題 あの頃の私へ
幼かったなあの頃
私はふと思う。
隣りにいる彼氏に恥じらって
大好きって恋い焦がれてたんだ。
話せるだけで幸せで、見つめられるだけで鼓動が持たなくて、火照る頬を両手で覆った記憶が蘇る。
「何?」
彼氏が私を見る。
「んーん、別に」
私はカフェで注文したラテに口をつけた。
今は隣りにいるのが当たり前でときめきもあの頃みたいにはない。
好きだけど、どちらかといえば安心感かな。
一緒にいると落ち着く。
好きな気持ちが減ったわけじゃないと思うけど、あの頃のパワーを時々懐かしく思い返す。
大好きな人を心から好きだと毎日頭がそのことばかりで一喜一憂していた日々を。
「どうしたの?ボーッとしてるじゃん」
彼氏が私を覗き込んでくる。
ラテに口をつけたまま私を怪訝に思ったのかもしれない。
「うん、付き合う前のことを思い出してたんだ」
私は素直に打ち明けた。
「あの時何であんなにマモルのこと好きだったのかなって」
「なんだよ、ひどくないか?」
マモルの抗議に私は首をかしげる。
「だってね、あの頃はマモルが世界の中心だったんだよ。マモルがいなくなったら、私は生きていられなかったかもしれない」
その言葉に、マモルは嬉しそうな表情を浮かべた。
「そ、そうか・・・?」
「だから、あの頃の私に会ったら言いたいのよ。あなたの大好きな人は、将来ずっと隣にいてくれるよって」
私の言葉にマモルは微笑んで頷いた。
「それは確定の未来だから教えてあげたいな。でも・・・俺のことを恋い焦がれていてほしい気持ちもあるな」
「マモルってば」
私はマモルの言葉に思わず笑顔になる。
今も大事な人だよ。
あなたの寝ても覚めても愛しく思った彼は、いつでもあなたのことを想って一緒にいてくれるんだよ。
だからもう少し頑張ってね。
私はそっと目を閉じると、過去の自分にエールを送った。
題 また明日
「また明日ね」
そう言えればどんなにいいか。
私は隣の家にはもういないトオルを思ってため息をついた。
信じられない。昨日までは横にいたのに。
昨日の午後、一家で引っ越してしまった。
家の都合で、トオルの祖父母の家に住むことになったんだって。
ずっと隣りにいたから。
抜け殻のような心。
またな
じゃあまた!
バイバイ、明日ね
今度何しようか?
そう言えてた頃が懐かしくて
気軽に全然会えなくなって
悲しいを通り越して虚無。
私の心の中はポッカリと穴が空いてしまってた。
別に好きだった訳じゃない。
好きな人ならいたし、トオルとはそんな関係でもなかった。
でも・・・
こんなにも近くでいて、存在に支えられていたんだって。
いなくなって初めて気づいてしまった。
私の心の大分多くの部分をトオルに支えられていたんだ。
今日不意にカーテンを開けて隣の家のカーテンも撤去されカラッポになったトオルの家を見て、襲ってきた喪失感。
私はその場でベッドに力なく座り込む。
電話をすれば、メールをすればまた明日ねって言えるけど・・・。
会って言えないのは本当に悲しいよ。
トオル・・・
また明日って気軽に言えた日々は
本当に幸せだったんだね
題 透明
透かしても透かしても見えない君の心
どうしたら見せてくれる?
僕の目が何でも見透かして
君を透明にできたらいいのにな
そうして僕への気持ちが
1%でも君の心のなかに色づいていたら
僕は舞い上がってしまうかもしれない
君の視線が僕に注がれる度に
僕の心拍数は上がる
天使のようなその瞳は
本当に天界から舞い降りたんじゃないかって
時々真剣に考えてしまうよ
透かしたい透かしたい君の心
そうして見えたら
僕に希望があるか教えて欲しい
何もなかったとしても僕は平気だから
何度でも君に話しかけて
きっと君の視界に入るようにするから
だから見せて
君の心
透明なありのままの君の心を
僕に見せて
歌詞風にしてみました〜
題 突然の別れ
「ごめん・・・」
今日朝小学校に来るなりみのりちゃんはずっとそう言ってる。
「だから、何がごめんなの?言ってくれなきゃ分からないよ」
私は困惑してみのりちゃんに聞き返す。
そうすると、みのりちゃんは頭を振って無言になっちゃうんだ。
泣いてしまうんじゃないかと思って。
みのりちゃんの顔が歪んでいて、私はそれ以上追求できないでいた。
どうして?何がそんなにみのりちゃんを苦しめてるの?
私、友達なんだから、力になりたいよ。
そこへ、先生が入ってきて、ホームルームが始まった。
始まって最初に、先生が口を開いた。
「坂下みのりさんが転校することになりました。海外に行くそうです。残り少ない日数ですが、みんな坂下さんと最後まで楽しく過ごしましょうね」
て、転校・・・?!
