題 やわらかな光
ふんわりと舞い降りてくる光
ふと視線を上げた私は空を見て、柔らかい日差しがまるで光のカーテンのようだと感じる。
じりじりと暑い日差しでもなく、ちょうど良い気温にほわほわと降り注いでくる光に、少しまどろみそうになる。
ベンチに座って図書館の前で彼氏を待っていた私は、再び眠りに引き込まれそうになって、まぶたを軽くこすった。
それでもこんこんと光は降り積もっていく。
光は粒子だけど下に積もったりしないのかな。
ふとそんな事が頭をよぎる。
そうしたら、地面にどんどん光の粒子が積もって、いつの間にか辺りは真っ暗になって、私は光の粒だらけの空間に取り残されて、ベンチに座っていた。
立ち上がれない
どうしよう
焦燥感に焦っていると、誰かが私を呼んだ。
「翔子!」
「はっ!」
気づくと、私はベンチで寝ていたみたいだ。
目の前には心配そうな彼氏の顔。
「大丈夫か?うなされてたみたいたけど」
「う、うん・・・」
そういいながら辺りを見回す。まだ明るい。
時計を見るとあれから10分も経っていなかった。
夢だったみたいだ。
「今日の光が柔らかくて、眠くて、あっという間に眠りの世界に引き込まれちゃった」
「そっか」
彼氏は顔を上げて空を見上げた。
「確かに気持ちいい風に天気だからな。待たせてごめんな。カフェに行って眠気でも覚まそうか?」
「うん、そうしよう、私爽やかな飲み物が飲みたいな」
私は荷物を持ってその場を立ち上がろうとする。
一瞬、夢と同じで動けないかもと思ったけど、軽々と立ち上がれた。
光の粒は物理的に積もったりしないよね、あの場面からきっと夢だったんだな。
そう自分で納得する。
それから、ふと、もう一度空を見る。
やっぱり今日の光はとても優しい。
思わず目を閉じかけて、私は首を降ると、ピシャ、と軽く頬を叩いて目を覚ました。
そして、彼氏とお気に入りのカフェに仲良く向かったのだった。
題 鋭い眼差し
何か視線を感じるっ!!
ビクッ
私はおそるおそる教室の後ろを振り返る。
斜め後ろの席に座っている田代くんと目が合う。
よく目が合うんだよなぁ。
なんだろ。
私が怪訝な顔をしてみると、田代くんが鋭い眼差しで私をギロッと睨む。
私は電光石火の速さで顔を戻す。
・・・なんなんだろう。
結構頻繁に視線を感じる。
しかも睨まれてる。
やだなぁ、何か文句でもあるのかな。
憂鬱な気持ちになる。
次の休み時間、友達のたかちゃんに田代くんのことを話してみた。
「そうだね、何だろうね?前から目が合うんでしょ?黒板が見えないとか?」
「あ、それはあるかも。私背が高いし。くじで席決まったから、どうにもならないんだけど・・・」
「それで、うらみつらみがたまっちゃってるのかもよ〜?!」
冗談っぽくからかってくるたかちゃんに、もーってふざけて返したものの、私の心の中には不安が渦巻いていた。
どうしよう、出来るだけ小さくなろうか?
次の授業の時間は出来るだけ首をすぼめて授業を受けていたけど、やっぱり視線を感じる・・・。
振り返ると眼光鋭い田代くんの視線が・・・。
もうどうしたらいいの〜!?
