題 ひなまつり
私は小さい頃からひな祭りが怖かった。
どうしてかって?
だって、お内裏様の視線が怖かったから。
まるでこちらを見ているようで、テレビを見ていても、テレビの横に出された雛人形に視線を移さないように必死だった。
トイレに行くときもお内裏様の前を通るのが怖くて仕方なかった。
毎年毎年お母さんに、今年は雛人形は出さなくていいよ、というものの、何言ってるの!と一蹴されるだけだった。
でも・・・理屈じゃなくて、なんか・・・なんか視線が合うような気がして。
どんな角度に変えても、見ると視線が合っているような、こちらを見ているようなゾッとするような気持ちになる。
その理由を私は分からないまま、ただ、お内裏様にいわれのない恐怖を抱きながら成長していた。
やがて私も成長し、結婚して娘を授かった。
私は雛人形を買うのが怖かった。
娘のためにも雛人形は買ってあげようと夫に促されて、雛人形の売っているコーナーに行ったとき、不思議と人形が全然怖くなかった。
私の持っていたのは、三段の大きなお雛様、お内裏様、三人官女が飾ってあったけど、お店には小さな両手で持てるケースに収められたお内裏様とお雛様だけで、顔も可愛らしいと感じた。
私の小さい頃の記憶は何だったんだろうか。子供だから、記憶に補正が入っていたんだろうか?
それとも、人形が小さいからこそ表情があまり気にならないのだろうか。
どちらにしろ、その時、私の恐怖心は綺麗に消えてしまったんだ。
それでも、娘が3歳になった時、娘が私の腕にしがみついてこう言った。
「ママ、お内裏様が私のことにらんでる」、と。
3/3/2024, 12:28:32 PM