題 入道雲
空にモクモクと浮かぶ入道雲を見ながら私はアイスクリームを口に運んでいた。
「それ、美味しい?」
横に並んで歩いていた彼氏が聞いてくる。
「うん、はいっ」
私は口に運んでたアイスを彼氏の口に入れる。
「うっ、ハグっ・・・いや、欲しかったわけじゃないんだけど」
彼氏は、アイスの棒を掴むと、私の手に戻す。
「そうなの?美味しかったでしょ?」
私がニコッと笑いかけると、
「まぁね、甘かったよ」
甘ったるいのがあまり好きじゃない彼氏は顔をしかめて返答した。
私はそんな彼氏の表情に微笑みながら空を見上げる。
「さっき、あの雲見てたの、ほら」
私の指差す先に視線を移して彼氏が言う。
「入道雲?」
「うん」
彼氏の問いかけに、頷くと、私は話し出した。
「あの雲って、すごく夏って気がしない?あの中に何か都市があってもおかしくないくらいの大きさだよね」
「都市かぁ、雲の都市?映画でありそうだよな」
彼氏が私の言葉にそう返答する。
「そうだね・・・毎年思うんだ、あの雲の中に都市があったら面白いなって」
「カナの発想の方が面白いよ」
彼氏が半ば呆れ顔で微笑む。
「どーゆー意味?!」
思わず彼氏に、叩く真似をする。
「悪い意味じゃないって」
そう言いながら彼氏は私の攻撃した手を2つとも受け止めて拘束した。
「僕の恋人は面白くて可愛いって意味。一緒にいて飽きないよ」
「なっ・・・!?」
いきなりの言葉に恥ずかしくなって手を引こうとしても、彼は放してくれない。
それどころか、その手を引き寄せてくる彼氏。
「えっ?なっ、なにっ・・・!」
私の抗議の声を余裕な顔で見つめていた彼氏は、顔を近づけてくる。
「ずっとこれからも、僕に新しい視点をたくさん教えてね」
そのまま彼氏は私の耳元で優しい声で囁いた。
私は顔を真っ赤に染めながら彼氏の言葉に固まっていた。
「ね?」
彼氏が耳から顔を離して私の方を見て、優しい目で問いかける。
そうすると、私は引き寄せられるようにただ頷くことしかできなかった。
彼氏がやっぱり好きだなぁ。
夏の爽やかな風と、青い空と入道雲を背景に映える彼の顔を眺めながら私はそんな思いに改めて絡め取られていた。
題 ここではないどこか
どこか他の場所にいきたい。
おかしいかな?
私は毎夜夜になると空を見上げるんだ。
窓から見る星々はとても綺麗で、たまらない魅力がある。
光が注ぎ込んで来ている。
優しい月明かりと星の光が見える。
私は帰りたい。どこかに。
もしかして、宇宙になのかもしれない。
他の星へなのかも。
そんなこと、ばかげてるって分かってる。
でも・・・気づくと考えている。
空を見上げるのが好きで、どこかへ行きたいと感じるんだ。
理由はない。理由がないから、誰にも言えない。
分かってもらえない。
寂しくて、地球に居場所がないような気がして。
帰りたいな
ポツリとたまにこぼれる言葉に
自分でびっくりする。
おかえりって言って
空を見上げて
満点の星に向かって考えるより先に私は言葉を発してる。
どこまでも広がっている輝く星々が私を見下ろしてる。
そう思うとたまらなく泣きたくなってしまう。
おかしいな。
おかえりって言ってもらえた気がした。
満天の星々に。
優しい光が私の周りに集まって来た気がするんだ。
ありがとう
そう言葉がこぼれだす
孤独が少しだけ和らいだ気がした。
題 繊細な花
私は登校の時、いつも花を見る。
ふと目に入るんだ。小さなピンクの花。
花弁がたくさんあって、何で目に入るかと言うと、周りに沢山の白い花が囲んでいるから。
同じ花々なのに、真ん中だけ赤いお花で。
それが不思議で、私は登校の慌ただしい朝でも目を留める。
優しい風にそよそよと吹かれて、気持ちよさそうだ。
雨上がりの日は、水浴びをしたような雫をたたえて地面から心なしか元気にぴんと伸びているようにも感じる。
その花を見るのが毎日の日課になっていたんだ。
頑張って一生懸命生きているのが、頑張って学校に行っている私の姿と重なったのかもしれない。
私にとって、学校は試練だと思っているくらい辛いから。
毎日重い足取りで進んでいくけど、そのピンクの花を見ると、涙腺がかすかに緩む感じがする。
じんわり涙が沸くような。
弱っているからなのかな。
梅雨が訪れて、台風の時期になった。
台風が通過していった日の翌日、ピンクのお花は倒れていた。周りを囲む白い花たちも倒れて・・・。
そして枯れていった。
私は・・・その姿を見て泣いてしまった。
私の中の日常が一つ壊れた。
私の中の意識もしていなかった支えが枯れてしまった。
それでも、時間は進む。
次の日も次の日も、私は学校へ行った。
でも心は以前と同じじゃない。
頑張っている存在を見ることが出来なくなったから。
ただ一つでも小さくても繊細でも・・・。
私の心のどこかで希望だったんだ。
あの花は、私だったんだ。
何も無い枯れた草むらを見て涙を流す。
失っても失ってもこれからも生きていかなければならないのだろうか。
こんなに些細なことで泣いている私に、耐えられるんだろうか。
私は拭っても拭っても溢れてくる涙をまた手のひらで拭いながら、空を見上げた。
私の心の支えが出来ますように。
確固たる揺るがない支えがこれから現れてくれますように。
そうして空に祈ったら、少しだけ心が軽くなった気がした。
私はまた手のひらで涙を拭うと、少しだけ軽くなった足取りで歩き出したんだ。
題 1年後
私には分からない、この恋の行方がどうなるかなんて。
あいまいな関係が続いてる。
普通に話してるけど、男友達なんて、友達なのかな?