私がパニックになっていると、次の昼休みの時間、田代くんに呼び出された。
一緒に人気のない廊下に誘導される。
ここで罵倒されるのかな?!と身構えていると・・・。
「好きです、付き合ってください」
つて言われた。
「は?」
私は呆気にとられてそんな返答しかできなかった。
だって、だって、よりにもよって、そんな言葉が降り掛かってくるとは思わなかったから。
「えっと、好きなんだけど・・・」
は?なんて失礼なこと言っちゃったって気づいて、慌てて言葉を付け足す。
「あ、ごめんね、違うの、私田代くんににらまれてたから、何かしちゃったのかなって思ってたから、まさか告白されると思ってなくて・・・」
誤解を解こうと全て正直に白状してしまう。
「あっ、僕、最近コンタクトに変えたんだけど、度数が合わなくて作り直してもらってるところで・・・。今あまり周りが見えないから、ちょっと目つきわるかったかも・・・」
「あ、そーだったんだね、ごめん、睨まれてると思っちゃった・・・」
私がそう言うと、田代くんは頭をかきながら言う。
「まぁ、僕が誤解させるような行動取ったのが悪いから・・・それで、返事はどうかな・・・?」
そう言われて、初めて、告白されたことによる、心臓の鼓動の早まりを感じた。
ど、どーしよ。私、田代くんには睨まれてるって思ってたからそんな気持ち全然ないし・・・。
でも改めて田代くんの顔をみると、端正な顔立ちをしてる・・・気がする。
でも・・・でも、やっぱり睨まれてた印象がまだ強いよっ。
「ごめん、嬉しいんだけど、そういう風に見たことなくて・・・友達からでいいかな?」
私がそう言うと、田代くんは頷いた。
「もちろん、そう言ってもらえてうれしい」
あ・・・
私は思わず田代くんの顔に見入ってしまった。
柔らかく笑う田代くんの純粋な笑顔はとても素敵だって思ったんだ。
題 放課後
放課後は好きじゃない
だって、みんな部活で私はやることないし。
私は動くのが嫌いだから、1人帰宅部だ。
部活すればって友達に言われるけど、興味ないんだよね。
それに早く帰りたい。
だから、嫌いなのは、正確にはホームルームが終わってから家に着くまでの一人の時間だ。
靴箱から靴を取り出して、帰宅しようとした時、ちょうど同じクラスの竹下と一緒になった。
「あ、宮野、今帰り?」
「うん、帰りだけど・・・竹下は?部活は?」
結構体育で活躍していた印象だから、運動部なのかな、と思って聞いてみる。
「部活してないけど、帰宅部。他の友達みんな部活でさ」
「あ、竹下も?一緒だね」
私はその返答を聞いた途端親近感を覚える。
「宮野って部活してないんだ?してそうなのに」
「私もそう思ったけどね、竹下も部活してそうって」
「僕?僕は早く帰って勉強したいから」
「え?そうなの?!」
意外な返答が返ってきて、びっくりして、竹下をまじまじと見る。
私と同じ部類の人間だと思ったけど、全然違ったみたいだ。
「そうそう。東高目指しててさ、だから部活してる時間惜しくて」
「す、すごいね・・・」
超難関校の名前を聞いて、私は萎縮してしまう。
私みたいに面倒なことしたくないっていう理由じゃないんだ。
「すごくないよ、だって僕がしたいことだから」
「いや、凄いから、私部活とか面倒だな、とか、家でゆっくりしたいなっていう理由で部活し出ないだけだもん。すごく尊敬するよ」
私がそう言うと、竹下は照れたように頭をかいた。
「ありがとう。でも、頑張っても、なかなか学力が届かなくて、部活やってたら受からないっていうのが本当の所なんだけど」
「すごいよ〜!そうやって目標にむかって頑張れるのって才能だと思う!!私もそういうこと見つかったらいいのになぁと思うよ」
「宮野はないの?目標」
私が竹下に感心していると聞き返された。
「え?う〜ん、絵を描く位かな?コミック読んで、模写したり。イラスト描くのは好きなんだ」
「そっかぁ、じゃあ美術部とかも良さそうだけどね」
「なんか違うんだよね、美術部みたいなのじゃなく、私はコミック調のイラスト描きたいんだ。そういうの描いている時は、楽しいから、家に帰りたいってのも正直ある」
私の言葉を聞いて、竹下が頷いている。
「そっか、宮野もちゃんと自分の好きなことしてるんだね。それも目標に続いてる道かもね」
いつの間にか、一緒に下校の道をたどっていた私たち。
話に夢中になって無意識に一緒に歩いていた。
「これが将来の道に続くと思う?私、自分に才能あると思えないんだ」
イラスト、ネットで見ると沢山上手な人がいて、劣等感にいつも負けそうになってしまう。
私にはできないんだ、無理なんだって。
でも、描くことは好きだから、やめてないけどね。
ひたすら絵は描き続けているけど。
「続けていれば夢に近づく確率上がるんじゃないかな。僕も、勉強毎日してるけどさ、正直無理って思う日もあるけど、でも、やらなければ確率は平行線のままだけど、やりつづければ合格率は上がると思うんだ。そうしたら頑張れるよ」
「確かに」
私は竹下の言葉を聞いて頷いた。
そうだよね、描かなければ画力も上がらないけど、小学校の頃から頑張っていた私は確実に上手くなってる。
コミュニティでも、上手いって言ってもらえる時はとても嬉しい。頑張ろうって思う。
「お互い、毎日コツコツ頑張ろうよ。そうしたらきっと、自分の夢に近づけるから」
「そうだね・・・そうだね」
私は竹下の言葉に何度も頷いた。
夢は・・・漫画家の夢はいつか叶う日が来るかもしれない。
少なくともやらないよりやりつづける毎日の先に希望はあるって思えたから。
「ありがとう、竹下」
私は竹下に笑いかけた。
こんなにウキウキする気持ちの放課後は初めてかもしれない。
「どういたしまして」
竹下は私に笑い返した。
何となくその場の空気が明るく色づいた気がした。
私達はそのまま、最寄りの駅に着くまで、お互いの夢について語り合いながら帰っていったんだ。
題 カーテン
カーテンの隙間から柔らかい光が差し込んで来た。
朝、目覚めた私はベッドに横たわって休日の光をただ受け止めていた。
優しい光のシャワーをたボーっと浴びていると、心が癒されて行く。
日差しが体に触れるとその場所がほんのり暖かく、気持ちが幸せに溢れてこぼれだす。
幸せ・・・。
幸せな1日。
会社にも行かなくていいし。
こうしてただ何もしなくていい時を過ごせることがたまらなく幸せに感じて。
何をしようかな。
そう思えることが心をウキウキと跳ねさせる。
今日、これからの時間、何をしようかと考えていると
楽しいアイデアが次々と沸いてきた。
好きなフレーバーティを仕入れに行こうかな。
それとも近所に出来た高級なカフェに行ってケーキの味を味見しに行こうかな。
考えているだけで頭の中がピンクのふわふわしたもので満たされていくようだ。
カーテンの隙間から見える青空も空も
いつも通勤の朝に見る時は暗い色に見えるのに、今日はきらきらパステルカラーに見える。
私はしばらくそうしてまどろみながら休日のプランを考えてから、うーんと伸びをした。
さぁ、今日というかけがえのない素敵な1日をはじめていこうか!!
