題 2人ぼっち
ずっとずっとお互いしかいなかった。
お互いしか見えなかった。
私のお隣さん。
隣の家に生まれたことが運命であるように
毎日悠人と一緒だった。
私達は私達以外の友達もいらなかった。
だってお互いがいれば満たされていたから。
お互いだけが友達だった。
そんな私達を両親は心配して、他のお友達と遊ばせようとしたけど、私には必要なかった。
なぜだろう。私には悠人さえいれば何もいらないという確固たる信念にも近い気持ちを持っていた。
私達は他に友達も作らず学校に入った。
不思議なことに私達はいつも同じクラスだった。
周りの人には、男女で一緒にいる私達に冷やかしの声もあったけど、平気だった。むしろ嬉しかった。
毎日一緒に帰って話して、笑いあって。
どうして他の人が必要なのか分からなかった。
私達は自然にお互いを好きになって、付き合うようになったんだ。
それでも、大学は離れて、仕事場も離れて、私は初めて孤独を感じた。側に悠人がいてくれれば何でも怖くなかったし、帰って隣にいつもいて励ましてくれる悠人がいればいつだって自信が沸いたのに。
今は会えない。側にいない、それだけで心に打撃を受けた。他の人はいらないから。友達も、言い寄ってくる人も、心配気な上司も。
私は初めから間違っていたのかな。
歪んでいたのかな。もうそれでも、今までの道は矯正できない。
・・・矯正もしたいと思わないんだ。
ピンポーン
深夜、ドアベルが鳴る。
「開けて」
悠人だ。慌ててドアを開くと、違う県で勤務してるはずの悠人だ。
「もうムリ。君と離れてるのは無理だよ・・・」
泣きそうな声で言う悠人。
分かってる。だって私も一緒だから。
私が頷くと、悠人は私にキスをして言う。
「今すぐ結婚してくれる?もう離れたくない。ずっと一緒にいたいよ」
「うん、私も」
私は悠人に即座に返事をする。
決まってた気がする。小さい頃から結末は・・・。
ずっと悠人とどんな形であれ一緒にいるんだって確信があったから。
だからyesと返事をするのは必然なんだ。
この広い世界の中で人は無数にいるけど、私にとっては悠人と2人ぼっちに等しいよ。
だってあなただけが私に必要な人なんだから。
題 夢が醒める前に
チャンスだ
今夢の中で私の好きな人といい感じでデートしてる。
「・・・で、この間新刊がでてね」
「うん、そうなんだ、聞いてたけど、新刊出たんだね!」
何とか会話を告白に持っていきたい。夢の中だとしても、練習になるかもしれないし!
「そうそう、興味ある?マンガだけど面白いよ、僕は買うから貸そうか?」
なんてご都合主義。夢の中ではこんなに仲良く話せてる。
現実では、なかなか話しかけることすら出来ないのに。
「うん、気になる!貸してもらえるなら嬉しいな、楽しみ!」
「良かった。湯川さんってこういうの好きか分からなかったから知れてよかった」
ニコッと笑いかける好きな人。
破壊力が、破壊力がすごいよ〜夢なのに!
「あ、う、うん、もちろん、だって・・・」
名取くんの好きな本だからって言いたかったけど、言葉が出てこない。夢なのに緊張しまくってる。
「うん?」
名取くんは首を傾げて私の次の言葉を待っている。
「えーっと、最近はまれそうなマンガ探してたから!」
ああっ、私のバカッ。夢が醒めちゃう。早く告白しないと・・・。
「そっか、じゃあ丁度良かったね」
名取くんが笑顔で言う。ああ、夢なんだからもう少しぼんやりでいいのに、妙にリアルで無駄にドキドキしてしまう。
「うん、そ、それに・・・名取くんに会えて今日は良かった・・・」
私が勇気をふり絞って言ったら、名取くんが少しびっくりしたように言う。
「それって・・・」
ピピ、ピピ、ピピ、ピピ・・・。
そこでお決まりの目覚ましの音。こんなにはっきり名取くんの夢見れたの初めて!!
