題 安らかな瞳
君を初めて見た時、高校の中庭の芝生に寝転んで目を閉じて寝ていたね。
僕は入学したてで、何も知らなくて、中庭で迷っていたから。
チャイムがなって、みんなが自分の校舎へと戻る中どうしていいかわからず立ちすくんでいた。
君の頬や髪にヒラヒラと桜の花びらが舞うのがキレイで、寝顔が安らかで・・・。
何だか、本当に意識を失っているか死んでしまっているんじゃないかとふと思ったんだ。
だって桜の木の下には何とかが埋まっているとか聞くから・・・。
「君、大丈夫?生きてる?」
おずおずと呼びかけると、彼女のまぶたが動いた。
「うーん、今何時?」
君は目を開けて僕に尋ねた。
「1時過ぎだと思うけど。さっきチャイム鳴ったから」
僕が周りに時計が無いため、勘で話すと、君は小さく欠伸をした。
「あ、そう。どしたの?君も寝過ごした?」
呑気に起き上がると、ふわふわしたウェーブヘアの髪を整える女の子。
起き上がった拍子に、顔や髪についてた桜の花びらも落ちていった。
「寝過ごしてはないけど、迷っちゃって・・・」
僕が情けなくもそう言うと、その子はクスッと笑った。
「迷子かぁ。この学校広いからね。仕方ない、連れてってあげるよ。何年何組?」
「1年C組」
僕が言うと、先輩は、立ち上がって歩き出す。
「じゃあこっちだ。私は3年A組、よろしくね、もう会うことはないかもしれないけどね」
そうしてクスッとまた笑う。その姿がまるで天使のように見えて、僕はドキッとした。それに・・・。
「3年だったんですね!タメ語ですみませんっ」
失礼だけど、背が小さいから1年生だと思っていた。
「いいよ、気にしないで。別にタメ語でもなんでも」
そう気さくに笑うと、先輩は、僕をちゃんとクラスまで送り届けてくれたんだ。
そして半年後・・・。
「先輩ってば!もう起きてくださいよっ」
相変わらず同じ場所で寝過ごす先輩を見つけてしまう僕。
すっかりアラーム代わりの役目をさせられている。
「う〜ん、もうそんな時間?」
先輩はいつも眠そうに目をこすりながら、覚醒までの時間はボーッとしている。
「もうそんな時間です。早く教室に行きましょう」
もう会わないかもと言っていた言葉はどこへやら。
僕は先輩がいつも寝過ごしてしまうのを見過ごせず、毎日のように一緒に教室に戻ってる。
「いやーでも徹くんがいるから助かってるよ〜」
先輩がそう言ってくれると、僕はドキッとする。
先輩の為になるのなら、感謝されるのなら、アラーム役でも別に構わないと思っている自分もいる。
「あっ、もう遅刻になりますっ」
校舎に入って時計を確認した僕は、先輩の手を掴む。
「行きますよ、早く!」
「あっ、待ってよ!」
こんな役得もある。僕は少しの嬉しさと大いに焦りを感じながら教室へと先輩と一緒に駆け出していた。
題 ずっと隣で
隣にいたい
あなたの隣にいられればそれだけで他には何も望まない。
「ん?」
隣で歩いている私の彼氏がこちらを見て微笑む。
私も微笑み返して、彼氏の手を握った。
握り返してくれる手が暖かい。
こんな風に一緒にいられることは、どれだけの奇跡が重なって出来たものなんだろう。
私が好きだからといって、相手も私のこと好きになってくれる保証はなかった。
逆も同じ。
私達がお互いを好きでいられて、今ここを歩いていられることが、たまらなく幸せだ。
「幸せだね」
私は彼氏の手の温かさを感じながら言った。
「そうだね」
彼氏は頷くと、繋いだ手に軽く力を入れる。
「君と出会ってからの僕は毎日楽しいよ」
「私も!私も毎日楽しい!幸せ!」
だからこそ・・・
だからこそ、これからもこの関係を続けていきたい。
途切れさせたくない。
永遠がお金で買い取れるなら魂でも売るのにな、と黒い事を考えてしまう私。
