題 自転車に乗って
自転車に乗ってどこまでも行けそうだ
私は毎朝考える。
登校の時、急いで駅まで自転車を走らせていると、風を感じる。
その風の勢いに私はスピードを感じる。
ペダルが軽く感じる。
まばたきをする度に風がひゅんひゅんまつ毛を通過していく。
そうしてどこかへ行ってしまいたい気持ちになる。
どこかへ?
どこかな。
どこまでも行きたいのではなくどこかへ、かな。
自分でも分からない。
ふと風を感じた時に思う。
このままペダルを漕いでどこか知らない街へ、学校ではないどこかへたどりつきたい。
毎日毎日終着点は学校で、ゆらぎがなくて変化がない。
だからこそ望んでしまうのかもしれない。
私が到達したい所へ。
進んだ先にある場所が未知の世界であってほしいと思う。
その場所に到達したら、次にどこへ行く事を望むのだろう。
私は永遠とペダルを漕ぎ続けていくのかもしれない。
自分の望む道を見つけるまで。
自分が納得する場所にたどり着くまで。
題 心の健康
元気が一番なんだよ
そうお母さんは言うけどさ。
でも、元気って、心が元気じゃないとだめだと思うんだよね。
いつもマイナス思考な友達は、元気とは程遠いから。
病気とかしてないけど、辛そうだ。
自分のこと、攻撃してる。
私はだめだ
私は落ちこぼれだ
私は何も出来ない
そんなことないよ
絵を描くの上手だよ
いろいろ出来ることあるよ
伝えても伝えても
伝えても
彼女には伝わらない
拒否されてしまう。
だって彼女の否定はもはや信仰で
彼女は自分が駄目ってことだけは信じてる。
他のことは信じることができないのに
そのことが不思議で仕方ない。
そのベクトルを変えるだけなのに
でも難しいんだね
私は諦めないよ
何度でも
何百回でも
何千回でも言い続けるよ。
だってさ、いつ心にスキができるか分からないでしょ?
少しでも緩んだ時に、私ってもしかしてすごいとこあるのかもって思った時に
響く言葉を、届けてあげたいんだ。
大切な友達だから。
だからね、心の健康をお届けするために
今日も私は彼女のいい所を届け続けるんだ
題 君の奏でる音楽
君の音楽ってなんでそんなに光をまとってるんだろう。
わからない、分からないけど惹きつけられる。
同じ楽器なのに、君がひくと軽やかで優しくてふんわりして、それでいて光を感じる。
君の弾くピアノは、まるで天使たちに祝福されたような音色に聞こえるから。
僕の心は満たされていく。
いくら欠けていても、君の音色を聴くと満たされていくんだよ。
それが、他の人にも有効で、そこが少し悔しい。
君の音色の良さを知っているのは僕だけでいいのにな、なんて変な嫉妬心を抱いてしまう。
でも、こうして音色を聴けるだけで、君の音色を聴くことを許してもらえるだけで、僕は幸せだって、いつも思い直すんだ。
僕の弾くピアノが少しでも君の心を打っているといいんだけど。
いつもコンクールで顔を合わせた時笑ってくれるけど、君がどう思っているのか分からないから。
ただ、君の演奏はいつも優勝で、僕は準優勝だ。
悔しくなんかない。君が優勝して、嬉しく思う。
それよりも、僕は君の心に僕の音色が少しでも届いていたらいいのにな、と夢想する。
君のことが好きな僕の気持ちを、込めた音色が届いていますようにって思う。
題 終点
この電車に乗って終点まで行ってしまいたいなぁ
僕は不意にそんなことを思う。
用なんてない。
だけどこのぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗って、家に帰宅して、暗い一人の部屋でお風呂沸かして・・・。
ゴミも捨てなきゃ、掃除もしなきゃ・・・そんな気持ち全て放棄したいんだ。
僕が電車の窓から見上げると、そこには暗い星空に瞬く星々と淡い光の月。
優しい世界は僕の気持ちととことん乖離していて・・・。
僕は家に帰りたくない。
家に帰りたくない。
どこかへ行きたい。
それが終点なら、行ってみたい。
知らない街に降り立って、静かな夜を歩いてみたい。