私は幸せな気持ちと、告白出来なかったら悲しみにおそわれる。
どうせ、現実には何も影響ないんだけどね。
「湯川さん、あのさ・・・」
学校に行くと、珍しく名取くんに話しかけられた。
「あ、うん・・・何?」
何だか昨日の夢の再現みたいだ。
「あの・・・さ」
ん?何か名取くんが煮えきらない感じで言葉を濁している。
「どうしたの?」
気になって尋ねると、
「今度、新刊のコミックが出るの、知ってる?興味・・・あったりする?」
「えっ!?」
私は思わず大声を上げてしまう。
「あっ、もしかして・・」
私の大声に、名取くんが何かを思いついたように瞳をきらめかせる。
「夢で昨日会わなかった?」
「あっ、会った・・・けど・・・って、名取くんもこのマンガの夢見たの?!私と話した?」
「うん、不思議なんだけど、妙にリアルで、湯川さんも見てないか確認したくなって」
「うそー?!」
驚きが止まらない、と共に告白とか血迷ったことしなくて良かったと心から思う。
不思議だ。でも、確かに昨日の夢は凄くリアルだったなぁ。
「びっくりするよね?良かった、確認できて。それで、僕放課後コミック買いに行くんだけど一緒に行かない?」
「えっ、えっ!?」
突然の誘いに私は固まってしまう。
「夢の通りなら、興味あるかなって思って、貸すから。もっと夢の話ししたいしね」
「興味あるよ、コミック、貸してほしい!あ、でも、読んだ後でいいからね」
「じゃあ、どこがカフェに寄って話そうか?その間に軽く読んじゃうから」
「う、うん・・・」
なんか・・・今の現実が夢のようだ。
夢じゃないかな?醒めないでほしい。
夢よりもっといい感じの展開になってる気がする。
「会えて良かったって言ってくれたから」
小さい声で呟くように言う名取くん。
私はバッと思わず後ろに後退する。
私が赤面しながら彼を見ると彼も赤面していた。
「だから、僕も声をかけたかったんだ。あの言葉、後で本心か教えて」
そう言うと教室に戻っていく名取くん。
「う、うそ・・・」
そこまで聞かれていたんだ・・・。
私は顔の火照りがどんどんひどくなっているのを感じる。
それでも結果的には良かったのかも知れない。
放課後までに心を決めなくちゃ。
私はぐちゃぐちゃになった心を必死で落ち着かせようとしばらくその場で頭を冷やしていた。
題 胸が高鳴る
ドクンッ
高鳴る胸の鼓動
この音は何だ。
あの子とすれ違った時に突然感じた。
優しげな微笑みに、優雅な足取り。
皆と同じ制服を着ているはずなのに特別な着こなしをしているように見える。
君だけが特別に見えた。
誰かを見て心臓の鼓動が跳ねることなんてなかったから、最初は病気だと思った。
だけど、君以外には鼓動は高鳴らない。
だからそういうことなんだろう。
僕は君に一目惚れしてしまったんだろう。
理屈も何もないと思った。
性格だって知らないのに、恋をしてしまうなんて。
君の姿を捉えると勝手に鼓動が高鳴る。
今はただ考えてる。
どうしたら君と話せるのか、君を知れるのかと。
非合理的だ。無意味だ。信じがたい。
思考が乗っ取られているように君のことしか頭にない。
不思議だ。
苦痛ではなく、なんとも言えない甘さをも感じてしまう。
僕はおかしくなってしまった。
恋に落ちると言うことはきっとどこか人をおかしくするものなのだろうと、妙に納得してしまっていた。
題 不条理
世の中に不条理って沢山あると思う。
筋道が通らないこと。
例えばこの体育のテストがそうだ。
私はスポーツ選手になりたいわけでもないのに、反則技を覚えて何か特な事があるんだろうか?
