題 たまには
「ねえ、たまにはこっちの道から帰ろーよ」
デートの帰り道。私はいつも帰る道とは違う道を指さした。
だってまだ離れがたい。少しでも遠回りしたいから。
「えー、何でだよ」
私の気持ちを汲んでくれることもなく、彼氏は不満気な声を出す。
「いいじゃない、たまには、ねっ?」
私は強引に彼氏の腕に自分の腕を絡めると、遠回りの道にグイグイ引っ張っていった。
「ちょっと、引っ張るなよ」
彼氏はブツブツいいながら、私に引っ張られるままだ。
少し行くと、自販機があった。私が好きなキャラのコラボのイラストが書かれたジュースが売っている。
「ああっ、これっ!!!」
今店頭では売り切れ状態だから、私は興奮して自販機に貼り付く。
彼氏がゆっくりと自販機に近づいて来た。
「これか、菜乃花好きだよな。このキャラ」
「うんっ、好きどころか愛してるよ!!もーここで会えたなら死んでもいいっ!!」
私が興奮しながら財布を取り出しているのを見て彼氏は呆れ顔。
「死んでもいいって・・・大げさだな」
「あるだけ買っちゃお〜っと♪」
「おいっ、そんなに買っても持てないだろ」
自販機のジュースを買い占めようとする私を彼氏は必死に止めて、渋々3本で我慢する。
3本のペットボトルを抱えてニコニコした顔で私は彼氏に笑いかけた。
「やっぱり、たまには違う道もいいよねっ」
私が、ニヤニヤしてコラボジュースのイラストを見ていると、彼氏がボソッと言う。
「俺よりそのキャラの方が好きみたいだな」
私はその声を聞き逃さなかった。
「もしかしてヤキモチ?可愛い〜」
彼氏の言葉に胸がキュンとする。
「違うって。そういうつもりじゃ・・・」
彼の否定の言葉を遮るように、私は彼のホッペにキスをする。
「大丈夫、あなたがいつも一番好きだから。心配しないで」
私の笑顔に、かぁぁと顔を赤くする彼氏。
「心配なんかしてないしっ」
そう言いながらも、私のペットボトルを3本とも回収して自分で抱える。
「あ、あああっ」
私が悲痛な声を上げると、彼氏は私を見て拗ねたように言った。
「これは、家につくまで俺が預かっとくから、家に帰ってから見ろよ」
「うん、分かったよ」
それでも、彼氏が妬いてくれたのが分かったので、嬉しくて、思わず頬が緩む。
私は彼氏の横に並ぶと、「行こっか?」と、いつもとは違う回り道を存分に楽しんだのだった。
3/5/2024, 12:20:50 PM