題 胸が高鳴る
ドクンッ
高鳴る胸の鼓動
この音は何だ。
あの子とすれ違った時に突然感じた。
優しげな微笑みに、優雅な足取り。
皆と同じ制服を着ているはずなのに特別な着こなしをしているように見える。
君だけが特別に見えた。
誰かを見て心臓の鼓動が跳ねることなんてなかったから、最初は病気だと思った。
だけど、君以外には鼓動は高鳴らない。
だからそういうことなんだろう。
僕は君に一目惚れしてしまったんだろう。
理屈も何もないと思った。
性格だって知らないのに、恋をしてしまうなんて。
君の姿を捉えると勝手に鼓動が高鳴る。
今はただ考えてる。
どうしたら君と話せるのか、君を知れるのかと。
非合理的だ。無意味だ。信じがたい。
思考が乗っ取られているように君のことしか頭にない。
不思議だ。
苦痛ではなく、なんとも言えない甘さをも感じてしまう。
僕はおかしくなってしまった。
恋に落ちると言うことはきっとどこか人をおかしくするものなのだろうと、妙に納得してしまっていた。
題 不条理
世の中に不条理って沢山あると思う。
筋道が通らないこと。
例えばこの体育のテストがそうだ。
私はスポーツ選手になりたいわけでもないのに、反則技を覚えて何か特な事があるんだろうか?
根っからの文系の私は、平均点80点を叩き出す体育のテストでいつも平均以下。
どうしてどうしてって思う。
バスケやバレーやサッカーやってる人からすれば何人でするゲームなのか、違反のガイドラインも分かるだろう。
でも私にはわからない。
興味がないから、何度教科書を読んでもすり抜けてしまう。
そういうわけで、私は不条理にも体育のテストはいつも平均以下というわけだ。
「えー?平均以下なの?ルールなんめ普通に覚えない?」
私のテストを覗き見た後ろの天パのユナはそう言った。
「覚えない。少なくともここに一人覚えてない人がいますが」
「だって、テレビで中継したり、先輩が試合行くとき応援行ったりして自然に覚えない?あ、オリンピックとかでも家族で見るじゃん!」
「テレビでも見ないし、応援は行ったことないし、オリンピックもうちは家族興味ない」
「へー、つまらなそーな人生だね」
失礼な!!
私はユナに心のなかで悪態をつく。
別にスポーツのルールが分からなくてもちゃんとこっちはここまで育ってきてるのよ!
不条理だ、不条理だ・・・と思う。
でもなぁ。
ふぅ、とため息をつく。
内申を取るには、頑張って興味なくても覚えなきゃいけないのかぁ。
「石井」
私が落ち込みながら歩いていると、後ろから声をかけられる。
ゲーム仲間の片山だ。
きっと、片山もテストの点数悪かったんだろうな、と思って聞いてみる。
「片山、体育のテスト何点だった?」
「100点だけど」
「えっ!!!」
私は衝撃のあまり言葉を失った。
「あ、そう、今話聞いててさ、スポーツのルール知らないの?」
片山に聞かれて、私は頷く。
なぜ、ゲーム中毒といえるほどの片山が百点を・・・。
「今度僕のオススメのスポーツゲーム貸すよ。ゲームの内容がリアルでルールとかも覚えられるんだ」
「えっ!そんな方法が!!」
目からウロコ・・・。確かに、ゲームは好きだけど、スポーツのは興味なかった。でも、ゲームなら楽しんで覚えられそうだ!
「貸して貸して!!」
私が勢いよく言うと、片山は頷いた。
「任せて!きっと体育の点数アップ間違いなし!」
そっかぁ、そんな方法が・・・。
世の中不条理ばかりじゃないのかもしれない・・・。
片山の話を聞いて、私の心の中は、げんきんにもさっきとは180度意見を変更したのだった。
題 泣かないよ
私と彼氏は、大学が別々になった。
高校から一緒に行こうねって約束してた大学に、私が落ちてしまったから。第2志望は地元の大学にしていた。
親と第一志望が落ちたら地元の大学に行くと約束していたんだ。
「4月から頑張ってね」
私は彼氏に向かって笑顔で言う。
合否発表の後、近くの公園で会っていた
間違っても泣いたりしないと決めていた。
だって私の努力が足りなかったから、落ちたんだから。
「ああ・・・」
彼氏は私の方を向いてためらいがちに言う。
「毎日電話もするし、メッセージも送るから・・・」
私は彼氏の落ち込んだような様子に、無理やり笑顔で頷く。
「うんっ、分かった!メッセージ毎日してね!大学行ったら可愛い子沢山いると思うけど浮気しちゃだめだよ」
「大丈夫、心配しないで」
彼氏は私の言葉を聞いて側に近寄ると、私を優しく抱きしめた。
「一緒に行きたかったな。でも、大丈夫。今までの君との時間があるから、僕は頑張れる。休みに入ったらすぐに会いに来るから」
「うん・・・」
私は、涙がこみ上げそうな気持ちに必死に抵抗する。
今更ながら彼氏の存在の大きさを感じていた。
いなくなると思うほど、辛さが込み上げてくるみたいだ。
「ユキ、手を出して」
彼氏に言われるまま、体を離し、手を出すと、右手の薬指に光る物がはめられた。
「えっ!?」
キラキラ光る宝石が嵌まった指輪だった。
私は混乱して彼氏の顔を見つめる。
すこし照れたような彼氏の顔。そして、私を見るとこう言った。
「ユキが不安にならないように考えたんだ。約束しよう。ずっとお互いに好きでいようって・・・してくれる?」
不安そうな彼氏の顔。彼氏も不安だったんだ・・私と一緒だったんだ・・・。
「もちろん!!」
私は彼氏に抱きつく。
私の目からとめどなく涙が流れる。
でもいいや。
だってこれは、純粋な幸せの涙なんだから。
題 怖がり
怖いよ・・・
私は何もかもが怖い。
自分の部屋も怖いし、トイレもキッチンももちろん怖い。
どうしてかな?怖いのに理由があれば納得できるんだけど。
母親がいるリビング以外にいることが怖くて。
リビングから動けない。
トイレもギリギリまで我慢してしまうし、母親に、付いてきてってトイレの前まで付いてきてもらったこともある。
何で自分の家なのに怖いの?と母親からは不思議がられたけど・・・
分からない。分からないのもまた怖いな、と思う。
私には姉がいる。
姉は小さい頃から変わった子だった。
「何か家に足だけ動いてるのが見える」
とか、壁をじーっとみて、あそこに何かいるね、とか、独り言を話していると思いきや、頭の中の声と話してるとか。
頭の中の小さい女の子が遊ぼうとあまりにもうるさいから相手をしていたらしい。
その事を友達に話すと、確実にお姉ちゃんのせいじゃん!
