嗚呼、全てが憎らしい。
その善意を、その配慮も、全てに嫌気が差す。
私は、かつてとはそんなにも違うのだろうか。
きっと、これらの現象を無知と言う。
気遣いは美徳だと思う。
しかし、大抵は悪手と成り得るのだ。
自らの実感として思う。
こうして人は、人で無く成るのだ。
対等に見られず、声は届かず、皆、五感を閉ざすのだ。
そして、私は蝕まれ、やがて、言われるのだ。
何を考えているのか、分からないと。
私は、目を覆う。
天才と呼ばれる、同窓の友は眩しかった。
彼ほど優れた才を有する人を、私は知らない。
きっと、代々、これから私の子孫は彼の子孫に仕える事と成る。
何故か、そう確信した。
魅せられるとは、将にこの事だ。
私は、分かっていた。
彼の側に居るのなら、身を削ると。
しかし、彼に仕える事以外、彼に従う事以外、考えられなかった。
だから、私は歴史に遺らぬ天才に仕えたのだった。
私の子孫に問う、彼の子孫に仕えているのか。
「ええ、仕えて居ますよ。
今でも尚、私は彼の子孫に仕えて居ます。
あの時から一度も途絶える事無く、失脚も、没落も、乗り越えて。」
先祖たちの文章を見て思う。
血が滲んでいると。
リアルで血が滲んでいるのでは無い。
思いが籠っている、という意味だ。
私たちの家は、それはそれは古い部類の家だ。
その分、多くの先祖の文章が残っている。
今尚、私自身、間繋ぎの当主とは言え、文章を遺している。
私に子は居るが、孫やその先の世代の事など想像出来ない。
私たちの家は、確かに生き残ってきた。
それは、唯、運が良かったに過ぎない。
だからこそ、恐ろしい。
将来とは、恐ろしい。
私の成している事が、将来の弊害に成らぬ事を祈る。
それだけしか、私は遺してやれぬのだから。
輝かしい 全てを隠し 発される
安らぐ暇 落日の日々
母上さま、貴方は私を何故、息子にして下さったのですか?
何度も窃盗を繰り返し、全てを憎んでいた私を、
貴族である貴方は何故、養子にして下さったのですか?
貴方は、最期に私を後継ぎにまで指名して下さいました。
何故ですか?
何故、いつも口を閉ざされていたのですか?
私を評価して下さる時は、あれほどまでに饒舌ではありませんか。
母上さま、どうか、もう一度だけ目を覚まして下さいませんか?
最後の最期です。
私が貴方にわがままを聞くのは…。
主よ、どうか、お願い致します。
母上さまを、少しの時間だけ蘇らせて下さいませんか?