男女の友情なんて成立するのかな。
話せば話す程切なくて。
もう友達なんてやめたい。
でも・・・関われなくなるのは辛い。
どう思われてるのか分からない。
「テストどうだった?」
あなたの優しい声。
「うん、まぁまぁだったかな!ミキトは?」
「オレ、今回はだめだったかも。まぁまぁか、じゃあいい点数取れるかもな」
「うん、そうだね」
あなたが隣に並んでくれるだけで、嬉しい、ドキドキする。
あなたと会話できるだけで嬉しい。
言葉を交わせるなら、内容なんてなんでもいいから。
「もう帰るの?」
とミキト。
「うん、先生に部活のことで話があって。今日は部活ないから、教室帰って家帰るよ。ミキトも・・・?」
カバンを持ってるミキトを見て問いかけると、ミキトは頷いた。
「うん、オレももう帰るとこ。一緒に帰るか?」
そのセリフにドキッとする。
「あ、うん」
すぐに即答する。
「分かった、下駄箱んとこで待ってるから」
「じゃあ、カバン取ってくるね」
ミキトが頷く。
私はウキウキとカバンを取りに階段を上がる。
ミキトからしたら大したことないのかも。
ただの女友達と帰宅するだけだ。
でも、私にとっては凄く意味のあることで。
凄く凄く嬉しかった。
ミキトからどう思われているか知りたい。
ねぇ、このままいつまでこの関係は続くのかな。
1年後、私たちの関係は少しは変わってる?
このままの関係でいるのが、私は辛いよ・・・。
私はミキトと恋人になりたいから。
でも告白する勇気なんてないくせに。
だから、何も言わずにただ、ミキトの横にいるだけなんだ・・・。
それがいいことだなんて思ってないけど・・・。
どうしていいか分からないから。
もし1年後勇気を出したら。
少しは関係が変わるかな。
私は未来に想いを馳せる。
もしも少しでも関係が変わるなら、私は・・・頑張れるかな。
私は自分に改めて問いかける。
そして、カバンを取って頷く。
・・・頑張りたい
諦められないから。
そして、今度ミキトをどこか遊びに誘おうと決意したのだった。
題 日常
私の毎日は変わらない。
今までもずっと同じ。
このまま変わらないと思っていた。
私の人生は平凡で、読書が好きで、学校終わったら部活もないし、家に帰って、また本を読んで時間が過ぎて、寝るだけ。
それだけのサイクル。
また朝が始まる。
友達もいない。
話すのが苦手で、人と話すと疲れてしまう。
家に帰るとぐったりするくらい。
だからこの日常は変わらないと思ってた
・・・思ってたのに・・・。
転校生がやってきた。
私の前の席に。
その転校生から、何かが流れてきた。
何かって言われても、説明が難しいけど、癒しのオーラみたいな、
なんだろう。淡い緑みたいな爽やかな自然の空気感みたいな。
それがハッキリ見える。
私はその空気に触れると、本当に心穏やかで。
なんだか懐かしくて、泣きたくなった。
転校生は男の子だった。
男の子は、休み時間に、私に話しかけてきた。
何で私なんだろう?と思ったけど
話すと、凄く話しやすくて、私は自分の心のままに話していた。
いつも話すと疲れるのに、むしろ癒やされていた。
どうしてなんだろうと不思議だったけど、こんなに優しいオーラが見えているから、なんだか納得させられてしまった。
私は転校生と沢山話し込んでいた。
そうして、その日、私には理解者である友達が出来たんだ。
しばらくして、彼氏になった転校生に聞いてみた。
「ねぇ、なんで最初に転校してきた時、私に話しかけてくれたの?」
「え?う〜ん、なんか、こんな事言うとヘンって思われたくないんだけど、君ってなんか、緑っぽい優しいオーラが見えるんだよね。初めてで、心地よかったから、ついつい話しかけちゃったんだ」
「え?そうなの?」
びっくりした。彼にもオーラが見えていたとは!しかも、私が見てるのと同じオーラっぽい!
「運命かな?」
私は笑顔で彼に笑いかけた。
「そうだね、多分そうだよ」
彼も私ににっこり笑いかけると、私の手をぎゅっと優しく握りしめて来た。