題 月夜
月が見える
綺麗な淡い光
スウッと光が優しく伸びて世界を少しだけぼんやりと照らす
歩いている私は月を見て癒やされる
月には癒やし成分が入っているのかな
疲れている時には月の光を見ると無性に泣きたくなる
ただそこにいてくれるだけで
私を慰めてくれる
ただそこから光を投げかけてくれるだけで
私は立ち止まって永遠にその優しい光を浴びていたくなる
何もかも洗ってくれるようで
心が少しだけ綺麗になったような気がするから
ぼんやりとしたクリーム色の光に包まれて
今夜も私は目尻に涙を浮かべて月をただ見上げている
題 絆
ずっとあなたと一緒だった
だからこれからも一緒だと思ってたのに
「俺、彼女出来たんだ」
笑顔で言うあなた。幼馴染としてそばにいた私の気持ちには気づかず、あなたは他の子を選んだんだね。
「そっ・・・か。そーなんだ。先越されたなぁ〜」
私は精一杯笑顔を作る。引きつった笑顔なんだろうなぁ・・・。
「大丈夫、奈美もすぐ出来るよ」
考えてもいないんでしょ。私があなたを好きだったこと。
これまでの絆ってなんだったんだろう。
沢山過ごしてきても、恋人が出来たら一番大事なのはその子になってしまう。
「私は・・・当分いいよ、でも、裕貴とも遊べなくなるね、彼女が出来たら」
私は思わず当てつけがましいことを言ってしまう。
「え?何で?」
裕貴の返答に私は当惑した。
「え?逆に彼女が嫌でしょ、他の女の子と遊ぶとか」
私は当然の返答をした。私だって、私の彼氏が他の女の子と遊ぶなんて嫌だ。
「ええ〜そうかな〜?そういう事言う彼女なら俺、別れるよ」
「は?」
私は思わず聞き返す。そんな簡単に別れられるくらいな気持ちなの?
「あのさ、念の為に聞くけど、どういう経緯で付き合ったの?」
「え?告白されて、俺は別に好きじゃないけどって言ったらお試しでいいから付き合ってって・・・」
最低だ・・・。
「ちょっと、好きでもないに付き合うの?おかしくない?」
「いや〜、俺も断ったんだけど、押されに押されてさ。でもなー。奈美と遊べなくなるのは嫌だな。やっぱ明日断るわ。女子ではお前と遊ぶのが一番楽しいし、今んとこ彼女とかいらないや」
「あ、そ、そう・・・」
私はさり気なく言ったけど、内心はドキドキと嬉しさが止まらなかった。
この分じゃ、恋愛感情とかまだ無縁なんだろう。
それでも、もう他の子に取られるのは嫌だった。
だから・・・
「覚悟してよね」
私が裕貴にそう言うと、裕貴は、え?と首を傾げる。
「なんでもな〜い」
そう言いながら明日から裕貴にアプローチ頑張る、と決意したのだった。
題 たまには
「ねえ、たまにはこっちの道から帰ろーよ」
デートの帰り道。私はいつも帰る道とは違う道を指さした。
だってまだ離れがたい。少しでも遠回りしたいから。
「えー、何でだよ」
私の気持ちを汲んでくれることもなく、彼氏は不満気な声を出す。
「いいじゃない、たまには、ねっ?」
私は強引に彼氏の腕に自分の腕を絡めると、遠回りの道にグイグイ引っ張っていった。
「ちょっと、引っ張るなよ」
彼氏はブツブツいいながら、私に引っ張られるままだ。
少し行くと、自販機があった。私が好きなキャラのコラボのイラストが書かれたジュースが売っている。
「ああっ、これっ!!!」
今店頭では売り切れ状態だから、私は興奮して自販機に貼り付く。
彼氏がゆっくりと自販機に近づいて来た。
「これか、菜乃花好きだよな。このキャラ」
「うんっ、好きどころか愛してるよ!!もーここで会えたなら死んでもいいっ!!」
私が興奮しながら財布を取り出しているのを見て彼氏は呆れ顔。
「死んでもいいって・・・大げさだな」
「あるだけ買っちゃお〜っと♪」
「おいっ、そんなに買っても持てないだろ」
自販機のジュースを買い占めようとする私を彼氏は必死に止めて、渋々3本で我慢する。
3本のペットボトルを抱えてニコニコした顔で私は彼氏に笑いかけた。
「やっぱり、たまには違う道もいいよねっ」
私が、ニヤニヤしてコラボジュースのイラストを見ていると、彼氏がボソッと言う。
「俺よりそのキャラの方が好きみたいだな」
私はその声を聞き逃さなかった。
「もしかしてヤキモチ?可愛い〜」
彼氏の言葉に胸がキュンとする。
「違うって。そういうつもりじゃ・・・」
彼の否定の言葉を遮るように、私は彼のホッペにキスをする。
「大丈夫、あなたがいつも一番好きだから。心配しないで」
私の笑顔に、かぁぁと顔を赤くする彼氏。
「心配なんかしてないしっ」
そう言いながらも、私のペットボトルを3本とも回収して自分で抱える。
「あ、あああっ」
私が悲痛な声を上げると、彼氏は私を見て拗ねたように言った。
「これは、家につくまで俺が預かっとくから、家に帰ってから見ろよ」
「うん、分かったよ」
それでも、彼氏が妬いてくれたのが分かったので、嬉しくて、思わず頬が緩む。
私は彼氏の横に並ぶと、「行こっか?」と、いつもとは違う回り道を存分に楽しんだのだった。
題 ひなまつり
私は小さい頃からひな祭りが怖かった。
どうしてかって?