と言われた。
そうなのかな?
姉はそんな発言をするけど、私はそこまで怖いと思ったことがなかったんだけど、実は潜在意識では怖がっていたのかな?
もしかして、この家に何かがいて私がそれを無意識に感じ取っているってこともあるかもしれない。
それを自衛本能で怖がっているだけなのかも。
姉が聞いている声は実は悪霊のもので・・・。
自分で想像して、自分で怖くなってしまった。
これは自業自得だね。
ともあれ、姉が原因だろうとそうでなかろうと一つだけはっきりしていることは、どちらにしても、私はリビング以外のあらゆる場所が怖いっていうことだ。
大きくなったら野菜嫌いを克服出来るように、この怖がりも克服したいな。
ホラー映画見れるレベルとまではいかなくても、暗い中外に出られるくらいまでにはなりたい。
私は怖がりだ。
でも、未来に希望をもってはいる。
星が溢れる
星、星、星
満天の星空を見上げて私は両手を広げてくるくる回る。
「ねえっ!キレイだね」
「こんな状況じゃなければな」
幼馴染はブスッとした顔で返事をする。
「ノリ悪いなぁ。大丈夫、何とかなるって!」
「お前につきあわされてなんとなかったためしはないんだって!」
幼馴染の健太の声を無視して、私は小高い丘の木の下に座る。家がよく見える。
お母さんと勉強のことでこっぴどく喧嘩したんだ。
家の明かりもよく見えた。
今頃、心配しているだろうか?書き置きを残して出てきたから。
「はぁ~。何で俺まで」
健太はため息をついて私の横に座る。
「いいじゃん。女一人だと危ないでしょ、ボディーガードよ!」
私の返答にも不満そうな顔をする健太。
「あのなー、前々から台風の日に冒険行くだの、大雪の日に一番深く積もった場所を見に行くだの、散々付き合わされてるんだけど、俺」
「幼馴染でしょ?」
ニコッと私が笑いかけると、健太は再びため息をつく。
「幼馴染って便利屋か?」
「まあまあ、そう言わず。見てよ、星空がキレイだよ」
私が再び夜空を見るよう促すと、健太はしぶしぶ上を見た。
「・・・本当だ、キレイだな」
漆黒の闇に、チカチカと瞬く星星は私達の心を柔らかくしてくれるようか気がしていた。
月も三日月より細い分、星の明るさが際立っていた。
「この星空を見られたなら家出したかいあったでしょ?」
「・・・なぁ、家出はもうやめて帰ろうぜ」
健太が私を見て言う。
「やだ、だって私の親宿題しないと遊んじゃだめっていうんだから」
「それはお前が宿題毎日やらなくて担任から連絡行ったからだろう」
「遊んでる方が楽しいもん。宿題なんてやりたくないよ」
「子供じゃないんだからさ。家出して解決する問題じゃないと思うんだよな・・・」
健太がそう呆れたように言うので、私はムッとする。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「時間決めてやったら?」
「分からないんだもん」
勉強をすればするほどこんがらがる。分からなくなる。漢字をずっと書いてると頭がおかしくなりそうだ。
「分からないところは、俺も教えるからさ。一緒に宿題しようよ」
健太は、そう言ってくれる。
「いいヤツだね、健太。でも、私に出来るかな?」
自信がなくてそう言うと、健太は力強く頷いた。
「大丈夫、できるよ。出来なかったらまた考えればいいから、な?帰ろう」
「・・・分かった」
正直、帰ってまたお母さんとやり合うのは嫌だった。
口ではとても勝てない。
私の気持ちを察したのか、健太が話し出す。
「ちゃんとお前の母親にも言うから。一緒に勉強するって。だから今度から家出に俺を付き合わせるなよ」
健太にそう言われて、私は胸が軽くなるのを感じる。
「ありがとっ、健太。もう家出なんてしないようにするよ、まぁ、大雪の日なら雪だるま何個作れるかチャレンジしに行くけどね〜!」
「それそれ、そういうのが嫌なんだって」
そんなことをワイワイ話しながら、私の短い家出時間は終わったのだった。