題 夢が醒める前に
チャンスだ
今夢の中で私の好きな人といい感じでデートしてる。
「・・・で、この間新刊がでてね」
「うん、そうなんだ、聞いてたけど、新刊出たんだね!」
何とか会話を告白に持っていきたい。夢の中だとしても、練習になるかもしれないし!
「そうそう、興味ある?マンガだけど面白いよ、僕は買うから貸そうか?」
なんてご都合主義。夢の中ではこんなに仲良く話せてる。
現実では、なかなか話しかけることすら出来ないのに。
「うん、気になる!貸してもらえるなら嬉しいな、楽しみ!」
「良かった。湯川さんってこういうの好きか分からなかったから知れてよかった」
ニコッと笑いかける好きな人。
破壊力が、破壊力がすごいよ〜夢なのに!
「あ、う、うん、もちろん、だって・・・」
名取くんの好きな本だからって言いたかったけど、言葉が出てこない。夢なのに緊張しまくってる。
「うん?」
名取くんは首を傾げて私の次の言葉を待っている。
「えーっと、最近はまれそうなマンガ探してたから!」
ああっ、私のバカッ。夢が醒めちゃう。早く告白しないと・・・。
「そっか、じゃあ丁度良かったね」
名取くんが笑顔で言う。ああ、夢なんだからもう少しぼんやりでいいのに、妙にリアルで無駄にドキドキしてしまう。
「うん、そ、それに・・・名取くんに会えて今日は良かった・・・」
私が勇気をふり絞って言ったら、名取くんが少しびっくりしたように言う。
「それって・・・」
ピピ、ピピ、ピピ、ピピ・・・。
そこでお決まりの目覚ましの音。こんなにはっきり名取くんの夢見れたの初めて!!
私は幸せな気持ちと、告白出来なかったら悲しみにおそわれる。
どうせ、現実には何も影響ないんだけどね。
「湯川さん、あのさ・・・」
学校に行くと、珍しく名取くんに話しかけられた。
「あ、うん・・・何?」
何だか昨日の夢の再現みたいだ。
「あの・・・さ」
ん?何か名取くんが煮えきらない感じで言葉を濁している。
「どうしたの?」
気になって尋ねると、
「今度、新刊のコミックが出るの、知ってる?興味・・・あったりする?」
「えっ!?」
私は思わず大声を上げてしまう。
「あっ、もしかして・・」
私の大声に、名取くんが何かを思いついたように瞳をきらめかせる。
「夢で昨日会わなかった?」
「あっ、会った・・・けど・・・って、名取くんもこのマンガの夢見たの?!私と話した?」
「うん、不思議なんだけど、妙にリアルで、湯川さんも見てないか確認したくなって」
「うそー?!」
驚きが止まらない、と共に告白とか血迷ったことしなくて良かったと心から思う。
不思議だ。でも、確かに昨日の夢は凄くリアルだったなぁ。
「びっくりするよね?良かった、確認できて。それで、僕放課後コミック買いに行くんだけど一緒に行かない?」
「えっ、えっ!?」
突然の誘いに私は固まってしまう。
「夢の通りなら、興味あるかなって思って、貸すから。もっと夢の話ししたいしね」
「興味あるよ、コミック、貸してほしい!あ、でも、読んだ後でいいからね」
「じゃあ、どこがカフェに寄って話そうか?その間に軽く読んじゃうから」
「う、うん・・・」
なんか・・・今の現実が夢のようだ。
夢じゃないかな?醒めないでほしい。
夢よりもっといい感じの展開になってる気がする。
「会えて良かったって言ってくれたから」
小さい声で呟くように言う名取くん。
私はバッと思わず後ろに後退する。
私が赤面しながら彼を見ると彼も赤面していた。
「だから、僕も声をかけたかったんだ。あの言葉、後で本心か教えて」
そう言うと教室に戻っていく名取くん。
「う、うそ・・・」
そこまで聞かれていたんだ・・・。
私は顔の火照りがどんどんひどくなっているのを感じる。
それでも結果的には良かったのかも知れない。
放課後までに心を決めなくちゃ。
私はぐちゃぐちゃになった心を必死で落ち着かせようとしばらくその場で頭を冷やしていた。
3/20/2024, 12:25:25 PM