涙の理由
私はキッとシンジを睨んだ。
「ねぇなんで私が怒ってるか分かってるの?!」
「え、知らないけど」
私の声に表情を変えずシンジは言葉を発する。
「何だっけ?」
くぅぅ、この男っっ
私は涙目でシンジを睨む。
「昨日、デート遅刻してきたでしょ?」
「あ、悪い悪い、寝過ごして」
「・・・その後、財布忘れてきたよね?」
「あ、まぁ、昨日は飛び起きてすぐ家でたからさ・・・」
「その上、すぐ帰ったよね?!用があるとか言って」
「用事あったからさ」
「へぇ、そーなの、遅刻して食事代おごらせてすぐ解散ってどんなデートなのよ」
一人夜に、駅前に放置された悲しみが蘇って、目尻にじわっと涙がにじんでくる。
彼氏は、私をチラッと見ると、バツが悪そうに頭をかいた。
「悪かったよ、そんなつもりじゃなかったんだ」
「そんなの全然言い訳にならない!!」
私の中の感情がヒートアップしてくる。
だって楽しみにしてたのに。
だからこそ、昨日の、デートがっかりしたんだから。
「今日さ、本当はもっと楽しいデートにしたかったんだ」
「は?」
穏やかな口調で話しかけるシンジに私は言葉の勢いを失う。
「今日、付き合って1年だろ?バイトずっと内緒で入れててさ、昨日はプレゼントも予約して、財布の位置もいつもと違う場所に入れてたし、ろくに寝ないで夜もバイトしてたから遅刻までして、悪かったよ、おまけにプレゼント受け取りに行けそうなの、昨日の夜しかなくて」
「え・・・覚えててくれてたの?」
私、絶対忘れられてると思ってたから、祝おうっていう気持ちもなかったのに。
今日会おうって彼から連絡来たんだ。
「覚えてる。というかマナが俺の携帯にちゃんと登録してる」
「あ、そっか、そうだったね・・・」
思わず笑みがこぼれる。
そんな私を優しい笑顔でみつめるシンジ。
「これ、受け取ってくれる?気にいるか分からないけど」
シンジがリボンで包まれたプレゼントを渡してくれる。
「開けてもいいの?」
私が問いかけると、静かに頷いた。
開けると、小さいダイヤモンドの可愛く繊細な雪の結晶のネックレスだった。
有名なブランドのだ。
「こんなの・・・こんなの・・・いらないよ」
私は急激に視界がゆがむのを感じながらシンジに訴えた。
予想した反応と違ったんだろう。シンジがうろたえる。
「え?!気に入らなかったか?」
「違う」
私はシンジに抱きついた。
暖かい、シンジのぬくもりに安心する。
「私はシンジがいてくれればプレゼントなんていらない。無理してくれなくてもいい」
私の言葉にシンジはハッと息をのむと、強く抱きしめ返して来た。
「そんなこと言っても大切なマナとの記念日だから、プレゼント、あげたかったんだ」
「シンジ・・・怒っちゃってごめん」
私はシンジに抱きしめられながら急激に罪悪感を感じていた。
「いいよ、俺が無理してたのが悪い。来年はもっと前から用意するから」
「もういいってば。だって私はそんなに高くない時計だよ?恥ずかしい・・・」
私がプレゼントの包みを差し出すと、シンジは受け取って微笑んだ。
「マナからもらえるなら何でもいいよ」
「私だって同じなんだからね」
涙はいつのまにか消えていた。
私は目の前の愛しい恋人の優しい気持ちを再確認して、笑顔でもう一度優しく抱きしめた。
10/10/2024, 3:21:41 PM