いつもの帰路をたどるんだ
なにもない私
なにもなかった私
でも、私には歌があるんだ
そしてその歌を歌う私、っていう存在があるんだ
歌い終わった時いつも
それを強く意識しては希望の欠片を胸に感じている
題 すれ違い
あ・・・
私は図書館で一人の青年とすれ違った
カッコイイ・・・去っていった青年を振り返る
爽やかな青いシャツに白いインナー、ジーンズを履いて、髪の毛も綺麗な黒髪・・・って
あれって河下くんじゃない?!
学校では地味な感じで前髪下ろしてたのに、今すれ違った河下くんは、髪の毛もきちんと整えてて、服装もピシッとしてて、とてもカッコよくて学校の河下くんのイメージと大分違った。
私は本を抱えながらしばらく河下くんが小さくなっていくのを見つめていた。
声をかければよかったかなって思ったけど、あまりに印象が違ってて、ぽかんと見送ることしかできなかったんだ。
次の日、いつものように地味な格好で登校してくる河下くんを見て、私は遠くの机からどうしてあんなに印象違うんだろうなと思った。
髪の毛だけなのかな?あ、メガネもかけてるし、それも違うかも。
わざわざメガネかけないほうがいいし、髪も整えてくればいいのに、と思いながらぼーっと机に肘をついて見ていた。
でも、なんでかな、声をかけられなかった。
それに、教室で見る河下くんの姿も、いつもよりカッコよく見えてしまったんだ。
「河下くん」
次の休日、図書館で河下くんを見かけた私は思い切って声をかけた。
もしかして会えるかも、と午前中から勉強していたことは河下くんには秘密だ。
「あれ?仁科さん」
河下くんはビックリした顔で私を振り返る。
「偶然だね」
ニコッと笑いかけると、視線をそらされた。
・・・あれ?
「あ、その本、魔法学校の本、私も読んだよ」
「本当?この本好きな人周りにいないんだ」
私の言葉を聞くと、河下くんは笑顔で魔法学校の3巻の表紙を見せる。
「そっかぁ、ファンタジーブーム、ちょっと前に終わったからね。私は全巻読んで、今度は上級魔法学校の本読んでるよ。続編なんだけど面白いよ」
「そうなんだ、これ読み終わったら次は読みたいと思ってる。マリーンが好きなんだよね」
「わかる、私が好きなキャラはね・・・」
いつの間にか近くのベンチに座って2人で話し込んでいた。
魔法学校シリーズは最近私のマイブームだから、話の話題は尽きない。
さっきはぎこちなかった河下くんも、打ち解けてくれたみたいで嬉しかった。
「河下くんとこんな話が出来るなんて!学校では大人しいでしょ?話したことなかったよね?」
「うん、人と関わるの苦手で、あまり目立たないようにしてたんだ」
「あ、だからメガネと髪の毛違うの?」
それと、さっき目を逸らしたのもそのせいかな?
「そう、家にいると姉ちゃんに出かけるなら髪整えてコンタクトにしろって言われる」
「なるほどね」
私はそんなふうに言われてしぶしぶ髪を整えてる河下くんを想像してフフッと笑った。
「似合ってるよ」
そして、河下くんにそう言った。
本心だ。実際にかっこよくて見かけた初日振り返ってしまったんだから。
「ありがとう」
河下くんは照れながら、でも素直にお礼を言った。
「仁科さんと本の話出来てよかったよ」
「また話そうよ!図書館来るでしょ?私もまだ続編借りたいし、魔法系の本が好きならまだオススメの本紹介したいし!」
「本当!?それは心強いよ。魔法系読みたいんだけど、どれがいいのか分からなくて、次に読む本とか迷ってたから」
「まかせて」
と、私は胸をたたく。
「お任せします」
おどけたように言う河下くんの言葉に2人で笑う。
「もっと早く話しかければよかったな」
そう言うと、河下くんも頷いた。
「そうだね、でも、これから沢山話そうよ」
と言ってくれる。
その優しいまなざしに、私はドキッとした。
カッコイイ河下くんにいまさらながら気づいてしまった。
「う、うん」
今度は私がぎこちなくなってしまう。
そわな私を不思議そうに見る河下くん。
これからの日常に期待とときめきの予感を感じながら、私は言葉を続ける。
「これからよろしくね、河下くん」
題 秋晴れ
ひらひら
落ちてくる落ち葉が私の髪をかすった。
公園のベンチで本を読んでいた私はふと顔をあげる。
秋の涼しさを含んだ風に揺られて
木から葉っぱたちがはらはらと舞い落ちてくる。
ひらり、ひらり、とたくさんの葉が舞い降りてくる様はまるで色とりどりの花びらが舞っているようだ。
私はため息をつくと、読んでいた本を閉じた。
立ち上がって、木の側に行ってそっと幹に手を当てて上を見上げる。
優しい、儚い、切ない、そして癒し
いろんな感情を覚える。
ただ上を見て木の葉が落ちる所を見ているだけなのに、私の胸にはたくさんの想いがよぎっていく。
ずっと見ていたい気持ちに囚われる。
木の葉の舞い降りるこの空間、涼しい風が髪をかすっていく感覚。優しくそして物悲しく感じるこの場所時間を、ずっと感じていたいな。
どれだけそうしていたたろう。
「なみ?また変なことして」
後ろから友人の声がする。
私は残念な気持ちになりながら振り返る。
「あ、ゆうきちゃん」
「よく木に触ってるよね」
ゆうきちゃんは呆れたような調子で私に言う。
「うん・・・落ち葉をもっと近くで見たくて」
もっと感じたことを伝えたいのに、私の語彙力がなくて伝えられない。
「へんなの〜。落ち葉見て楽しいの?」
「うん・・・」
今日もわかってもらえなかった・・・しゅんとした私をみて、ゆうきちゃんは、肩をポンとたたく。
「ほら、落ち込んでないで、なみの好きなパンケーキ食べに行くんでしょ?」
「うん、行こう」
おっとりした私にいつもお姉さんみたいに世話を焼いてくれるゆうきちゃん。
いつかこの落ち葉の魅力を分かってほしいなぁ。
伝えたいなぁ。
私は名残惜しい気持ちで、木を一瞥して、ゆうきちゃんとパンケーキを食べに行ったのだった。