根っからの文系の私は、平均点80点を叩き出す体育のテストでいつも平均以下。
どうしてどうしてって思う。
バスケやバレーやサッカーやってる人からすれば何人でするゲームなのか、違反のガイドラインも分かるだろう。
でも私にはわからない。
興味がないから、何度教科書を読んでもすり抜けてしまう。
そういうわけで、私は不条理にも体育のテストはいつも平均以下というわけだ。
「えー?平均以下なの?ルールなんめ普通に覚えない?」
私のテストを覗き見た後ろの天パのユナはそう言った。
「覚えない。少なくともここに一人覚えてない人がいますが」
「だって、テレビで中継したり、先輩が試合行くとき応援行ったりして自然に覚えない?あ、オリンピックとかでも家族で見るじゃん!」
「テレビでも見ないし、応援は行ったことないし、オリンピックもうちは家族興味ない」
「へー、つまらなそーな人生だね」
失礼な!!
私はユナに心のなかで悪態をつく。
別にスポーツのルールが分からなくてもちゃんとこっちはここまで育ってきてるのよ!
不条理だ、不条理だ・・・と思う。
でもなぁ。
ふぅ、とため息をつく。
内申を取るには、頑張って興味なくても覚えなきゃいけないのかぁ。
「石井」
私が落ち込みながら歩いていると、後ろから声をかけられる。
ゲーム仲間の片山だ。
きっと、片山もテストの点数悪かったんだろうな、と思って聞いてみる。
「片山、体育のテスト何点だった?」
「100点だけど」
「えっ!!!」
私は衝撃のあまり言葉を失った。
「あ、そう、今話聞いててさ、スポーツのルール知らないの?」
片山に聞かれて、私は頷く。
なぜ、ゲーム中毒といえるほどの片山が百点を・・・。
「今度僕のオススメのスポーツゲーム貸すよ。ゲームの内容がリアルでルールとかも覚えられるんだ」
「えっ!そんな方法が!!」
目からウロコ・・・。確かに、ゲームは好きだけど、スポーツのは興味なかった。でも、ゲームなら楽しんで覚えられそうだ!
「貸して貸して!!」
私が勢いよく言うと、片山は頷いた。
「任せて!きっと体育の点数アップ間違いなし!」
そっかぁ、そんな方法が・・・。
世の中不条理ばかりじゃないのかもしれない・・・。
片山の話を聞いて、私の心の中は、げんきんにもさっきとは180度意見を変更したのだった。
題 泣かないよ
私と彼氏は、大学が別々になった。
高校から一緒に行こうねって約束してた大学に、私が落ちてしまったから。第2志望は地元の大学にしていた。
親と第一志望が落ちたら地元の大学に行くと約束していたんだ。
「4月から頑張ってね」
私は彼氏に向かって笑顔で言う。
合否発表の後、近くの公園で会っていた
間違っても泣いたりしないと決めていた。
だって私の努力が足りなかったから、落ちたんだから。
「ああ・・・」
彼氏は私の方を向いてためらいがちに言う。
「毎日電話もするし、メッセージも送るから・・・」
私は彼氏の落ち込んだような様子に、無理やり笑顔で頷く。
「うんっ、分かった!メッセージ毎日してね!大学行ったら可愛い子沢山いると思うけど浮気しちゃだめだよ」
「大丈夫、心配しないで」
彼氏は私の言葉を聞いて側に近寄ると、私を優しく抱きしめた。
「一緒に行きたかったな。でも、大丈夫。今までの君との時間があるから、僕は頑張れる。休みに入ったらすぐに会いに来るから」
「うん・・・」
私は、涙がこみ上げそうな気持ちに必死に抵抗する。
今更ながら彼氏の存在の大きさを感じていた。
いなくなると思うほど、辛さが込み上げてくるみたいだ。
「ユキ、手を出して」
彼氏に言われるまま、体を離し、手を出すと、右手の薬指に光る物がはめられた。
「えっ!?」
キラキラ光る宝石が嵌まった指輪だった。
私は混乱して彼氏の顔を見つめる。
すこし照れたような彼氏の顔。そして、私を見るとこう言った。
「ユキが不安にならないように考えたんだ。約束しよう。ずっとお互いに好きでいようって・・・してくれる?」
不安そうな彼氏の顔。彼氏も不安だったんだ・・私と一緒だったんだ・・・。
「もちろん!!」
私は彼氏に抱きつく。
私の目からとめどなく涙が流れる。
でもいいや。
だってこれは、純粋な幸せの涙なんだから。