題 ココロオドル
弾む心
そう、だって今日は彼氏とデートだから。
嬉しくてくるくる回ってると、道行く人にジロジロ見られた。
いーんだもん。
そんなことでこの私の心の高揚は止められない。
「こーら、またくるくる踊って、迷惑だろ」
頭に手のひらの感触がすると思ったら、後ろから彼氏が呆れたように私を見つめてた。
「だってぇ」
私はそう言いながら、彼氏の手の上に私の手を重ねる。
「デート嬉しかったから、ついつい体が動いちゃって」
「うん、知ってる。初デートの時踊ってる人がいると思って、近づいたらアカリでびっくりしたのなんの」
彼氏はなぜか遠い目をしている。
「ココロオドルと、ついつい体も動きたくならない?!幸せすぎて」
「うーん、理性が勝つかな、僕の場合。というか、ほとんどの人はそうだと思うけど」
「そうなんだ」
ちょっとガッカリ。
みんな、楽しい気持ちを体で表現できたらお互いにどんな気持ちかわかり会えると思うのに。
私が落ち込んだ様子なのをみて取った彼氏は取りなすように言葉を付け足してくれる。
「ま、まぁ、でも、人が、周りにいないとこなら踊ってもいいよ。僕しか見てない所なら」
「そうなの?迷惑じゃない?」
ついつい心の赴くまま踊っちゃってたけど、実はすごく迷惑がられてたのかな?
今更ながら不安になって、私は彼氏を見上げる。
「迷惑になるほど動いてないし、正直、僕の前で踊る分には可愛いと思う」
普通にストレートに言われて、私は表情を止めてしまう。
「え・・・あ・・」
「あれ?嬉しくなかった?アカリなら、絶対に喜んで踊りまくると思ったのに、止める準備してたのにな」
「カーイートー?」
おどけたような口調で言うカイトを軽くにらむ。
「そんな私、踊り狂ったりしないもん、それに・・・そーゆうのは反則だし」
「何が?」
面白そうな顔でカイトが尋ね返す。
「だから、そーゆーストレートな表現は喜びより照れの方がきちゃうから・・・」
私がもごもごいっていると、カイトは笑顔で不敵に私を見つめる。
「なるほどね」
「な、なによ?!なるほどって」
その態度がなんとなく面白くなくて聞き返すと、
「じゃあアカリの踊りを止めたい時は、大好きって沢山言えばいいわけだ」
「カイトっ、そういうのを手段にしちゃだめだと思うの・・・」
私はからかわれてるのはわかってるのに動揺を止められない。
「うん、でも手段じゃないから。大好きだよ、アカリ・・」
「カイト〜!もうっ!!恥ずかしい〜!!!」
私は動揺のあまり手を振り回してしまう。
ガコンっ
派手な音がして、こぶしはカイトの顎にヒットした。
「いたたっっ」
カイトがうずくまって、私はあわてて駆け寄る。
「大丈夫?!」
「うん・・・なんとか・・・いや、でも、アカリはストレートな表現だと暴れ出す、と、攻略はまだまだだな」
涙目のカイトに、私は何も言えなかった・・・。
題 束の間の休息
束の間、
ちょっとだけだから・・・
私は大きな木の下の涼しそうな木陰にチラッと目を向けるとそこへ吸い寄せられるように向かっていった。
午後の日差しが柔らかい。
まだ夏には早い、ちょうど涼しいひととき。
木陰で座っていると、不思議の国のアリスのことがふと頭をよぎった。
なんだろう
クスッと笑みがこぼれる。
木陰に座ってまどろむ私の前をうさぎが今チョッキを着て走っていったらびっくりして目が覚めるんだろうな・・・
そんなことを考えている間も、やさしい風の誘惑に抗えるわけもなく、私の瞼はどんどん下がっていく。
気持ちよいと何か思考を挟むヒマもないくらいあっという間に意識が夢の国に飛んでいってしまうんだろうな。
そう考えたのを最後に、私は意識を手放した。
ハッ
不意に目を覚ます。
「いけない!!」
辺りが暗いのが一番最初に見て取れて、私は覚醒直後勢いよく立っていた。
ああ、やってしまった・・・私のカバンに入っている図書館の本にチラと目をやる。
今日返そうと思ってたのに・・・。
仕方ない、また次に返そうか。
そう思いながらスカートをはたいて起き上がる。
今何時かな?
時計をみると、もう夜の七時だった。
なんてこと!!