それは叶わないからこれからも努力しよう。
大好きな人とずっといられるように。
あなたの横にはいつも私がいられるように。
題 もっと知りたい
あなたのこともっと知りたい
好きなのに、何も知らない。
違うクラスだから、あなたの性格も分からない。
何色が好きなのか、どんな食べ物が好みなのか、どんなタイプの女の子が好きなのか。
質問したいことは沢山あるけれど・・・。
それでも、私は話しかける勇気すらなくて。
ここでこうしてあなたの通り過ぎる姿を見ているだけ。
廊下で掲示物を見ているふりをしながら
あなたを横目で見ているだけなんだ。
もっと近づきたいから
ここで動かない重い一歩を踏み出したい。
あなたへ声をかけられるように。
そしてよりあなたを深く知るための一歩を。
踏み出したい。
「あのっ!!」
そうして、話しかけた後はもう進むだけだ。
後戻りは決してできないから。
題 平穏な日常
何も起こらないのが一番・・・なのに
「あーちょっと・・・りんちゃん、犬が逃げたぁ!」
私の横に住んでる幼い頃からの幼馴染は、私に平穏をもたらしてくれたことがない。
「分かった!」
慣れている私は直ぐに手綱をキャッチすると、波香に渡す。
「もう、手に手綱をぐるぐるまきにしといてよ!」
波香は涙目で私にありがとうと言いながら頷いている。
こんな調子で毎日私は振り回されまくっている。
そして今の悩みは・・・
「それでね!陽斗くんがその時こう言ってくれたんだよ・・・」
「・・・あのさぁ。私勉強中なんだけど」
私が思い切り宿題してても隣に住んでいる特権を利用して構わず上がり込んでくる。
そして、彼氏ののろけを聞かされる。
はぁーと思わずため息をついてしまう。
「何?宿題なんてあったっけ?」
波香は首をかしげて甘えたような表情で私を見る。
私と同じクラスの波香は、きっと100問漢字テストの存在なんて、頭から消えているに違いない。
彼氏のことで頭が一杯なんだろう。
「明日ある100問漢字テストの勉強だけど」
私が言うと、波香、「ああああーーー!」と奇声を上げる。
「陽斗くん勉強しなきゃとか言ってたのそれかぁ。どーしよっどーしよっりんちゃん!」
「ハルトくんも勉強してるんだし、波香も勉強すれば?」
私の返答に、波香は涙目になる。
「無理だよお」
「いや、そんな事言われても私も無理なんだけど」
漢字を書いている右手を掴まれて、ゆさゆさ揺らされ、私は再びため息をつきながら言う。
「・・・もう、仕方ないな、教えてあげるから家からプリント持ってきなよ」
「ありがとっ、りんちゃん」
波香は素早く私の部屋を出ていく。
これから、波香に漢字も教えるのか・・・。
まぁ、私は3日前からちゃんとコツコツやってたからほぼ完璧なんだけど・・・。
それにしても・・・。
私は波香が出ていった扉を見て首を振る。
私の平穏な日常は、一体いつ訪れるんだろうか。
題 愛と平和
私は平和を愛してる。
だから言い争いとかケンカが嫌いだ。
でも、彼氏は喧嘩好き。
直ぐに人に突っかかっていく。
どうしてそんなカッカするの?
と聞いても、そんなの知らない、と言う。
私は疲れる。
平和がいいから喧嘩をやめてよと言う。
彼氏は好きだけど、暴力で解決してもいいことは何もないと思うから。
そうすると彼氏は怒る。
俺のやることに文句つけるな、と。
そうして私はイライラして言い返す。
私の事も考えてよって。
だんだんヒートアップしていく言い争い。
平和ってなんだっけ?
私は平和がいいのに、何だかいつも平和じゃない
その事に悲しみを覚えるけど彼氏のことを愛してる。
解決したいのに出来ないから。
私は今日も彼氏のことを止めてしまう。
平和な時間を夢見ながら。