題 花よ蝶よ
私は生まれ持って何でも持ってるわ。
私の美しい容姿にはみんなため息をつくし、私が何かしようとすると、周りの殿方が替わりにやってくれようとするから、何もしなくていい。
お母様もお父様も私のこととても大事にしてくれているし、私が欲しいものはなんでもくれる。
友達も私の服装をいつも褒めてくれる。そんなに言うならとお下がりを上げると、凄く喜んでくれる。
勉学もクラスで一番。
そうなのよ、私には何も不足はないの。
何もかも兼ね備えてる私だけど・・・あの人だけは私にそっけない。
私が困ってても助けてくれない。
理解できない人種なの。
周りの人がなんて言っても甘やかすなって。
甘やかしって何?当然の権利じゃない。
私はその言葉を聞いて、いつもむすーっと彼を睨む。
彼は何も考えてないような涼しい顔をしている。
くやしい。
こんな人初めて出会った。
どうして私みたいな完全な人間の前で膝まづかないんだろう。
どうして。私の能力を認めて私に好かれたがらないんだろう。
「興味ないから」
ある日、どうしても知りたくて、私は彼を捕まえて考えてたことを問い詰めた。
つまり、なぜ、私のようになんでもできる人間を無視するのか、価値があると思わないのか、と。
彼はじーっと私を見てからそう言ったんだ。
「な、興味ない?!この私に」
私は衝撃で彼に聞き返す。
「うん、思いっきり興味ない。どんなに能力あろうが、成績や容姿がよかろうが、それが僕に何の関係があるの?僕は僕の力で人生をいきていくし、僕に相応しい友人も人間関係も自分で決めるから」
「は・・・?」
思わず間抜けな声が出た。
だって・・・何その考え方?
私のなかにはない。
人間って容姿とか勉強できるとか、何かあった方が良いに決まってるじゃない。
それ以外なんてないじゃない。
って伝えると、彼は呆れたような顔で私を見つめた。
「そっか、それが君の世界なんだね。頭がいい人、なにもかも持っている人、その人だけが優れてて、他の人はそうじゃないって。僕はね、僕の趣味の話し出来たり、いつも僕の心配してくれたり、助けてくれる優しい友人がいるから、それで充分なんだ。そこに、頭いいとか他の条件はないんだよ」
彼の優しい微笑みを見ながら私は声を出せなかった。
彼の考え方が理解できない、それでも、彼から目が離せなかった。
私にはない、そんなこと・・・。
考え込んでいると、彼はそれじゃあ・・・と去っていこうとする。
「待って!」
私は思わず彼の服の袖を掴んでいた。
「なに?」
怪訝そうな彼の顔に、私は自分でも何でそんな行動をしたのか分からずに止まってしまう。
・・・でも
・・・・・・でも。
「・・・なのね?」
私が言葉にしたのが聞き取れなかったらしい。
彼が私に聞き返す。
「何て言った?」
「私が、あなたにとって友達になりたいって思うような人間なら、条件なんて関係ないのよね?」
・・・何を言ってるんだろう、と思う。
彼もぽかんとした顔で私を見ていた。
でも、すぐににっこりした。
「もちろん。ま、でも、道のりは長いかもな」
「はっ、そんな、頭脳明晰な私なら、すぐにあなたが友達にしたくなるような友人になってみせるわっ」
「うーん、がんばるものでもないような、そのままでいいんだって」
「そのまま?」
彼の服を掴んだままだった事にはたと気づいて、あわてて手を離す。
「そう。何かあるからじゃなくて。何もなくても、だ、だ、その人のままでいいんだよ。君は、何かあるから好きか嫌いか決めてるだろ?そうじゃなく、何もなかったとしても、君は価値があるんだよ」
「何もなくても・・・」
「だから、そんな風に人を判断しなくなったら、いつでも君と友達になるよ」
あったかい気持ち。
おかしい。そんな気持ち初めてだ。
「あ・・・」
私は静かに頷いていた。
言葉が詰まってしまうのも初めてだ。
どうしたんだろう。自分がおかしい。
「じゃあね」
彼が去っていってしまっても、私はずっとその場を動けなかった。
衝撃と何だかあたたかい気持ち。
そのままでいい、何もなくてもいいんだって。
私、本当は頑張ってた。
勉強も、何もかも、みんながあなたならできる、あなたなら完璧だから、あなたなら美しいから。
だからこそ、その期待を裏切れなかった。
だから頑張った。
美しくあるよう、スマートな私、勉強のできる私、何でも完璧な私。
それじゃなきゃ好かれないと思ってたの。
それをあの人はそうじゃないって言ってくれた。
もしかして、そんな無理してる私のこと、最初から分かっていたのかもしれない。
私は自分の価値観が根底から揺らぐのを感じながら。それでもそれを不快どころか幸せの扉を開いたような気持ちに包まれていたんだ。
題 最初から決まってた
最初からきまってたんだ
出会った時に分かってたんだ。
私があなたを好きになることは。
でも、あなたは気づかなかった。そうだよね、テレパシーが伝わるわけじゃないから。
仕方ないよね、仕方ないなんて思うのもおこがましいくらいだよね。
私はいつもあなたを見てる。教室の端から、前から2番目の机に座るあなたを見てる。
でも、あなたは私に気づかない。
このクラスになって、椅子に座るあなたを見た瞬間から運命を感じていたのに。
運命?そうなのかな。
自嘲して笑う。相手が同じ気持ちになってくれない運命って運命なのかなって。
そう考えると、私の独りよがりだって思う。
でも、これは恋なんだ。
それは確信できるよ。
だからあなたが友人と笑顔で話してたり、勉強してたり、ただ歩いているだけでも、見ているのが楽しいよ。
幸せだよ。
ありがとう。
私の心はそう考えるとそんな気持ちに満たされる。
ありがとう、私は知らなかった。
あなたに会うまでこんな幸せな心は知らなかったから。
たまに切ないのはスパイスだよね。
運命じゃなかったとしても抗えない気持ちは運命的。
大好きだよ。
見つめさせてね。
まだ気持ちは伝えられないけど。
私はあなたをいつでも暖かく想っているよ。
題 太陽
あなたは太陽だよ。
そんなこと言ったらどう反応するかな?