涙の理由
私はキッとシンジを睨んだ。
「ねぇなんで私が怒ってるか分かってるの?!」
「え、知らないけど」
私の声に表情を変えずシンジは言葉を発する。
「何だっけ?」
くぅぅ、この男っっ
私は涙目でシンジを睨む。
「昨日、デート遅刻してきたでしょ?」
「あ、悪い悪い、寝過ごして」
「・・・その後、財布忘れてきたよね?」
「あ、まぁ、昨日は飛び起きてすぐ家でたからさ・・・」
「その上、すぐ帰ったよね?!用があるとか言って」
「用事あったからさ」
「へぇ、そーなの、遅刻して食事代おごらせてすぐ解散ってどんなデートなのよ」
一人夜に、駅前に放置された悲しみが蘇って、目尻にじわっと涙がにじんでくる。
彼氏は、私をチラッと見ると、バツが悪そうに頭をかいた。
「悪かったよ、そんなつもりじゃなかったんだ」
「そんなの全然言い訳にならない!!」
私の中の感情がヒートアップしてくる。
だって楽しみにしてたのに。
だからこそ、昨日の、デートがっかりしたんだから。
「今日さ、本当はもっと楽しいデートにしたかったんだ」
「は?」
穏やかな口調で話しかけるシンジに私は言葉の勢いを失う。
「今日、付き合って1年だろ?バイトずっと内緒で入れててさ、昨日はプレゼントも予約して、財布の位置もいつもと違う場所に入れてたし、ろくに寝ないで夜もバイトしてたから遅刻までして、悪かったよ、おまけにプレゼント受け取りに行けそうなの、昨日の夜しかなくて」
「え・・・覚えててくれてたの?」
私、絶対忘れられてると思ってたから、祝おうっていう気持ちもなかったのに。
今日会おうって彼から連絡来たんだ。
「覚えてる。というかマナが俺の携帯にちゃんと登録してる」
「あ、そっか、そうだったね・・・」
思わず笑みがこぼれる。
そんな私を優しい笑顔でみつめるシンジ。
「これ、受け取ってくれる?気にいるか分からないけど」
シンジがリボンで包まれたプレゼントを渡してくれる。
「開けてもいいの?」
私が問いかけると、静かに頷いた。
開けると、小さいダイヤモンドの可愛く繊細な雪の結晶のネックレスだった。
有名なブランドのだ。
「こんなの・・・こんなの・・・いらないよ」
私は急激に視界がゆがむのを感じながらシンジに訴えた。
予想した反応と違ったんだろう。シンジがうろたえる。
「え?!気に入らなかったか?」
「違う」
私はシンジに抱きついた。
暖かい、シンジのぬくもりに安心する。
「私はシンジがいてくれればプレゼントなんていらない。無理してくれなくてもいい」
私の言葉にシンジはハッと息をのむと、強く抱きしめ返して来た。
「そんなこと言っても大切なマナとの記念日だから、プレゼント、あげたかったんだ」
「シンジ・・・怒っちゃってごめん」
私はシンジに抱きしめられながら急激に罪悪感を感じていた。
「いいよ、俺が無理してたのが悪い。来年はもっと前から用意するから」
「もういいってば。だって私はそんなに高くない時計だよ?恥ずかしい・・・」
私がプレゼントの包みを差し出すと、シンジは受け取って微笑んだ。
「マナからもらえるなら何でもいいよ」
「私だって同じなんだからね」
涙はいつのまにか消えていた。
私は目の前の愛しい恋人の優しい気持ちを再確認して、笑顔でもう一度優しく抱きしめた。