題 上手くいかなくたっていい
上手くいかなかった
何でっ
私は手にした塾のクラス分けの通知表を握りしめた。
受験まであと少しなのに。夏のこの時期に一番上のクラスに入れなくてどうするのっ。
自分を叱咤激励する。
そうだ。
塾の先生にも、学校の先生にも親にも言われた。
私は勉強が足りなかったんだ。
何もできなかったんだ。
やっても、ダメな子なんだ。
足が自然と止まる。まだ最寄りの駅まで遠い。
早く帰って、親の厳しい説教を聞くために帰らなきゃ。
私の至らなさを聞きに帰らなきゃ。
なんでこんなにだめなんだろう。
なんでこんな風に産まれちゃんだんだろう。
もっと才能が欲しかった。
もっと暗記できる頭だったら良かったのに。
目の端がうるむ。
カッコ悪い。
自分を心で目一杯叱りつける。
「どうしたの?」
後ろからの声に振り向くと、同じ塾の山下が立っていた。
「あ、別にっ」
すぐに顔をそむけた。泣きかけてる所なんて絶対に見せたくなかった。
「そう?」
そういいながら、山下はなぜか私の横に並ぶ。
「なに?」
「もう暗いし、一緒に駅まで帰ろうよ」
「・・・別にいいよ」
「まぁまぁ、この辺変質者こないだ出たって先生言ってたでしょ?」
あー、言ってたかも・・・。私は黙って歩き出した。
山下が横をあるきだす。
「名取さん、クラスで1位だったね、テスト、すごいなぁ」
「何言ってるの?!この時期に、上のクラスに行けなかったんだよ?」
私は反射的に強い口調で反論してしまう。
「ダメすぎでしょ。1点でも2点でも見直して頑張らなきゃいけなかったのに」
「でも、名取さん、頑張ったんじゃないの?やれるだけやったんじゃないの?」
山下がそう問いかける。
「少なくとも、クラスで1位なんて凄いと思うよ。そうだね、上のクラスに行くためにはもっと点数が必要だったのかも。それでも、名取さんはとても頑張って勉強したはずだし、ダメとは真逆な所にいるんじゃないかなぁ」
「だってもっと上を目指さなきゃ」
「うん。次は頑張ればいいよ。今頑張ったことは無駄じゃない。ちゃんと力になってるはずだよ。名取さんは絶対にダメじゃない。自分を責めないで」
「だって・・・」
私の視界はみるみるぼやけて涙があふれる。
泣いている私を見て、山下がハンカチを差し出した。
私は泣き出したら止まらなくなってしまった。
山下はじっと私が泣き終わるまで何も言わなかった。
それが、私にはありがたかったし、その沈黙がなぜか心地よかった。
ひとしきり泣くと、頭がズンズンと重くなる。
「目が、赤くなっちゃうな」
私がやっとそういうと、山下は
「家に帰ったらすぐに冷やすといいよ」
と言った。
「あと、自分は自分の味方でいてあげてね。励ましてあげて。誰に攻撃されても、自分の心を傷つける事を言わないで」
付け足すように言われた言葉に、私はギクリとする。
「・・・うん、私、完全に自分を攻撃してた」
泣いたことで素直になっている自分に驚く。
「気づけただけで偉いから」
とふわっと微笑む山下に、私は見とれる。
「すごいね、山下って」
「え、そう?」
山下がビックリしたような顔をする。
「うん、凄い、何ていうか・・・カウンセラーとか向いてるんじゃない?」
「あはは、よく言われる」
そういって笑う山下の笑顔につられて私も笑顔になっていた。
気持ちがビックリするくらい軽い。
なんだろう、この爽快感は。
とにかく、とにかく
「ありがとう」
私は山下にお礼を言った。
凄く気持ちが穏やかだ。
そうだね、怒られるかも。
これから親にも先生にも。
それでも、私はわたしの味方でいよう。
私はそう心に強く決意していたんだ。
8/9/2024, 10:43:43 AM