笑うかな?呆れるかな?嬉しい?はたまた戸惑う?
大好きなあなたが隣にいるのをチラッと確認してしまう私。
だって好きなんだもん。
こうしてデートできるだけで本当に天にも昇る想いで。
あなたと出会えたこと、あなたと恋していること、あなたと恋人になれたことにいつも感謝してる。
私にとってあなたは太陽。
う〜ん、笑われてしまいそう、その可能性もあるかも。
でも、太陽ならそんな反応こそ実は相応しいのかも。
私がふふっと笑うと、あなたは不思議そうな顔をして私を見た。
「何で笑ってるの?」
「あなたって太陽みたいだなぁって思って」
「え?太陽みたい?何言ってるの、君でしょ、それは。君こそ太陽みたいだよ、いつも明るくて、優しくて、可愛くて、見てて楽しくて、今も太陽みたいとか意味不明なこと言ってるし」
「あ・・・えっ、そ、そんな・・・」
意味不明という言葉にツッコミを入れる前に、まさかの褒め殺しの言葉に照れてしまう。
うう、予想してなかった反応・・・。
でも、素直に嬉しい。
と思ってると頭を撫でられる。
「!」
ビックリして彼氏を見ると彼氏は首を傾げて私を見ていた。
「可愛い」
「・・・もういいから、私の負けたから」
「え〜!どういうこと?相変わらず君って面白い」
彼氏の爆笑が太陽の笑顔みたいで眩しい。
こんな彼氏といられて、私は改めて幸せを噛み締めていた。
どっちが太陽でもいいんだ。
あなたがいてくれれば私は何だっていいんだから。
題 鐘の音
鐘の音がなる。
切ない気持ちで私は結婚式の2人を見つめた。
幸せそう。そうだよね。あなたたちは出会った時からすぐに惹かれ合ってあっという間にスピード結婚したもんね。
私は、その前からずっと好きだったのに。
その前から、食事とか誘ってたのに。
話せただけで舞い上がってたのに。
何も通じてなかったんだね。
あの子と出会ったあなたの頭の中はあの子の事ばかりで。
話してても上の空。視線はあの子を追ってて、話してても切ないだけだった。
食事はいつもあの子との先約。
あなたがそんなに動く人だって思いもしなかった。
いつもあなたの行動には、言葉には、思考にはあの子がいて・・・たまらなかった。
私の今までの気持ち全てないがしろにされたみたいで。
家に帰ったら涙が止まらなかった。
それなのに追い打ちをかけるように、あなたは結婚してしまった。
私は今、これが現実なのか考えてるよ。
今まで頑張った私は。恋してた私は。
どこへ行けばいいのかな。この抱えきれない気持ちは、どうしたらいいの・・・。
私は笑顔を貼り付けておめでとうと拷問のような言葉を放つ。
ねえ、幸せになってほしくないのに、あなたの笑顔が凄く幸せそうで見たこともなくて。
そんな姿を見られるのが嬉しいとどこかで感じてしまってる。
だから・・・もう少し時間がたったら・・・あなたの幸せを願えるように頑張るから・・・。
今日は、まだ複雑な相反する気持ちを抱いてる私を許してね。
題 つまらないことでも
つまらない、つまらないよ〜!
私は机に伏せた。
「ねぇ?何この自習課題。先生正気かな?単語永遠に写すの終わらないんだけど」
「ねー?私もそう思う」
面倒くさそうに前の席に座る親友の葉子が振り向く。
「もー頭が停止して今すぐ睡眠の世界に誘われるわ」
「分かる。あーー、もうっ」
私は一語一語丁寧に単語を写しながら抗議の声を上げた。
「まぁまぁ、こうして書いてる時に、いろいろ考えると楽しいよ」
隣の席から陽気な声がした。
私はうんざりして隣の席に視線を移す。
いつも賑やかに友達と話してるお祭り男、鷹人がこっちを見てた。
「いろいろ〜?!」
不審な目で鷹人を見ると、鷹人は笑顔で私に畳み掛けるように言う。
「うん、そうそう。単語を頭でイメージするとかさ、単語の発音を歌にしてみるとか♪」
楽しそうに言う鷹人の言う言葉が意外にまともで、私は意外に思って聞き返す。
「歌?鷹人って歌にしてるの?単語写しながら?」
「そうだよ、ただ写しててもつまらないじゃん。いつも楽しくできないかなって考えてるよ」
「へーっ」
私は鷹人を少し見直していた。
「そうだね、そうやって覚えるのはいいかも、私もやってみようかな?」
「本当?じゃあ、この単語はどー歌う?」
鷹人の楽しそうな笑顔に私まで笑顔になってしまう。
「えーとね〜」
「なになに?楽しそう・・・」
前にいた葉子が振り返って私たちを除きこむ。
そうして・・・。
クラスに派生した英語ソングの大合唱に、隣のクラスの先生が怒鳴り込んできて大目玉を喰らったことは言うまでもない。