私はしばらく固まってしまう。
思わずみのりちゃんの席を見てしまうけど、みのりちゃんは下を向いたままだ。
転校するの・・・?私達一番仲が良かったし、いつも一緒だったのに・・・・。
そんなの・・・寂しい。
それに、最初はみのりちゃんの口から聞きたかった・・・。
休み時間。悲しくて、思わずみのりちゃんが席を立つ前に席を立って、トイレへ駆け込む。
何で、避けてるんだろう・・・と自分にツッコミをいれる。
きっと、私に一番に話してほしかったんだ。
友達っていう立場を過信しすぎてたんだ。
みのりちゃんに信頼されてなかったようで悲しかったんだ。
トイレを出ると、出口にみのりちゃんが立っていた。
「ごめん」
みのりちゃんにそう言われて、私は低い声で「うん・・・」
と言う。
「言えなかったの、避けないで」
2人で歩きながら話す。
「避けてないよ」
と私。
「避けてるじゃん、今も私の顔見ないし」
「それは・・・歩いてるから」
私は苦しいウソを言う。
「ウソ」
瞬時に見破られてしまう。
「・・・ねえ、私だって離れたくないんだよ」
みのりちゃんの目から涙がポロッとこぼれた。
私は涙に胸を揺さぶられる。動揺した。
「泣かないでよ。私も泣いちゃう」
「うん・・・そうだね・・・」
それから、ひとしきり、2人で抱き合って泣いた。
今までの思い出がなぜかスライドショーみたいに浮かび上がってきて、その度に悲しくなってしまう。
「海外だけど、今はネットあるから連絡できるよ」
2人で泣くだけ泣くと、何だか少しスッキリした。
私もみのりちゃんも赤く腫れ上がったヒドイ顔になっちゃったけど。
「そっかぁ、じゃあ、顔見て話せるね♪」
私はとたんに少し楽天的な気持ちになる。
「私達、ずっと遠くに行っても友達だよ」
みのりちゃんの泣きはらした笑顔に、私も頷いて、彼女の手を取る。
「うん、ずっと友達だよ、約束」
そうして、小指を絡めて私達は遠く離れてもずっと友達でいることを誓ったんだ。
題 真夜中
「トントン」
真夜中寝付けないでいたら、外の窓から音がした。
私は起き上がって2階の窓を開ける。
「どーぞ」
隣の家のカイが入ってくる。
同い年のお隣の家の男の子だ。
カイは、昔から屋根伝いに私の部屋を訪問する。
何度怒られても懲りないカイ。
私ももう高校生なのにな。
いいのかな、こんなんで。
「寝れないんだろ?」
「ん、よくお分かりで」
毎日不眠気味な私。
カイは、たまに来てはいろいろ話したり、寝付けるまで歌を歌ってくれたりする。
「カイも寝れないじゃない?別に来なくていいんだよ」
私がそういうと、カイはいつも傷ついたような顔をする。
「そんな事言うなよ。俺がいないと寝れないくせに」
「うーん、まぁ、それはそうなんだけど、カイがいないと寝れないんじゃ困るじゃない?」
「別に困らないだろ、俺がいればいいんだから」
そう言うと、当然のようにベッドに来て、私の頭をなでるカイ。
「何か話してやろうか?」
「え、うん・・・って、カイだってずっと私と一緒にいるわけじゃないじゃない」
私は流されそうになってはたと気づく。
「私がちゃんと自分で眠れるようにならないとだめなんだよ!」
「・・・出来るのか?」
カイの視線にうつむく私。
「それは・・・気合で・・・」
「そんなの気にするなよ!」
そう言うと、カイは私を無理やりベッドに押し込む。
再び頭をなでると、ベットの端に腰掛けるカイ。
「俺が一生責任持って面倒見てやるよ」
「え?それはムリでしょ、私もカイもずっと一緒じゃないんだから」
私がなでられて多少の眠気を感じながら言うと、カイは答える。
「一生一緒にいればいいだろ?俺がずっと寝かしつけするよ」
「えっ?!じゃあ結婚するしかないね」
私はカイの答えに笑って返答する。
「そうだな、結婚すれば万事解決だな」
あれ・・・?
冗談のつもりだったのに・・・。
見上げると、真剣なカイの眼差しと視線がぶつける。
「それって・・・?」
「お前のことずっと好きだったってこと」
涼しげな顔で言われて、パニックが止まらない私。
「はっ・・・・?なっ・・・?!」
「どうせ、俺がいないと寝れないんだから、お前は俺を選ぶしかないんだよ」
頭を撫でていた手が私の手を優しく握る。
何だかそう言われているとそんな気もしてくる。
「じゃあ、私に他に好きな人が出来なければね」
そう言うと、カイはニコッと笑って、私に不意に軽いキスをする。
「はっ!?」
びっくりして声が出る私に不敵な笑みを見せるカイ。
「絶対に他に好きな人作らせないよ」
そのカイの表情に、不覚にも私はドキドキしてしまっていた。