どうしてもそうしたくて。
僕は最寄りの駅を通り過ぎた。
通り過ぎた時、凄く爽快感を覚えた。
そうだね、しょせん逃避だって分かってるよ。
でもさ、たまには逃げることだって必要だよ。
だっていつもと変わらない日常はなにも変化がないけど、少なくともこの先に待っているのは僕にとって未知なんだから。
題 上手くいかなくたっていい
上手くいかなかった
何でっ
私は手にした塾のクラス分けの通知表を握りしめた。
受験まであと少しなのに。夏のこの時期に一番上のクラスに入れなくてどうするのっ。
自分を叱咤激励する。
そうだ。
塾の先生にも、学校の先生にも親にも言われた。
私は勉強が足りなかったんだ。
何もできなかったんだ。
やっても、ダメな子なんだ。
足が自然と止まる。まだ最寄りの駅まで遠い。
早く帰って、親の厳しい説教を聞くために帰らなきゃ。
私の至らなさを聞きに帰らなきゃ。
なんでこんなにだめなんだろう。
なんでこんな風に産まれちゃんだんだろう。
もっと才能が欲しかった。
もっと暗記できる頭だったら良かったのに。
目の端がうるむ。
カッコ悪い。
自分を心で目一杯叱りつける。
「どうしたの?」
後ろからの声に振り向くと、同じ塾の山下が立っていた。
「あ、別にっ」
すぐに顔をそむけた。泣きかけてる所なんて絶対に見せたくなかった。
「そう?」
そういいながら、山下はなぜか私の横に並ぶ。
「なに?」
「もう暗いし、一緒に駅まで帰ろうよ」
「・・・別にいいよ」
「まぁまぁ、この辺変質者こないだ出たって先生言ってたでしょ?」
あー、言ってたかも・・・。私は黙って歩き出した。
山下が横をあるきだす。
「名取さん、クラスで1位だったね、テスト、すごいなぁ」
「何言ってるの?!この時期に、上のクラスに行けなかったんだよ?」
私は反射的に強い口調で反論してしまう。
「ダメすぎでしょ。1点でも2点でも見直して頑張らなきゃいけなかったのに」
「でも、名取さん、頑張ったんじゃないの?やれるだけやったんじゃないの?」
山下がそう問いかける。
「少なくとも、クラスで1位なんて凄いと思うよ。そうだね、上のクラスに行くためにはもっと点数が必要だったのかも。それでも、名取さんはとても頑張って勉強したはずだし、ダメとは真逆な所にいるんじゃないかなぁ」
「だってもっと上を目指さなきゃ」
「うん。次は頑張ればいいよ。今頑張ったことは無駄じゃない。ちゃんと力になってるはずだよ。名取さんは絶対にダメじゃない。自分を責めないで」
「だって・・・」
私の視界はみるみるぼやけて涙があふれる。
泣いている私を見て、山下がハンカチを差し出した。
私は泣き出したら止まらなくなってしまった。
山下はじっと私が泣き終わるまで何も言わなかった。
それが、私にはありがたかったし、その沈黙がなぜか心地よかった。
ひとしきり泣くと、頭がズンズンと重くなる。
「目が、赤くなっちゃうな」
私がやっとそういうと、山下は
「家に帰ったらすぐに冷やすといいよ」
と言った。
「あと、自分は自分の味方でいてあげてね。励ましてあげて。誰に攻撃されても、自分の心を傷つける事を言わないで」
付け足すように言われた言葉に、私はギクリとする。
「・・・うん、私、完全に自分を攻撃してた」
泣いたことで素直になっている自分に驚く。
「気づけただけで偉いから」
とふわっと微笑む山下に、私は見とれる。
「すごいね、山下って」
「え、そう?」
山下がビックリしたような顔をする。
「うん、凄い、何ていうか・・・カウンセラーとか向いてるんじゃない?」
「あはは、よく言われる」
そういって笑う山下の笑顔につられて私も笑顔になっていた。
気持ちがビックリするくらい軽い。
なんだろう、この爽快感は。
とにかく、とにかく
「ありがとう」
私は山下にお礼を言った。
凄く気持ちが穏やかだ。
そうだね、怒られるかも。
これから親にも先生にも。
それでも、私はわたしの味方でいよう。
私はそう心に強く決意していたんだ。