森を歩くと、たまに嫌な予感を感じる場所がある。
地元の人間なら誰一人として近付かない、そんな場所がある。
そこには、何か得体の知れないものがいるような感覚になり、
そこに踏み入れると、自然と冷汗を流れ、血の気が引く。
『ここに居てはいけない。』
そう直感し、私は急いでそこから離れる。
そこに踏み入れれば、森の外へ一度出なければならない。
そう云われて、育ってきた。
だから、必死に無我夢中で急いで森を走り抜けて、森の外へ出る。
とにかく、走った。
息が切れても、不思議と身体は走るのを止めなかった。
森の外へ出るまでは。
汗は滝のように流れ、森の外の集落に辿り着いた時には、
身体はもうフラフラで、地面に倒れ込んだ。
そこからの記憶はまるで無い。
どうやって、帰宅したのかも憶えていない。
唯、あの場所には山神などと呼ばれる、何かが確かに居たようだった。
夢は、かつて眠る時に見るものという意味しか無かったと聞く。
dreamという言葉に影響され、
将来の目標や未来の理想像などの意味を含むようになったと記憶している。
夢は、好いものだと思う。
夢を持てば、生きる覚悟が固まるように思うから。
必ずや叶えたい、そう心から望み欲すことで人生は変わると、
私は信じている。
夢は歴史を通じ、何度ども繁栄を齎し、何度ども廃れを齎し、
何度ども良くも悪くも、世界を変化させてきた。
それは、紛れも無い事実だと思う。
そして、私は夢を叶える為に努力する、
全ての人を尊敬し、応援し、信じている。
もし夢が叶わなくとも、その夢の為に努力した日々は、
決して無駄では無い。
寧ろ、それは生きる糧であり、宝なのだから。
だから、夢は気が済むまで、存分に努めて描くと好い。
私にとって、異性とは美しい。
同性に比べて、ずっと穏やかで聡く、何よりも魅力的だ。
しかし、異性とは毒や棘などを有せることを忘れてはならない。
それらすら、異性は魅力にしてしまうことも忘れてはならない。
やはり、異性とは、聡く強く美しい。
これだから、私は異性に惹かれ惚れ込んでしまう。
嗚呼、なんと魅力的なのだろうか。
私も異性として、生まれたかったものである。
時折見られる、友人の横顔が私は好きだ。
友人の横顔は、同性ながら異様なほどに美しい。
一見すると唯、目を閉じて微笑む、
どこか宗教画を思わせる、上品で柔和な表情だ。
しかし、閉じられたように見える上品な目蓋からは、
全てを見定めるような冷え切った眼差しが覗き、
微笑んだように見える柔和な唇からは、
全てを見切ったように冷笑が浮かべられていた。
これこそ、友人の本来の姿なのかも知れない。
私は、そう感じる。
友人は、この国の高貴な方の血を僅かに引く身の上だ。
憶測だが、友人は周りが求める虚像の型に収まりながらも、
友人の性分を現しているように思った。
「器用だな。」
私は、小さく呟いた。
「鋭いね。」
友人は、小さく応えた。
どうやら、私が友人の性分を感じ取っているように、
友人は私の考えている事が解っているようだった。
かつて、私が人を愛した時の話をしよう。
人を愛する事くらい、我々にとっては珍しくないことだ。
恋は良いもので、短い時を共に過ごしても鮮明に思い出せる。
何百年と経った今でも共に過ごした人の体温、香り、声すらも憶えている。
しかし、顔はもう忘れてしまった。
唯、あの人の背中や仕草は朧げながら憶えている。
時とは非情なもので確実に少しずつ、あの人の忘れていってしまう。
あの人のことを、もう思い出せなくなる日が訪れるのやもしれない。
それだけは、永遠に近い月日を生きている欠点だろう。
だから、私はもう人を愛せない。
あの人と共に過ごした、愛しい日々を忘れてしまいそうだから。
『過去に執着など、人のようだな。』
そう同胞に嘲笑われる、しかし、私は彼らより幾分繊細なので仕方ない。
『死すれば、次に愛する者を見つければ良い。』
そう同胞に励まされる、しかし、もうあの人は居ないのだ。
それを私は、受け入れられない。
僅か数十年、本当に短い月日だった。
あの人と、もっと過ごしたかった。
それを数百年、引きづっている。
やはり、私は思うのだ。
この感覚を大切に紡ぎたいと、そう願っているのだ。
私は繊細だが、時など永遠に等しい月日あるのだから、
滑稽にも思える、この思いを大切にするよ。
愛する者が現れる、その日まで。