だって、お内裏様の視線が怖かったから。
まるでこちらを見ているようで、テレビを見ていても、テレビの横に出された雛人形に視線を移さないように必死だった。
トイレに行くときもお内裏様の前を通るのが怖くて仕方なかった。
毎年毎年お母さんに、今年は雛人形は出さなくていいよ、というものの、何言ってるの!と一蹴されるだけだった。
でも・・・理屈じゃなくて、なんか・・・なんか視線が合うような気がして。
どんな角度に変えても、見ると視線が合っているような、こちらを見ているようなゾッとするような気持ちになる。
その理由を私は分からないまま、ただ、お内裏様にいわれのない恐怖を抱きながら成長していた。
やがて私も成長し、結婚して娘を授かった。
私は雛人形を買うのが怖かった。
娘のためにも雛人形は買ってあげようと夫に促されて、雛人形の売っているコーナーに行ったとき、不思議と人形が全然怖くなかった。
私の持っていたのは、三段の大きなお雛様、お内裏様、三人官女が飾ってあったけど、お店には小さな両手で持てるケースに収められたお内裏様とお雛様だけで、顔も可愛らしいと感じた。
私の小さい頃の記憶は何だったんだろうか。子供だから、記憶に補正が入っていたんだろうか?
それとも、人形が小さいからこそ表情があまり気にならないのだろうか。
どちらにしろ、その時、私の恐怖心は綺麗に消えてしまったんだ。
それでも、娘が3歳になった時、娘が私の腕にしがみついてこう言った。
「ママ、お内裏様が私のことにらんでる」、と。
題 たった一つの希望
住めなくなった地球
大気汚染と核戦争の末遺伝子異常を起こした生き物。
人間も例外じゃなかった。
遺伝子の異常をきたした人間の足や腕や目の数がおかしくなり、人類の選別が行われた。
遺伝子異常がある人間は地上に置き去りにし、異常がない人は地下へと隔離して、地下で子孫を残していた。
地上の汚染は深刻で、地上の物は食べられないのに地下では人口が増え続けた。そして慢性的な食料不足に陥っていた。
地上には遺伝子異常がありながら生きている人類がいたのに、遺伝子異常がない人々はそれらを人と見なさなかった。
人類は食料や資源確保の為に他の星に移住することを考えた。
約150年の長い歳月をかけて地下では遠くの星まで行けるロケットがようやく完成した。
悲願が達成されて祝福ムードに包まれた人類。
この頃には食料不足での戦争が頻繁にあちこちで起こり、略奪、強奪など、治安が悪化しまくっていた。
そんな中、選ばれた地下人類が住める惑星を探索する旅に飛び立つことになった。
地下の人々は、ロケットに希望を見出し、新たな安住の地を求めた。
希望を探索乗せたロケットは静かに飛び立った。
地下に住んでいたロケットの乗組員は久しぶりに地上に出た。
何百年も地上は死滅の灰の地と言われ、誰も出てはいけなかった。
地上に出たとたん、眩しい光がロケットの乗組員を襲う。
眼の前に広がった光景に、乗組員達は絶句した。
そこは核戦争の跡形もない美しい緑と水が溢れる惑星だった。
遺伝子異常を起こした人と生き物はいたものの、みな幸せそうな顔をして暮らしていた。
ロケットの乗組員は放射能の数値計スイッチを押す。
その数値は充分人類が住んでも問題がない数値まで落ちていたのだ。
乗組員たちは戸惑いの表情で顔を見合わせる。
希望の地として探していた場所は実は地上だったのではないか?
けれど、今地上に住むことは出来るのだろうかという疑念も沸く。
地上の住人は選別され、言わば捨てられたのだ。
地下の人間が地上に住むことで争いが起こるだろう。
乗組員達は再び顔を見合わせて頷く。
ロケットはそのまま計画通り安住の惑星を求めて飛び立つ。
地上の秘密を地下で打ち明けるのはまだ早い。
安住の地が他の惑星に見つからなかった時に考えても遅くない。
ロケットの乗組員達は皆複雑な表情で、遠ざかっていく緑の地球を眺めていた。