時間を見て驚愕する。
束の間の休息のはずだったのに
それなのに、何時間もこんこんと眠りにふけってしまった。
それでも・・・
わたしは傍らにそびえ立つ心地よい日陰を作ってくれた木に軽く手を当てた。
それでも、とても有意義な時間だったと思う。
凄く疲れもとれたし、どうしようもなく気分もいいから。
「ありがとう」
優しい気持ちで木にお礼をいうと、私はカバンを手に持って足取りも軽く家へとハミングしながら帰宅したのだった。
題 夜の海
静かな夜の海
無償にきたくなって。
夜の電車を乗り継いできちゃった。
他の人から見たら、危ない人かな?
若い女性一人で夜の海なんて
でも、ただ、見に来たかったんだ。
普段から海をみるのは好きなんだけど、夜の波の音をただ、聞いていたかった。
癒やされたくて。
この波の音が大好きで、癒されるから。
私が大きな岩に座って静かに波音に聞き入っていると、携帯の着信音が鳴る。
出ると、焦った彼氏の声が聞こえてきた。
「カナ?!どうしたんだよ、急に夜の海行きたいってメールしてきて、本当に夜の海行ったのか?」
「うん、今夜の海にいるよ」
私がそう言うと、彼氏の声のトーンが何段階も上がった。
「何してんの、一人で行ったら危ないでしょ?!すぐ行くからどこにいるか教えて!!」
「う〜ん」
私は満月と波音を聴きながら一瞬迷った。
今日は一人でいたい気分なんだよなぁ。
彼氏にメールなんてするんじゃなかった。
「え?どこにいるの?聞こえない」
彼氏がたたみかけるように言ってくる。
心配してくれるのも分かるけどなぁ・・・。
「じゃあ約束して、私、静かにこの海を楽しみたいから、来ても話しないで静かにしててくれる?」
「・・・カナがそうしたいならいいよ」
若干不満気な彼氏。でも、良かった。納得してくれたみたい。
「分かったよ、それじゃあ、言うね・・・」
私は海岸の名前を告げる。
そして、電話を切ると、空を見上げる。
星と月が綺麗、そしてなんと言っても夜の海の魅力。
暗い中ざぁざぁと流れる波の音が私の心に響いて、癒しに癒される。
ああいったものの、彼氏が来たら無言ってわけにはいかないだろうし、今のうちにこの静かな時を楽しもうっと。
私は心を静かに落ち着けて、波音のヒーリング効果を堪能したのだった。
題 自転車に乗って
自転車に乗ってどこまでも行けそうだ
私は毎朝考える。
登校の時、急いで駅まで自転車を走らせていると、風を感じる。
その風の勢いに私はスピードを感じる。
ペダルが軽く感じる。
まばたきをする度に風がひゅんひゅんまつ毛を通過していく。
そうしてどこかへ行ってしまいたい気持ちになる。
どこかへ?
どこかな。
どこまでも行きたいのではなくどこかへ、かな。
自分でも分からない。
ふと風を感じた時に思う。
このままペダルを漕いでどこか知らない街へ、学校ではないどこかへたどりつきたい。
毎日毎日終着点は学校で、ゆらぎがなくて変化がない。
だからこそ望んでしまうのかもしれない。
私が到達したい所へ。
進んだ先にある場所が未知の世界であってほしいと思う。
その場所に到達したら、次にどこへ行く事を望むのだろう。
私は永遠とペダルを漕ぎ続けていくのかもしれない。
自分の望む道を見つけるまで。
自分が納得する場所にたどり着くまで。
題 心の健康
元気が一番なんだよ
そうお母さんは言うけどさ。
でも、元気って、心が元気じゃないとだめだと思うんだよね。
いつもマイナス思考な友達は、元気とは程遠いから。
病気とかしてないけど、辛そうだ。
自分のこと、攻撃してる。
私はだめだ
私は落ちこぼれだ
私は何も出来ない
そんなことないよ
絵を描くの上手だよ
いろいろ出来ることあるよ
伝えても伝えても
伝えても
彼女には伝わらない
拒否されてしまう。
だって彼女の否定はもはや信仰で
彼女は自分が駄目ってことだけは信じてる。
他のことは信じることができないのに
そのことが不思議で仕方ない。
そのベクトルを変えるだけなのに
でも難しいんだね
私は諦めないよ
何度でも
何百回でも
何千回でも言い続けるよ。
だってさ、いつ心にスキができるか分からないでしょ?
少しでも緩んだ時に、私ってもしかしてすごいとこあるのかもって思った時に
響く言葉を、届けてあげたいんだ。
大切な友達だから。
だからね、心の健康をお届けするために
今日も私は彼女のいい所を届け続けるんだ